少年はかく語る
六月十九日
僕は今、全てを忘れて、家のごたごたも街を襲うごたごたも玲子先輩の家を襲った悲劇も、全て忘れることにしてここにいた。
僕は、よほど、タイヘイに嫉妬を買われていたようだ。
僕は、小学生の頃から、カスミさん一筋なので、かりに本当に玲子先輩が僕に好意を持っていようと、関係ないのだけれど、とにかく、玲子先輩と僕をくっつけないようにしようとしたらしい。
どういうわけか、いや、そういうわけで、僕は駅前で、カスミさんと二人きりで佇んでいた。
うおぉぉ……。
ことのはじまりはこうだ。
久しぶりに二人で祭りに行こうぜ、とタイヘイは僕に提案した。
珍しいな、と思って特に怪しいとも思わず、落ち合う場所として決めていた加胡市駅前のかわいくないカーヌンくんのモニュメントの前で僕はぼんやりしていた。
すると、現れたのは、カスミさんだった。
その直後、タイヘイから、カスミさんにメールで連絡が入った。
『体調を崩したのでいけなくなって申し訳ないでごわす』
どうやら、カスミさんには、久しぶりに三人で祭りに行こうという誘いをしたようだった。
僕は、まんまと、騙されたわけだ。
タイヘイの意図はわかる。けれど、こんな状況をどう乗り切ればいいのか。さっきから、何も話すことがなく、ただ、二人で佇んでいる。この静けさがつらい。
何か話さなくちゃ……。
「タイヘイ来ないみたいだけど、どうする? 帰る?」
僕はカスミさんに話しかける。しかし、本当に言いたいことの千分の一も言えない、チャンスはいつでもあるわけではない。
小学生のころはもうちょっと気軽に遊びに誘うこともできたのに今は高いハードルを感じる、とか情けないことをいっていてはいけない、いまこそその言葉を言わないと、今言わないと。
一緒に行こう、と一緒に祭りを回ろう、それを、今、言わないと、今、今こそ言おう。
「む、昔みたいに一緒に祭りを、僕とっ、回らないかっ」
かみまくってしまった。恥ずかしい、恥ずかしい、顔から火が出そうなというのはまさにこのことだ。
きょとん、とした顔でカスミが僕の顔を見た。
あっ……。
「いやいや、何でもない、行きたくないよね、今さら、僕と二人きりでとか全然行きたくないよね、ごめん」
必死で自分の本心を覆い隠すように、ぺらぺらと喋る。
「正樹くんは私と行きたくない?」
そのときのカスミが、傷ついたように顔を曇らせた。
どうして、カスミが悲しむ表情をするのか。
気のせいだろうか、うぬぼれだろうか、カスミさんが今の僕と同じ気持ちを感じているのかもと思うのは。
そんなことはどうでもいい。
「わっ!」
カスミは驚く。
僕は、カスミの手を取って走り出していた。
「一緒にお祭りに行こう。昔みたいに笑ってさ!」
にっかり、と笑って手を引く。
「――うん」
昔のことを思い出した。
私は、おてんばで、今も男っぽいとかよく言われるけど、今よりもずっと男っぽかった。よく男女って小学校の頃は馬鹿にされた。
神社に近づくにつれて、どん、どん、と、太鼓の音とにぎやかな雑踏が段々と聞こえてくる。これが、町内会のお祭りだ。
カスミは、正樹に手を引かれながら、とことことついて行った。
昔はもっと広かった気がするが、今みると一回り小さく感じる、とカスミは思った。
様々な出店が立ち並んでいる。
スーパーボールすくいがある。スーパーボールが、小さなプールの中をモーターの水流で流れている。
懐かしい物を見る目でカスミは、辺りを見回した。
なんだか、個人的には、子供だましな出し物ナンバーワンという感じがするのはやはりスーパーボールすくい。次点で、ピカピカするライトを打っている夜店だ。
あ、お面が並んでいる夜店がある。戦隊ものの仮面も並んでいる。私も昔買ったものだった。男勝りで、少女向けアニメよりも、戦隊シリーズを見ていた。
なんだかどれも輝いて見える。小さかった頃に戻ったみたいで、どれもこれもが、宝石のようにキラキラと胸に染み込んでいく。
「チョコバナナ、たい焼き、焼き鳥、いっぱいあるけど、どこかに座って何か食べない? 僕がおごるよ」
正樹は提案した。
「おごってくれるの?」
「もちろん、ベビーカステラ、好きだったよね、まずそれを買ってこようか?」
小走りに駆けて行く後姿を眺めていると、本当に大きくなったなぁ、と思う。正樹くんが転校してきたのは小学校五年生のときで、そして、そのときもこうして、二人で夏祭りに来たのだった。
「はい、ベビーカステラ」
そう言って渡してくれる正樹は、戦隊もののお面を被っていた。そしてそれを脱いでこちらに一緒に渡す。
「お面も買ってきちゃった、ほらあげるよ、カスミも好きだった奴って、……お面はもういらないよね、そうだよね~ははは、ごめん」
