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おいでませ魔王城 4

 にょきにょきと生える白い手はまるで草原のようにさわさわと揺れ、動く人々に襲いかかってきます。

 もちろん私も例外ではありません!


「ピキュ! ピキュ!」


 べしっばしっと尻尾で手を叩き、手の被害のない上の方、棚の上へと逃げます。ぎりぎり手が届かないようなので安全地帯ですね。


 ハッ、そういえばラス君はどうしたのでしょうっ。

 きょろきょろと辺りを見回すと、クロちゃんが張ったであろう結界に覆われたベッドの寝台の上ですやすやと眠る子供の姿がありました。

 

 なんて大物…この騒ぎで起きないとは。


 なんて思ってる余裕は無かったですよ!

 

 大量の手が棚の脚を掴み、ゆさゆさと揺れ始めたのですっ。おまけに頭上にぽわぽわと輝く鬼火…そう、青白い火の玉が浮かび、辺りに飛び交います。


 でも、火の玉は怖くないんです。死体から発生するリンが燃えるとか、腐敗した死体から出たメタンガスが燃えるとかで土葬時代の墓場にはよくあったらしいですし、最近では大気プラズマにより発生する現象、つまりは雷みたいなものだと言われておりますので科学的根拠がありますしね、思わずこれが火の玉かーと見とれてしまいましたよ。


 そう、火の玉は死体から…


 ムッと鼻をつく異臭が漂い始め、揺れる棚の下を見下ろします。


 何か出てきてる?


 床から何かがごぽごぽと音を立て、ベチャッと音を立てて白くない手が床に現れました。次いで、頭、肩、胴体、足と床から這い出たものは・・・・


「腐ってる死体~!」


 腐った死体じゃなくて、現在進行形で腐ってる死体です! くっさいです! 


「クロちゃんの城はお化け出入り自由ですか!」


 べちょっと音を立てて目玉が落ちましたよ!


「ギュワワワワワ~!」


 気持ち悪さに大絶叫。


「リーリア!」


「はいっ?」


 びゅんっと顔の横に何かが飛んできて壁に刺さりました。壁に刺さるものと言えば…

 つつつつつつ~と視線をむけると、案の定装飾の見事なナイフが壁に刺さっておりました。


「呼べ!」


 クロちゃんが何か叫んでますが何を呼べと?


「今回は許す。だから呼べ!」


「話が見えませんよっ。何を呼ぶんですかっ。これなんですかっ、私を殺す気ですかっ」


 混乱しながら抗議します。そうこうしている間に部屋中に増える腐ってる死体。腐ってるので歩行困難なのか動きは鈍いですがとにかく臭いです。それらがゆっくりと生きている人々に襲いかかっていきます。

 当然私の前にも腕がのばされます。


「その短剣で知り合いなら数人呼べる!」


 そういうことですかっ!


 私は俄然張り切り短剣に手を伸ばしました。


 が!


 白い手達がさせまいと棚を動かし、壁から離れていこうとします。


「さ~せ~る~か~っ」


 とぉっと飛び上がり、ぱたぱたと羽根を動かして壁の短剣に飛びつきました。後はどうすればいいんでしょう。やはり言葉通り呼べばいいのでしょうかねっ。


 悩んでる暇はありません。今にも背中にゾンビの手がかかろうとしておりますっ。


「ピッキャ~! ウィルシス、アルノルドさん! ゼノ! ヴァンさん! レイファスさん! ケイン君! リオン君! ジェフさん! マリアさん! レイナさん! アマリーアさん! アイノスさん! 古竜改さん! セルヴァさん! ジャックさん!」


「呼び過ぎだ!」


 思い浮かぶだけ名前を並べてみたのですが怒られました。


 ですが、どうやら数人は成功したと思います。手元の短剣がまばゆい光を放ち、天井に魔方陣のようなものを描いたかと思うと、その中から人が飛び出して…というか落ちてきましたから。


