第118話 聖女の娘と見えざる蜘蛛の巣
シャロンは椅子に座ったまま、悠然とこちらを見ている。自分が手を下すことはない、全ては捕虜たちがやってくれると言いたげだ。
(みんな……こんなに変わり果ててしまって……)
(ジナイーダさん、大丈夫だ。少し『手応え』を見る必要はあるが、必ず貴女の部下は元に戻してあげられる。少し時間を稼ぐぞ)
(は、はい……分かりました。スフィアちゃんのお父様、頼みます)
短い返答ではあったが、十分にジナイーダ将軍の想いが伝わってきた。こうやってスフィアに精神体の状態で宿っていると、人の感情に対して敏感になり、感化もされやすくなる。それで心を乱すようなことはないが――湧き上がってくるものは否めない。
(お父さん、怒ってる……)
(すまない、怖がらせるつもりはなかったんだが)
(ううん。他の人のことを、自分のことみたいに怒れるから、お母さんたちもお父さんが好きなんだと思う。私も、そんなふうになりたい)
(逆にそこまで褒めてもらうのも、照れるものがあるな……)
完璧な人間のように見えても、スフィア自身がまだ足りないと思っていることがある。しかし父親としては、怒ることのない穏やかな性格でいてもらいたいと思いもする――そんな俺の甘さに、スフィアは笑顔を見せる。
「何を笑っているの……? まだ状況が分かっていないの?」
「いいえ、わかってます。あなたにお仕置きをしなきゃいけないっていうことは」
「……そう……ジナイーダの庇護を受けて調子に乗っているようだけど、彼女が頼りにならない状況だとは分かっていないようね」
(まだ、彼女は勘違いをしているわ。庇護するどころか、私の方が助けられた側なのに……スフィアちゃんが可愛らしいから、魅了が得意なノスフェラスのお株を奪ってしまったみたいね)
(そ、そんな……私、可愛くなんてないです。自分でも、なまいきかなって思ってます)
スフィアはあえて挑発しておきながら、そんなことを言う。だが、念話でやり取りをする俺たちの空気が気に食わなかったのか、シャロンは整った眉をひそめ、隠しもせずに殺気を放ち始めた。
「子どもの方が、精気に満ちていて美味しそうだけれど。まずはかつての上官に、今の身分を分からせてあげなさい……私の愛すべき下僕たち……!」
「「「――ガァァァッ!!」」」
室内にいた捕虜たちが十数人、そして広間に通じている通路からも、生気のない青ざめた顔をした捕虜たちが、牙をむき出しにして吼えながらなだれ込んでくる。
先程まで柱を回し続けていた捕虜は、足枷としてつけられていた鉄球のついた鎖を引きちぎり、フレイルのようにしてスフィアに叩きつけようとする――だが、そんな単調な攻撃では当たりはしない。
しかし混戦においては、ただ避けて反撃を打ち込めばいいというわけではない。
(――普通にかわしたら、他の捕虜の人に当たっちゃう……!)
(スフィア、少し力を使うぞ……!)
スフィアはアイリーンの技の多くを模倣することができる。体術で回避することは容易だが、他の捕虜たちから死傷者を出さないようにとまで考えると、魔法に頼った方が有効な場面だ。
このままフレイルをかわすと、後ろから攻撃しようとしている捕虜に命中する。ジナイーダ将軍が接近戦でどんな立ち回りをするかも未知数なので――ここはまず、敵のリズムを乱すことから始めるべきだろう。
(光剣を呼ぶまでもない、俺の再現で十分だ。まずは、敵の目を灼く……ジナイーダさん、俺が視界を保つための補助魔法をかける! 信頼して受け入れてくれ!)
(っ……ええ、分かったわ!)