と、申し訳なさそうに、お面を持っている手を引っ込めようとする正樹くんの顔を見ると、そんなの貰わないわけにはいかない。ひっこめかけたお面をひったくるようにして手に取ると、頭に斜めにかける。
「ありがと」
きっとさっき、私が目を仮面に奪われたから欲しがってるのかな、とか思って買って来てくれたのだろう。
昔からそう、正樹くんは優し過ぎるのだ。今でも、あのときのことはよく思い出すし、覚えている。あのときも、こうして、お面を正樹くんが買ってきてくれたのだった。そのときは五年生、小学校高学年だから、そのときも、もうとっくにこういうのを買ってもらう年齢じゃなかったけど、とても嬉しかった。
しかし、それももう、遠い話、二度と戻ることの出来ない……。
正樹とカスミが、神社の石段に腰を掛けて座っている。
二人は、ベビーカステラをおいしそうに食べている。
「何か飲み物を買ってくるよ」
と、正樹が立ち上がり、自動販売機があるはずの神社の裏手に回り込もうと少し歩く。
人気のないところまで来たところで、ぽつんと二人の人影が前に立っていることに正樹が気付いた。
二人の刑事だ。
一人はダブルのスーツの上にトレンチコートを着た顔色の悪い男。だが、この前にあったときと違い、首は揺れておらず、目を見開いている。そして、もう一人は、しかめっつらをした美人の女。
「正樹くん、我々に協力してくれませんかね? 今追っている例の奴がめっぽう強くてね、マジックアイテム保有者に一人でも味方してほしいと思っているんだ、もちろん危険も伴うし、無理にとは言わないけれど」
かくかくと、首を小刻みに揺らす安倍。
唐突な二人の刑事の来訪に、正樹は、背筋を伸ばす。
正樹は、夢見心地の中から現実に引き戻される。
「まだ捕まっていなかったんですね。協力します、まだ、行方不明のままの生徒もいますからね……」
「そう言ってもらえて良かったよ。さて、正樹くん、君の家は宗教を新しく始めたみたいだね」
正樹は、動揺してベビーカステラを落とした。
「急にどうしたんですか?」
「いやなここの街には、今二つの新興宗教がある。白蛇水教と、娑喜光教の二つだ。今我々が狙っているのは白蛇水教だ。というのも、例の奴は縄を一本一本蛇のようにくねらしていた。蛇を信仰している宗教の子供が、蛇に深いインスピレーションを、得て発現させた、と類推して我々が、白蛇水教をターゲットにするのはそれほど、突飛なことでは、ないだろう」
祭りの喧騒から少し離れたこの場所は、杉に囲われている。石段の脇の地面は、小枝の隙間から、青々と雑草が生い茂っている。
安倍の言葉を継いで、三条が続きを話しはじめる。
「白蛇水教のほうについては、調べさせてもらいました。その宗教を始めた家族構成のほうも調べさせてもらいました。子供が一人います。子供の母親は、嫁入り婚だったようですね。そして、今はもう亡くなってしまって、この世にはいません。死因は自殺です。第一発見者は、その子供だそうです。母親が天井の梁に縄を掛けて首をくくって死んでいた、と。そう縄を使って死んだのです」
「それが、どうしたというんですか? いや、そんな」
正樹の声は自然と震えている。手も目に見えて震えている。
「もう一つ、その子供は相当苦しんだようです。父親と祖父母は人の上に立つ男の子を欲していたけれど、実際に生まれてきたのは、女の子だったから」
「オレは奴の仮面の下半分を砕いた。それだけでわかった。中身はまず男じゃない」
正樹は、目を閉じて顔を落として苦渋の表情をしながら左右に首を振った。
「祭りに関係ないので、そこらへんで今日はとりあえず勘弁してもらえませんか」
「正樹くん、こっちにくるんだ!」
安倍がとっさに、正樹の手を引いた。
正樹がついさっきまで立っていたところを、荒縄がえぐっていく。
カスミが、体に縄を巻き付けて、立っている。
「今、ここにいるのは、うっとうしい警察と敵対宗教の息子。まとめて葬ってやるよ!! あああははっはっはは、あっはははあは」
狂ったように笑っていた、あの夜の――カスミだ。
八本の縄が、三人を襲う。
「神様って知ってるか!? 神様ってのに、私はなれるんだってさ、だから、もっともっと私に命を捧げるんだ、あんたたちも! 私のために死ぬんだ、そして、もっと」
「カスミさん!!」
「知ってるだろ? 人間って何にだってなれるんだ! 何だって出来るんだ! 人間の可能性って正樹くんも感じるだろ、おおおお!! てめええが覚醒させるとこ見てたから、見てたから。悲しみって連鎖するんだ、憎悪は、憎悪を生むんだ! 救いは、絶対的な力の中にしか存在しないんだ! 私がなれるんだってっさああああああああああああああああああああああああ」
