おいでませ魔王城 5
それは日本人ならば誰でも知っている遊びです!
あまりの驚愕に声を出せずに…というか、これはだるまさんが転んだ効果で動けないようですね。全ての物がフリーズしております。意識はありますが。
「ふむ、今代の魔王は先代とは違うようですね」
アイノスさんの様子が少しおかしいようです。インテリぽい話し方は変わらないのですが、たまに姿がぶれるのです。だるまさん効果でしょうか。
「ちょっと皆さん落ち着きましょうか」
いやいやいや…今混乱してるのはアイノスさんのせいですよ?
じーっと目で訴えてみるけれど、アイノスは気づかず首無し騎士に近づき、ぴょんっと飛び上がってその頭を蹴り飛ばしました。
「ぐほっ」
ハムさんの頭が床に転がり、リオン君とアマリーアの表情がわずかにピクリと動きます。
わかります。その気持ちはよくわかりますよ。転がったのは恐怖のサダオですからね。
「うおっ、なんじゃこの頭っ、きっと来るってやつか!」
アイノスの口調が変わりました。話の内容がちょっといただけないというか、信じられないというか、嫌な予感がずっと募っておりますが…
『何をするのだ我らの王よ』
ハムさんが話すと、アイノスはその頭を面白そうにコロコロと転がします。
『うおっ、止めよっ』
「人が寝てるのをいいことに大暴れしやがって。そっちの…竜?みたいなのが偶然呼ばなかったら参加できないところだったよ」
なぜ私を見て首を傾げるのですかアイノスさん…同じ古竜なのに…
もう完全にアイノスの中身が違うとわかります。口調もそうですが、仕草も全く違うのです。ということは、アイノスも憑りつかれてしまったのでしょうか。
ふっと体の拘束が解かれ、全員がガクッと動きました。
「あぁ、効果が切れちゃった」
だるまさん効果切れですね。ですが、切れてもお化けが襲ってこないところを見るとアイノスの中の誰かがこの騒ぎを抑えられる者ということなのでしょう。先ほど王と呼ばれてましたしね。
「お前は誰だ?」
クロちゃんがすかさずアイノスの首に剣を突き付けます。
・・・・その体はアイノスさんの物じゃないんでしょうか?
「いやいや失敬、今代の魔王。我はゴーストの王ジャック。いたずらをこよなく愛する幽霊よ!」
剣など見えていないかのようにジャックは恭しく礼をする。
その姿に幽霊達は動きを止めて見守っている。が、ゾンビはそのままでも部屋中くっさいのでできれば引っ込んでほしいです。
「で?」
クロちゃんぶれませんっ。それがどうしたとばかりに剣を突き付けます。
「うおうっ、で? でって、何を言えばいいかな?」
「なぜ暴れた?」
ジャックはう~んと悩んだ後、周りの幽霊、生える手、ゾンビ、火の玉を見てハムさんへと目を移します。
「実は俺達先代と一度ぶつかっててね」
そういえば先程アイノスとして話しているときにそんなことを言ってましたね。先代に封じられたとか。あれは噂でなくこの人の真実でしょうか。
「理由は奴のやり口が気に入らなかったから。で、解放されたから別の王が立ったのかと思うだろう? 同じような気に入らないやつならもう一度戦ってやろうと…思ったんじゃないかな?こいつら」
さりげなく自分は関係ないよ~ということですかね?