――白光の闇――
「「「グガァァッ……!」」」
スフィアの全身から眩い光が放たれ、襲いかかろうとする捕虜たちの視界を封じる。
「っ……小賢しいことを……!」
その反応からすると、目くらましをされることを想定すらしていない――それでは実戦経験が足りていないと言わざるを得ない。
シャロンは席を立ちかけたが、途中で思いとどまる。目くらましを仕掛けたこちらからは敵の状況を完全に把握できるが、向こうは何も見えていない。俺の補助魔法で視界を維持したジナイーダさんは、すでに捕虜たちの攻撃範囲から退いていた。
「どのみち逃げられはしない……押しつぶしてあげなさいっ!」
だから、こんな安易な方法を選択してしまう。スフィアが人工精霊だと理解していないから、『押しつぶす』などという発想が出てくるのだ。
(ジナイーダさん、敵の的はこちらに向いている。一歩引いて待ってもらえるか、『準備』はくれぐれも解除しないようにな……!)
(お父さん、かわしちゃっていいんだよね?)
(『囮』を的として出しておくぞ。何も無いと同士討ちをするからな)
(うんっ……石の精霊さん、私の声に応えて! 『無辜の石柱』!)
スフィアが実体化を一時的に解除する――そののちに、足元の石床に宿る精霊に呼びかけ、自分の体格と同程度の大きさの石柱を突き立たせる。
建造物を媒介にしてこの魔法を使うと、本来の形と変えてしまうことにはなる――だが、確実に攻撃を受け止めるだけの質量を借りるには、石床に働きかけるしかない。
部屋に、石を思い切り殴りつける音が響く――武器を持っている者もいたが、素手で襲いかかってきた者もいたので、苦鳴が幾つも上がる。
「仕留めた……仕留めたのね? やっとこれで、解放される……」
椅子から立ち上がろうとしていたシャロンは、銀の髪を撫でつけながら震えるような息を吐く――俺とスフィアに『背中』を向けた状態で。
「ぐぅっ……」
「がっ……!」
シャロンの左右に控えていた捕虜が、前のめりに倒れる。彼らは俺たちが背後で実体化したことに気づきもしないまま、スフィアの放ったアイリーン直伝の手刀で意識を刈り取られていた。
「……なっ……!?」
光が収まったとき、シャロンが目にしたものは――美しい円柱状に形成された石の囮を前にして呆然としている捕虜たちと、彼らを後ろから見ているジナイーダさん。そして、自分のそばで倒れている二人の姿だった。
「こ、こんな……こんな、ことがっ……」
「お父さんは、もう悪いことをしないと約束して、降参するように言ってます。手加減をしなかったらどうなっていたか、あなたも分かっているはずです」
「っ……スフィアちゃん、まだ、シャロンは諦めていない……っ!」
シャロンの配下は、捕らえて従わせたジナイーダさんの部下たちだけではなかった――『夜を這う者』の特性か、天井に潜んでいた無数の蝙蝠が、突如として俺たちの頭上から襲いかかってくる。
そしてシャロン自身の身のこなしも、なかなか大したものではあった。瞬きのうちに椅子に座っている態勢から、空中から蝙蝠と共に急襲してくる――疑似転移ではなく、純粋な身体能力のみでそれを可能にしている。
「――こんなことでっ、このっ、私がっ……!」
激昂したシャロン――Aランク冒険者くらいであれば、この気迫が魔獣にも匹敵して見えるのだろうが、俺はそれくらいでは動じない。
ジナイーダ将軍に念話で次の指示を出したあと、俺はスフィアと共にある魔法を詠唱する。仲間を守るために使う魔法は、手を上げるまでもない相手への制裁にも使うことができる――。
「そんな攻撃では、私には届きません……反省してください!」
――『防壁の二重檻』――
四重にまで展開できる防御結界だが、そこまでする必要はなかった。飛びかかってきたシャロンを弾き飛ばし、無数に降り注ぐ蝙蝠たちもなすすべもなく、防壁にはね飛ばされて床に落ちる。
「くぅっ……あぁ……!」
それだけでは済まない――結界を急速に拡張させ、シャロンが抵抗する間もなく天井に叩きつける。重い衝撃と共に天井に亀裂が入り、パラパラと石片が落ちてきた。