正樹は鞄の中から娑喜光教典を掴んで叫ぶ、そして、変身する。スカートに身を包んで、カスミの方へと走る。
縄が、正樹に絡みつく。正面から走る正樹は、縄に皮膚をえぐられる。縄が三本四本と、食らいついて行く。
しかし、正樹は歩みを止めない。
カスミは絶叫する。
「来るなぁあああ!! こっちを見るなああああ!! 止まれぇええええ!」
「カスミさん! もう止めるんだ! 僕を信じて欲しい! 僕は何があっても君の味方だ、だから、もうこれ以上人を殺そうとするのはやめてくれ!」
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!」
縄がカスミの叫び声に応じて、いっそう正樹の体に食い込む。
「ぐあああッ!」
「正樹くん!」
安倍は、正樹を助けようとするも、たった三本の縄のけん制を潜り抜けていくことが出来なかった。
とっくに安倍は全力を出しているが、それを遥かに上回るカスミの力に手も足も出ないでいた。
前回よりも遥かに上回る出力、暴走するカスミの感情が限界を超えていく。
「カスミさん! 信じて欲しい! 憎しみが連鎖すること以外のことを。喜びもうれしさも楽しさだって、周りを変えて行くことを信じて欲しい!」
荒縄が肌を食い破り、縄が血で染まる。
石段に、正樹の血が落ちては飛沫が弾ける。
「来るなァァアアアアアアアア!!」
「カスミさんが笑えば、僕はうれしい、カスミさんが泣けば僕は悲しい! 僕はもうそれ以上苦しんで欲しくない。ごめん、今までカスミさんが苦しんでいたことに気付けなくてごめん」
「う、ううううああああああ!!!」
正樹の体に絡みついていた縄の力が少しだけ緩まる。正樹は、このまま、カスミの元まで走ろうとした。
ずぶり
「……え」
ナイフが正樹の胸元に着き立っている。
いつの間にか、正樹の眼前に現れた老婆が、正樹にナイフを突き立てていた。
どくどくどくどく
尋常ではない量の血液が溢れていく。正樹は、力が抜けて崩れ落ちる。
「あああああッ、正樹くん正樹くん正樹くん正樹くん!?」
カスミは、自分の顔を覆って叫び声を上げる。
「これ、目を逸らす出ないぞ? 大事な友達の最後だろう? 良く目に焼き付けるのじゃ、そして、内なる衝動におっ、おおっ!」
老婆は、歓喜の声を上げた。
木々が暗闇で怪しくざわめく。
空気が凍り付く。
一段と闇が深くなる。
「おいおい、これはまずいぞ、三条クン……車検は来世にやるしかなさ……」
カスミから、縄が胎動するように一度膨れ上がるかと思うと、急速にその体積と長さを伸ばしはじめた。カスミを中心に光があふれだす。
カスミの体が徐々に見えなくなって、縄が無節操に伸長して森を全てをむさぼるように、荒々しく木々をなぎ倒していく。
縄の成長が地響きを鳴らす。
「始まった、暴走が、始まったぞ、蛇も出るわ鬼も出るぞぉおおおお、わしが作り上げたんじゃああ、あっぼぅつおがああ」
急速に始まったその縄の膨張に老婆は巻き込まれて、老婆の断末魔もすぐにかき消えていった。
二人の刑事は、その危険から逃れるように走っていた。
「先輩! 何が始まるんですか?」
「鬼だ、鬼が出る。理性のストッパーが外れた人間の精神が暴走を始める。それに伴って、精神の暴走に耐えきれない物理的肉体の改変。さなぎが蝶になるときのように、体の再編成が起きているんだ。完全に力だけの存在へと変化していっている。奴は、自分の体そのものをマジックアイテムへと変える、人知を超えた領域の存在に、そうだ、鬼になる……最悪だくそっ、オレのせいだ」
まるで、巨大な自然現象そのものの如く、荒れ狂う縄が縦横無尽に空へと伸びて一帯を覆い始めようとしていた。
「カスミ、さん、……そっちへ行っては、ダメだ……」
暴力的な暴走の中、正樹は、はいずりながら、暴走の中心へと進んでいく。カスミのいる中心へ。
「正樹くん、戻ってくるんだ! 諦めろ、もう手遅れだ!」
しかし、正樹は止まらなかった。
正樹は、逃げることなく進んでいった。
「僕が、行かなきゃいけないんだ……」
正樹の姿も、完全に縄の中に飲み込まれ、刑事達からは見えなくなった。
あれ、今私は何していたんだっけ、気を失っている? ぽかぽかした光の中にいる感じ。なんだろう、自分の中の得体の知れない者が膨れ上がっている感じがする。段々と眠くなって、そして、もう一つの人格が暴れ出すんだな。わかる。ジキル博士とハイド氏みたいな、或いは、山月記? あれ、私は誰だっけ? ってもういっか、全部終わったんだ。あれ? なにが終わったんだっけ?
