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ムライ 2

作者: 南野 国賴

 路線バスの昼食時は始発か終点のどちらかの待機場になる。

 したがって多少の時間のずれは在っても二~三人が一緒になる事は多い。

 仲の良い運転手同士だとどちらかのバスに乗り込んで昼飯を食う。

 割と孤独が好きな私が、静かに一人の食事を楽しんでいたら猛烈な勢いで一台のバスが帰って来た。

 そして横に止めると大声を出しながら降りてくる。ムライだ。

「な、な、聞いてくれるか、うんこやでうんこ、うんこがあったんやで」

 この世が終わるくらいの大事件とばかりに騒ぎ立てていた。

「何であんなとこにうんこがあるんや」

 その怒りを何処にぶつけたらいいのか、喚き散らしていた。

「しかもやで、人間のやんか人間の。何で人間のがあるんや」

 待機場の手前に弁当屋があった。昼前になると客の居ないバスを横付けにし、そこで昼食の準備をする。

 今日は車が多かった為手前の広場にバスを止め、乗降口を開け降りようとした時まさに目の前にそれがあった。という事らしい。

「危機一髪や、ほんま、踏むとこやったで」

 人の食事なんかお構いなく喋り続ける。

「な、な、どう思う。あれはいかんやろ、あれは」

 自分の怒りに誰もが賛同して当たり前のようにこちらのバスに乗り込み近くの椅子に座る。

「しかも人間のやで人間の。どういうこっちゃ。夜中に我慢できんであそこでしてしまったちゅう事っかいな。なんでやねん」

 そのうんこが人間の物であると断言し怒りが収まらないらしい。

「何で人間のって分るんだよ。犬のじゃないのか」

 そこにうんこが在ったという事よりも、人間のものと決め付けている事がうるさかった。

「いいや、あれは人間のや、間違いない。色といい形といいまさしく人間のものや」

 それほどうんこに対して断言できる基準を持っているのか聞いてみたかったが面倒臭くなった。

「分った分った、どっちでもイイじゃん、たいへんだったなあ」この言葉を聞いたムライの目が光った。

「どっちでもいい?ほんまにどっちでもいいんか。あのうんこがなあ、よぼよぼの爺ちゃんの物だったらなあ、そりゃあどっちでもいいやろ。しかしもしもやで、見た事も無い様な綺麗なお姉ちゃんのだったらどうする。美人のうんこがそこに落ちてるんやで」

 何を言ってるんだ、こいつは。

「美人のうんこがあるんやで。どう思う」

 人が飯を食っていようが関係ない。しつこくどう思うか聞いてくる。話の内容がずれてないかい、と思うが益々ややこしく成りそうでやめた。

「う~ん美人のかあ、少しはそそられるかもなあ」

 これがいけなかった。

「そうか~そそられるんや。美人のやったらゆるせるんや、そうなんや」

 何を思ったのか、彼は勝ち誇ったように喜んだ。

 弁当を食べる間中その話題で持ちきり、食べ終わっても話は続いた。

 彼の出発の時刻になり手を振りながら出て行ったが清々しい笑顔をしていた。

 彼の怒りは解決したのだろうか。

 いつもの事だが会話の始まりと終わりが繋がっていない。

 本人は納得したのか、次に会うときは別の話題で盛り上る。

 彼の中ではうんこ事件は一件落着したのだろう。

 そんな彼の笑顔を見てると私の悩みなんか糞みたいなものかもしれないと思うのだった。

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