『まさしく。しかし、見る限り今代は問題なさそうですな。異種族との交流もありそうで』
ふわふわ~とハムさんの体の中から体の大きな男が姿を現しました。幽霊のようですが、あのエイリアン幽霊とは少し違うようです。こちらは知能も高そうです。
ハムさんの中から幽霊が抜けると、同じように兵士やメイドからもふわふわと抜け出る幽霊達。彼等は魔物とはまた別のくくりにはいる幽霊のようです。
「気に入らんな、試したということか」
クロちゃんはお怒りのご様子です。まぁ、ここまで大暴れされて城の中も破壊されれば怒りもわきますね。
「クロちゃんクロちゃん、ちょっといいですか?」
私はあえてここで声をかけました。
「なんだ?」
クロちゃんの怒りはこちらには向きません。ただいつも通り何の興味もなさそうな問いかけが返るだけです。それにはほっとして私はアイノスの前に立ちます。
「あなたは誰ですか?」
「・・・・答えたはずだが?」
「いえいえ、誤魔化されませんよ。こういえばいいですか? トリック オア トリート!」
アイノスの目が見開かれ、するりとアイノスの体からオレンジ色のかぼちゃが姿を現しました。
「お~、やはりジャック・オー・ランタン」
私が感心すると、オレンジ色のかぼちゃに目と口が付き、ついでにぽっちゃりお腹の男爵風な衣装を着た体が現れました。
いたずら好きのお化けでジャックと言えばこれですね。
『なんということだ! この世界に同じ世界の知識を持つものが現れるとは!』
感動しているようですが、どこか演技っぽいですね。
「お名前は?」
『私はまさしくジャック・オー・ランタン!』
「日本名は何ですかっ?」
『…茂夫です』
かぼちゃの茂夫さんはガクリと膝をつきました。やはり日本人でしたね。感動すべきですが、あまりに体と名前がミスマッチでなんだかいたたまれません。
『同じ転生人かね?』
「はい。今は古竜をしていますよ」
『竜か! 私と同じ最強種だな』
「いえ、最弱です」
「最強だろう?」
茂夫さんはいぶかしげに首を傾げます。表情はかぼちゃなので読み取れません。先ほどの演技っぽい感動はひょっとして表情が出ないためのオーバーリアクションですかね? 今も首を傾げる角度がちょっと大げさですし。
「転生と言えば最強になるものだ。かくいう私も封印はされたし、かぼちゃだが死なない体だ。竜と言えば最強種ではないか?」
「最弱種の竜です」
すかさず訴えれば、茂夫さんはとても同情的な雰囲気になりました。
べつにいいんですよ、最弱なのはもうあきらめましたから。えぇ、最弱最高じゃないですか! 何気にかぼちゃに最強宣言されましたからねっ! かぼちゃにだって負けますよ!
『ゴホンッ まあいい。こうして出会えたのも何かの縁。いつか困ったときにはこの私の名を呼ぶがいい』
何やら不穏な空気を感じ取ったらしい茂夫さんが取り繕うように告げます。
「茂夫さんと?」
『いや、ぜひジャックでお願いします』
意外と低姿勢ですね茂夫さん。サラリーマンだったんでしょうか?
ジャックはきょろきょろと辺りを見回すと、一瞬クロちゃんの視線にびくっとして、ほんの少し早口に告げる。
『では、魔法の言葉もいただいたことだし、我等はここまで。いずれまた逢う日を楽しみにっ。我等はいたずらの旅に出る! ハッピーハロウィーン!』
ジャックはマントを翻し、ふわりと姿を消す。これはいろいろ居た堪れなくて逃げたのだと思います。それに慌てて幽霊達も続き、全てが消え去った後、天井からなぜかお菓子が大量に降ってきたのです。
ジャックとしての設定か、それとも謝罪なのかはわかりませんが…
部屋中にお菓子の臭いがふわりと漂います。
ケーキにクッキー、チョコにキャンディー
もちろんこれらはここに集まった皆で分けて後で楽しくお茶させていただきましたよ? でもですね、その前に…
「うっ…」
全員が口元を押えました。
部屋中に広がる甘い匂い…と共に、腐った匂いが混ざり合い、全員が大ダメージを受けたのでした!
リアーナ「美味しそうな匂い~」
ラス「お腹すいた~」
掃除も片付いた頃、ゴミ箱に齧られながら姿を現すリアーナと目覚めるラス
臭いによりダメージを負った面々は、ぐったりとした青い顔で暢気な二人を見るのだった…。
こうして魔王城での大騒ぎは幕を閉じたのです。
余談ですが、魔王城執事兼護衛官首無し騎士ことハムさんは(そんな役職だったんですね)、その日を境に降格。一兵士として過ごし、優しい幽霊のお嬢さんと結婚したそうです。
めでたしめでたし?