カスミさん
カスミ? ああ、それは私の名前だっけ。懐かしい。そうだ、私の名前は、カスミ、というんだっけ。
カスミさん
そういえば、そうそう、私は、カスミって女の子だったんだけど、全然女の子扱いしてくれなかったんだよね、昔は。家では今でもだけど。
カスミさん、カスミさん
なんなんだろう、さっきから。今、何だかいい気分で、誰にも邪魔されたくない気分なんだけど。ぼんやりと夢見心地で。
カスミさん、行っちゃダメ!!
その声は……、まさ、きくん? あ、ああ、まさきくん! 正樹くんがいるの?
カスミさん、待ってて、今度こそ、僕が助けに行くから!
来ないで! 正樹くん私は、もうどうしようもないくらいに、おかしくなっちゃってもうどうしようもないくらいに人を殺してしまった!
カスミさん!
だめなの、もう捕まるわ。人を殺して喜ぶ変態なんだ私は、だから、あなたは、もう、ここにいてはダメなんだ。私は、多分、君があったことのある人間の中で一番最低で、私は最低なの、早く出てって!
カスミさん! 今そのことで、一番苦しんでいる君を、僕は見捨てることなんて出来ないよ!
……相変わらず優しいんだね。覚えている? 正樹くんが小学校五年生の頃。私の母が自殺して、家が厳しくて私は男の恰好させられて、学校では男女男女って言われて馬鹿にされてたときのこと。正樹くんは、私が馬鹿にされたとき、本気で怒ってくれたよね
うん、そんなときもあった……
そのあと、私に、正樹くんが持ってきた、いろんなかわいい服を着せてくれた、似合うって言ってくれた。そうでしょ、そうだったじゃん。その服で学校に行って、驚かせてやれって、きっと皆可愛さにびっくりしてもう何も言えなくなるって、すごくうれしかった、うれしかったんだよ。今思えば、正樹くんは女装をしていたから、いろんな可愛い服を持っていたんだね。
うっ、カスミさんだけには知られたくなかった。ああ、そうなんだよ。うちの両親男の子と女の子が欲しかったらしいんだ。男の子にはマサキ、女の子にはサキコって名前を付けるつもりだったとか。でも、結局どういうわけか、僕が一人二役することになってね。大きくなるまで皆男でも女子の恰好はするものだと思ってたからびっくりしたよ、ほんと。あははははは、はぁ、変だよね?
変じゃないよ、そういうマサキだから、私は好きになったんだよ
な、な、え? ええええええ、えと、ええっ、ええ?
だから、好きだって言ってるの!
僕だって、好きだ!
だから、正樹くんは早くここを出るの、あなたまでも消えてしまう!
だめだ、一緒にここを出るんだ!
無理だ、これは私のせいなんだ、だから、自分のことだからわかる、ここから、私は逃げれない、正樹くんだけでも。
そっ、と手を触れて優しく包みこむような感触がカスミに伝わる。
ここまで来たんだ、いまさら僕は逃げないよ。僕が消えてしまうとしても、僕は最後までカスミさんと一緒にいるから。
!
かつてない感情の奔流!! 感じたことのないほどの胸の高鳴りは、音に聞こえる恋心。変は恋へとかわるのだ。
これは、恋。これは愛だ。これが愛情だ。好きな人を守りたい気持ちは、自身をとりまく光の流れを逆流させる。
私、多分、少年刑務所に入れられるわ。
ずっと待ってるから。
こんな私でもいいの?