「うぐっ……けほっ、こほっ……」
結界をゆっくりと元の大きさに戻すと、滑り落ちたシャロンは床に倒れ込み、喀血する――やはり、実力が違いすぎる。
「はぁっ、はぁっ……こんな敵がいるなんて、聞いてない……ジナイーダさえ弱らせておけば、問題は無かったはずなのに……なぜ……っ」
「……もう、降参しますか? 降参するなら……」
スフィアが近付こうとすると、シャロンはそれでも負けを認めず、上半身を起こす。首筋まで濡らした自らの血に構わず、彼女は笑っていた。
「いいの……? 私をこんなに追い詰めて。ジナイーダ将軍の可愛い部下たちを、生きる屍に変えるかどうかは、私の胸ひとつで決まるというのに……ふふっ、ふふふっ……」
(ああ、もうそれについても解決した。今、自分の血を床にこぼしたな……おかげで、どんな方法で捕虜たちを従わせているのかが解析できた。血を媒介にした魔法だな)
「嘘を言わないで、夜を這う者の力からは、誰も逃れられはしない。この私自身ですらそうなのに、ただの人間に何が……っ!」
「私は……普通の人とは違います。お母さんたちの力を引き継いで、お父さんに使い方を教えてもらっているんです。一度見た魔法は、複雑なものでなければ解析できます。それが『呪い』に類するものでも」
「――そんな戯言っ、私は信じないっ!」
敵の魔法がどんな原理で働いているか、俺は常に分析する役目を担っていた。何をされているかも分からなければ、相性の悪い相手に、ランクの差を覆される敗戦を強いられることもありうる――冒険者にとって、戦闘での敗北はほぼ死を意味する。
だから信じないと言われても、これくらいのことはできなければ、種族ごとに違う特殊能力を持つ魔族の国に乗り込もうなんて酔狂は考えられない。
「私はいつでも逆転できる……従僕たちは私の支配から逃れてはいない。ジナイーダ、貴方を殺す、その命令さえ果たせば……っ」
「シャロン……貴女は家のしがらみを嫌って、王宮を離れていたはず。その貴女がなぜ、グラスゴールに従って、こんなところで番人をしているの?」
「……っ、う、ぅ……っ!」
ジナイーダ将軍の質問に、一瞬シャロンは返答しかけた。だが、見えない手に首でも絞められているかのように苦しみ始める。
「グラスゴール……一体、どこまであなたは……っ」
ジナイーダ将軍が怒りに声を震わせる。今の会話だけで、ある程度は察することができた。シャロンはこの牢獄の番人という役目を、何者か――おそらくはグラスゴールによって強制されているのだ。
その呪縛から解放されるには、与えられた命令に従うしかない。ならば、俺達はどうすることが最善と言えるのか。
(お父さん、私……シャロンさんを……)
(……グラスゴールを倒すまで、シャロンには俺たちの指示に従ってもらった方がいい。そのためには、呪縛を解いておかないとな)
(うん……ありがとう、お父さん)
最も、シャロンが許されるべきかどうかを決めるのは、今もシャロンの命令を待ち続けている捕虜たちだろう。
「さあ、私の下僕たち……その娘とジナイーダの血を吸って、仲間にしてあげなさい……!」
自らを苦しめる呪縛から逃れるため、シャロンはその赤い瞳を輝かせる。
「……なぜ……なぜ動かないの? すぐ後ろにジナイーダがいるのに、なぜっ……!」
しかし、捕虜たちはもはや一歩も動くことはできない。この部屋に入った時から今に至るまでに、シャロンは勝ち筋を絶たれていることに気が付かないでいた。
「この部屋には、私の『糸』が張り巡らされている……見えない蜘蛛の巣にかかったようなもの。私が衰弱していると思っていたようだけど、この子が一緒にいることを、もっと疑問に思うべきだったわね」
「……魔族と、それ以外で、魔力の受け渡しができるなんて……ジナイーダ……っ!」
なぜシャロンが憤っているのか。牢獄で衰弱していたジナイーダさんが、スフィアの魔力を分けてもらって回復した――種族が異なるのにそれを成し得た理由を、あらぬ方向で想像しているからだろう。