 どさどさっどちゃっ


 手当たり次第呼んだのでいろんな場所から集められたのでしょう。皆いっしょくたに固まって床に転がり、数匹(?)のゾンビを潰しました。


「クサ! なんだこれ!」

「うわっ、ちょっとゼノさん!何食べてたんですか!」

「うぉぉぉぉっ、マリア隊長と密着っっ」

「ちょっとどきな! 邪魔だよ!」

「ムギュウウウウウ」

「なんですのっなんですのっ」

「・・・・誰が召喚したんだ?」


 まずはじめに叫んだのが青竜隊副長ゼノ。彼は昼食を食べていた最中だったらしく、その食事の一部が黒竜隊副長ケイン君にかかり抗議。続いて緑竜隊の不死身の男ジェフが隊長マリアを抱きしめる形で転がり大興奮。冒険者のレイナが団子状態に怒りだし、潰れた緑の古竜アイノスが呻き、セルニア王国の8歳の美少女王女が混乱。見た目が少年の竜王セルヴァレートが驚いたように書類片手に目を瞬かせていた。


 ちなみにセルニア王国騎士団総隊長であるウィルシス、黒竜隊隊長ヴァン、赤竜隊隊長レイファス、青竜隊隊長アルノルドは召喚陣から出た瞬間に団子にならない場所に逃れ、青竜隊リオン君は一番最後に落ちたために団子からは逃れたようです。

 古竜改の皆さんは名前じゃなかったから呼び出されなかったらしい。


「ピッキュウゥゥゥゥゥ~!」


 私は壁を蹴り、ゾンビの手を逃れてウィルシス達の元へ。


「リア? てことは、ここは魔王城?」


 全員が建て直し、辺りの惨状を見てうっと顔をしかめる。臭いも相当なもので、食事中だったらしいゼノはリバース注意報のようだ。


「面白いことになってる」


 竜王セルヴァレートは感心したように辺りを見回し、なぜか床からあふれ出る白い手と握手を交わしていた。強者ですね。


「いっやぁぁぁぁぁ~! なんですのっ なんですのっ」


 普通はその反応ですよね~。ナイスリアクションですアマリーア姫。


「うわあああああ! 俺お化け駄目です!」


 リオン君も役立たず組ですね。ふわふわ揺れるゴーストに近づかれて悲鳴を上げ、憑りつかれそうになったところをレイファスさんに救われました。

 ゴーストって剣で斬れるんですね。


「ゴーストとは厄介ですね。全員憑りつかれなようにしなければなりません」


 マリアが冷静に判断し、結界を施せば、騎士団の面々はすぐに表情が引き締まります。


「とりあえず殲滅か」


 アルノルドがため息交じりに呟けば、ヴァンが頷き、戦えるものが全員抜刀。竜王のセルヴァと緑竜隊隊長マリアは魔法で攻撃を始めました。


 ただ、注意すべきは魔族の皆様です。兵士やメイドの中にはお化けに見えるような人々もおりますので、そこは私とクロちゃんが声をかけて『味方』だと伝えねばなりません。操られているので判断も難しいのですが。


「魔王城の封じられたゴーストか」


 メガネを直しながら先程まで潰されていた緑の古竜アイノスがふわふわ飛び交う火の玉を目で追って呟きます。


「知ってるのですか?」


「噂ぐらいですがね。先代の魔王が封じた厄介なゴースト達だそうで。魔族ですら驚かすのが好きなのだそうです。大して力はありませんが人に憑りつけるために敵味方入り乱れ、殺し合いに発展するとか。親玉がいるはずですがどこです?」


 私はクロちゃんを指さします。


「まさか魔王が憑りつかれて?」


「いえいえ、その魔王と戦ってるハムさんです」


「ハム?」


「首無し騎士ですよ」


 アイノスさんは「ああ」と呟いてしばらく腕を組んでいたかと思うと、周りを見回し、うんと一つ頷いた。


「ここならいいですかね」


 なんでしょう。何やら不穏な気配を感じます。古竜だからですか?

 アイノスさんはすっと息を吸い込むと、驚きの言葉を放ちました。


「だ~るまさんが・・・・」


 ぬなっ!?


「こ~ろんだ!」


 ぺきっと音を立てて全ての動く者の動きが止まりました。


 な、なんですと~!?



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