君じゃなきゃだめだ。
……うれしい。
全部終わったら、また祭りに行こう、何回でもいつまでもずっと。
うん!
僕と一緒に可愛い服を着ようか。
……う、うん。
あ、ごめん、やっぱりそれはやめよう!
嫌っていうわけじゃないの、そうじゃないの、私可愛い服に合わないから。
この期に及んでそれはだめだ。言っただろう? 君は最高にかわいい服が似合うって!
……ありがと。
さぁ、元の世界に帰ろうか――
僕が目を覚ますと、そこはベッドの上だった。ぼんやりと点滴が腕に刺さっているのが見える。
僕が目を覚ますと、両親が抱き着いてきた。
「ああ、心配したのよ!」
これは、母さんだ。父さんが、母さんの隣で涙ぐんでいる。
ここは、病院のようだ。
あの後、一体どうなったのだろうか。
ベッドの向こう側に、花束を抱えたあの顔色の悪い刑事さんと、しかめっつらの刑事さんが立った。やっ、と手を上げて僕に挨拶をするとそこそこに部屋の外へ行く。
両親は刑事さん達を厳しい視線で一瞥した。
両親の気のすむまで散々もみくちゃにされた後、入れ替わりに入ってきた刑事さんに、ことの次第の全てを聞いた。
白蛇水教は、解体されたらしい。
カスミさんも無事で、今は裁判の途中だと言う。精神状態と家庭環境を考慮してもらえるらしいけれど、三年は収容されることになるだろうということ。
「正樹くんを、巻き込んでしまって、しかも、こんなおおけがを、させてしまって、改めて、申し訳ない、この場で謝罪をさせてもらう」
「いえ、僕に謝ることはありません、むしろ感謝しています。あれを自分で決着をつけていなかったら、僕は一生後悔したと思います」
「そうか、そうか、悔いは、ないか?」
「全く無いと言ったら嘘ですね。もっと早く異常に気付けたなら、もっと良い今があったかもしれない。ですが、最後に自分の気持ちを全部伝えれて良かったです」
僕は、本心から告げる。
遠回りになるかもしれないけれど、生きていればまたやり直せる。
「そうか、では、我々は、ここらへんで。退院したら、お祝いに、一緒に、どこか、飲みにいこうか? おごるぞ」
「先輩、未成年に、そういうふざけたこと言ってないでさっさと報告書を書いてください」
「いた、いた、ちょっと、髪の毛、ちぎれる、痛いっ」
「ていうか、車検いくんじゃないんですか?」
「君は、本当に、常識人だね」
女の刑事がドンドンと引っ張って、二人は病室を後にした。
最後まで変わった人たちだ。
誰もいなくなって静かになった病室から、僕は、視線を窓の外に移した。
全治一ヶ月半、僕は退院した。
頬杖をつきながら、僕は窓から校庭を眺める。
僕達が住む加胡市は、高山線と木曽川に挟まれた細長い街だ。この街は、ボートが特色だ。川沿いに走る桜の木は見もので、春になると満開の桜で、川も桜の花びらでいっぱいになる。
毎年、神社で行われる町内会のお祭りは規模は大きくないにしろ、毎年人がごった返すほどにぎわう。
僕の家は、相変わらず宗教をやっている。
来年には、僕達の受験が控えている。
僕達は毎日根性坂を登る。
ただ、いつも元気溌剌だった彼女の姿はない。
永遠に続くように感じている毎日も、一度たりとも同じ日はない。
だけど、大切な思い出はいつまでも色あせることなく心に焼き付いている。
先のことはわからない。
僕の将来はどこへ続いているのだろう。
川を下る爽快な風が、教室を吹き抜ける。
窓の外には、底抜けに青い空が広がっている。
眼下には川がのっぺりと広がっている。
あの川を下っていくと、大海原に繋がるのだ。
なんにも知らないけれど、そこが少しだけ暖かな日差しに包まれていることを僕は信じている。
いやはや、ここを更新するの久しぶりですよ。誰も見てないから気にしないって? ははは(渇いた笑い)。更新はしていないけれど、応募用原稿を仕上げて、送ってたってわけですよ、ええ。未発表の作品に限る、とかなるとここにアップしておくといけませんから。
これは、去年の夏の僕の全力で書きましたが、まだまだざこっぱということなのです。すいません。後半超速展開になってたりしてたとことかを、評価シートでつっこまれてましたね。友人には前半部分がだらだらとつまらない、と言われました。
うぅむ。
読んでくださった方どうもありがとうございました。いや、まだまだ頑張るぞい……。