「……私は純血の『妖糸使い』。人間に近い姿はしているけれど、その事実に変わりはなく、誰も欺いてはいないわ」
「それなら、なぜ……っ」
「私の魔力は、どんな種族の人にでも分けてあげられると思います。その、たくさんの種類の魔力が混ざりあって、今の私がいるので……」
スフィアが人工精霊という事実を伏せると、とてもシャロンには納得のいく説明ではなかったようだった。だが、『人族と魔族の魔力が相容れない』という考えすら、俺からすれば慣習に囚われた古い発想だ。
(生命を根源として生じる魔力は、ちょっとした手続きを経るだけで、他の生物に分けられるようになるんだが……これは、補助魔法を長く使わないと分からない感覚か)
(お父さん、それより、シャロンさんと捕虜の人たちを解放してあげなきゃ)
(ああ、そうだな……スフィア、『解呪』はできるな)
(うん、もちろん。だって、それはユマお母さんの得意技だから)
そう、『鎮魂』――ノスフェラスを見たときから、俺は彼らが、ユマにとっては『鎮めなくてはならない』対象に見えることを理解していた。
レイスクィーンとも違うが、ノスフェラスはおそらく上位の不死者なのだ。アルベイン神教の僧侶は不死者を浄化するための修行を積むが、ユマは生まれながらにして、その分野において並ぶもののない力を持っている。
「い、一体、何を……いやっ、消えたくないっ……!」
「怖がらなくても大丈夫です。ユマお母さんの『鎮魂』は、魂の穢れ……『呪縛』だけを、あなたたちの身体から取り除いてあげられるんです。ジナイーダさん、『糸』をお借りしますね」
「……私の能力を、こんなふうに使えるなんて……スフィアちゃん、あなたは、どこでこんな力を手に入れたの……?」
ジナイーダさんの作ってくれた、糸による結界――それは、『蜘蛛の巣』とも呼ぶべきもの。本来ならそれは、ジナイーダさん本人の魔力を巣に捕らえた相手に送り込むなどの使い方ができる。
最初に彼女の『糸』を見た時、それが敵を拘束するためだけでなく、他にどんな利用法があるのかまでを見抜くことができた。『視力強化』を用いることで、俺はあらゆるものの構造を見通すことができる――それが、通常では目に見えないほど微細な糸であっても。
その糸が、捕虜たちの動きを止めている。しかしそれだけでは、暴れ狂って拘束した部分に糸が食い込み、軽くはない怪我を負うことになっただろう。
それを防ぐには、相手の敵意を鎮めてやればいい。シャロンが彼らから血を吸い、その代わりにわずかに自らの血を送り込むことによって、それを媒介にして彼らを従わせている。その血が生み出す力を抑え込み、浄化してやればいいだけだ。
(もっとも、そんなやり方はユマと、その力を受け継ぐスフィアにしかできない。俺でも真似できないことの一つだ)
(ううん、お父さんもできるよ。お父さんは、お母さんの力を借りることができるから)
(それは、借りるだけだからな。俺にもできないことがある、それでいいんだ)
「うん……わかった。じゃあ、今は私が、お父さんの分まで頑張る……!」
スフィアの髪が、ユマの髪色に近づく――そして、彼女の身体の内側から、穏やかで、けれど厳かな聖なる力が溢れてくる。
「迷える魂を苛む呪いの茨よ。アルベインの神の名のもとに、慈悲の光の中で解けよ……!」
「あ……あぁ……っ!」
「「「アァァァァッ……アァァ……!!」」」
断末魔のようにも聞こえる捕虜たちの声――その声から、苦しみの色が薄れていく。
俺の目には、『糸』を介してシャロンと捕虜たちに送り込まれたスフィアの浄化の力が、彼らを縛り付けていた呪縛を解いていくさまが見えていた。それぞれの精神体を拘束していた霊体の茨が、光に包まれて消えていく。
一様に青ざめていた捕虜たちの顔に、わずかに生気が戻る。そのうちの一人は膝を突き、崩れ落ちそうになりながら、ジナイーダさんを見て声を発した。
「……ジナイーダ様……私たちは、もしや、あなたを……」
先程までの獣のような唸り声が嘘のように、正気を取り戻した捕虜――女性の兵士は、意味の通じる言葉を発する。ジナイーダ将軍は彼女に歩み寄り、その場に膝を突いて、肩に手をかけて労った。
