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純白の嵐

プロローグ


 ビュオオン、ビュオオン……。


 人間にはわかるはずもない言葉が豪風の中に木霊する。

 それはすぐさま風の音に混じって彼らの中に行き渡り、うねり声が辺りを覆った。


―― 嵐がくるぞ! ――


 とある一つが言う。

 すると、それに応えるようにいくつもの声が上がった。


―― 気をつけろ、人の匂いが混じってる! ――


―― きっと生まれる前の仲間を狙っているのよ! ――


 慌てたように彼らは温めていた大切な卵をひしと抱きしめる。まだ生まれてもいない我が子たちを……。自分たちにとってかけがえない希望を守るために。

 人という生き物はなぜだかいつの日からか彼らを狙うようになったのだ。

 かつて等しく女神に愛されていた者たちだというのに、ある時から自分たちの命を奪っていくようになった。

 それは人が生きるためでもなく、瞳には狂気を宿して……。


―― 逃げよう、大空へ! ――


 その言葉に呼応していくつもの立派な純白の翼が立ち上がる。

 いくつもの小さなつむじ風が起こると、一つまた一つと彼らは宙へと舞い上がった。


―― おい、早くいくぞ!? ――


 ふと、一つの声が怒ったように言う。


―― わかってるわ!!  でも、疲れて翼が広がらないの! ――


 それはつい先ほど卵を産み落とした者だった。

 一生懸命に我が子と共に宙へ羽ばたこうとするも、翼は言うことを聞いていなかった。


―― 人が近付いている!! ――


 宙から聞こえた声に無理やり力を込めて大きく羽ばたく。

 それの体が卵と共にやっと浮き上がり、彼らに安堵の表情が見えた瞬間だった。

 何かが木々の間をすり抜ける鋭い音、そして、悲鳴のような甲高い声が響く。

 見れば、折角浮き上がったそれはまた地面へと撃ち落されていた。


―― 雷だ!! ――


―― 人が使う魔法だ!! ――


 彼らは不安と恐怖が混ざり合ったかのような声を上げる。それの翼には明らかに何かが貫いたような焦げたような痕が出来ていたのだ。

 それに追い打ちをかけるように、空からは無数の雨が痛いくらいにそれに打ち当たった。


―― このままではまずい!! 人が近いぞ!!――


 彼らのうちいくつかがそれを助けに地上へ向かおうと体勢を低くする。

 しかし、地上からの声に一斉に止まった。


―― 行って!! このままではみんな捕まってしまうわ!! ――


 それは突風に似た声で。それの仲間たちは戸惑ったようにそれと、雷が飛んできた方向を見やる。

 きっともうそろそろ人が姿を現してしまうだろう。

 そうなってしまったら……自分たちはどうしようもない。


―― お願い、行って!! みんなはあの場所へ!! ――


 さらに強く突風の声が響く。

 その必死な叫びに……彼らは悲痛な面持ちでそれへと背を向けた。

 それを見届けながら、それは小さく、優しい口調で卵へと語りかける。


―― 可愛い我が子。私の希望の追い風。あなたがまだ無事で本当に良かったわ ――


 地面へ落とされてしまった時、割れないようにしっかりと抱え込んでいて良かった。

 打ちつける雨が痛いだろうが、きっとこの子なら大丈夫だろう。


―― あなただけはどうか……。逞しく生き抜いてね ――


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