「いいのよ……今は、少し休みなさい。目覚めた時にも、私たちが傍にいるわ」
「……ああ……本当に……あの、小さな女の子が、私たちを……」
「ええ……スフィアさんと、彼女に宿るお父さんが助けてくれたのよ」
「い、いえ……私は、お父さんの言うことを聞いて、そのとおりにしただけですっ」
ジナイーダさんに敬称をつけて呼ばれ、スフィアはしきりに恥ずかしがる。俺の実体があれば頭を撫でてやりたいが、今はそういうわけにもいかない。
シャロンも気絶しているが、おそらく呪縛は解くことができている。彼女の精神体だけは、黒い茨に包まれていた――他の捕虜と同じ方法で、彼女自身も従わされていたということだ。
(この、黒い茨……そういうことか)
(お父さん、これ、ルガードっていう人と……)
(そうだ。ルガードがシャロンを従わせていた……ルガードは何らかの方法で、ノスフェラスの能力を手に入れたんだ。そして、シャロンに血の呪縛をかけた)
人間が魔族の力を得る方法は一つではない。遺跡迷宮の『祭壇』で魔物に変化してしまったクライブとは、また違う方法があったということだ。
このラトクリスでも遺跡が見つかり、国王はそれを封印しようとした。グラスゴールはそれに賛同せず、叛逆した。
実戦に投入されていた混成獣。俺たちが遺跡迷宮で遭遇したドラゴンキマイラ――そして、魔族の力を得たルガード。全ての要素が、一つに繋がろうとしている。
「スフィアちゃん、お父様……私は部下の回復を待って脱出し、必ず合流するわ。だから、先に……」
(回復なら、スフィアの魔法を使った方がいい。牢獄から出る前までは、一緒に行動した方がいいだろう。済まないが、ジナイーダさんのことは戦力として期待してるからな)
「私は……本当に、力になれている? 本当の強敵が現れたとき力が及ばず、あなたたちの足を引っ張ってしまったら……」
グラスゴールに敗れたことを、ジナイーダさんは今も悔いている。捕虜にされている間に衰弱した部下たちを見て、自責の念をさらに強めているようだった。
(シャロンについては、済まないが当面は行動を制約させてもらう。彼女の力を借りる場面があるかは分からないが、スフィアなら自分の権限で、シャロンを眷属にすることができる。従属契約ってやつだ……もう一人、レイスクイーンのベアトリスとも契約しているが、特に契約できる人数には制限がないからな)
「っ……シャロンは高位魔族で、容易に契約など受け入れないはず。それなのに、どうやって……あっ……!」
ジナイーダさんは自分で言いかけて気がついた。
そう、スフィアは魔王ヴェルレーヌの娘だ――全ての魔族と従属契約を結ぶことができる、最高位の魔族でもある。
「……一時とはいえ、あなたたちの指揮下に入るのだから、私も契約を結ぶべきね」
「お父さんは、シャロンさんの能力は危ないから、契約で保護しておきたいって言ってます。ジナイーダさんは、とても強いので大丈夫です」
簡単に契約を連発していたら、それこそ俺が魔王になってしまう。もっともヴェルレーヌのおかげで、魔王という言葉の悪印象はすっかり無くなってしまったが。
「そうね……将軍ともあろうものが、いくらあなたたちが強いからといっても、簡単に庇護を求めてはいけないわね。足を引っ張らないよう、力を尽くさせてもらうわ」
まだ少女のスフィアに対して、ジナイーダ将軍は最大限の敬意をもって接してくれる。ひとまず地上に出るまでには、できるだけ早く彼女の装備を見つけたいところだ――今のままで強敵に遭遇しては心もとない。
そしてジナイーダ将軍の部下たちには、回復次第可能な範囲で俺たちに協力してもらう。極力戦闘はさせられないが、今後のことを考えると、ジナイーダさんの部隊を再建しておくに越したことはないだろう。
「お父さん、みんなのご飯を作ってあげなきゃ。上に行けば台所があるかな?」
腹が減っては戦はできぬと言う。早くルジェンタ城にいる仲間たちと連絡を取って安心させたいところだが、着実にことを進めていきたいところだ。