おいでませ魔王城 2
「ハッ…夢だった」
ガバリと起きた私は見慣れぬ天井にあれ?と首を傾げます。
「何が夢だ?」
気が付けば、ベッドの紗幕の横にイスに腰掛けるクロちゃんの姿がありました。どうやらあれは夢ではなかったようですよ。
しゃらりと紗幕のカーテンを開いてクロちゃんを見上げると、そのクロちゃんの頭にはなぜかリアーナが乗っておりました! しかもうつぶせに寝てます。よく落ちませんね?
「何が夢だ?」
おっと、質問されていたのでしたね。頭の上の母君の姿が気になって質問が飛んでおりましたよ。
「サダオが出たのです」
「新種の魔物か?」
そうですね。あれは新種の魔物と言えなくもないです。とてもたちが悪い魔物です。首だけ何処かにおいてきたうえにさらにその首が井戸の悪魔であるなんて二段構えの恐怖はいらないのですっ。
「ねね~」
あ、ラス君もいたのですね。
くるりと顔をラス君の方に向けた私は、びしぃっと指でラス君の手元をさしました。
「それを捨てるのですっ! そんなモノはうちでは飼えません!」
ラス君が手にしていたのはサダオの頭です。
相変わらずだらーんと長い髪で顔を覆ってしまっていて、どこが前だかもよくわかりません。おまけにラス君の身長では髪を踏んでしまい、転びそうです。危険ですねサダオ。
「ハム捨てるの?」
「ハムは食べ物ですよラス君。それは食べれませんのでサダオです」
「いえ、私めはデュラハンと申しましてデスな」
生首がしゃべりました!
いえ、先程もきっと首の方がしゃべっていたとは思いますが、それどころじゃなかったので気が付かなかったのですよ!
「ラス君、それを…それをゴミ箱へ!」
「はぁ~い」
いい返事です。
これで世界の平和は守られたとばかりに私はふぅと額の汗をぬぐう仕草をします。
サダオはラス君の手により、がしゃがしゃと口を鳴らして餌を待つゴミ箱?の方へぽ~いと投げられました。
ゴミ箱の持つ鋭い牙が嬉しそうにカチカチと鳴り、あんぐりと口を開けたところで私の正常な思考が戻ってまいりました!
このままではスプラッタな事態が起きてしまうではないですか! 誰ですか、あんなゴミ箱買ったのは! 危険ですっ、ぜひ返品を!
そう心で叫びつつ、目は弧を描く生首へ・・・
「キョワアアアアァァァ~ッ!」
あと一歩でスプラッタ~! というところでクロちゃんがうるさいとばかりに片方の耳に指を入れて顔をしかめ、首をもう一方の手でキャッチして壁に向かって投げとばしました。
「ぐふぁ! 」
首は壁に激突し、壁に埋まっております・・・・
「・・・・・・」
ぼとりっ
「ぴぎゅあっ!」
時間差で落ちる姿の恐ろしさに思わず落ちるのをわかっていながら驚いてしまいましたよ…。
首はコロコロと転がった後、ふらふらとよたつく鎧の体が回収に来て拾い上げました。
拾われた頭の髪の間から鼻血を噴いている姿が見えたのですが大丈夫でしょうか…。
「何か必要なものはあるか?」
クロちゃんが突然声をかけてくるので私は首を横に傾げました。と同時にラス君も横に来て同じように首を横に傾げます。
これはあれですね。小さい子がよくやる人の真似。可愛過ぎます。
チラリとクロちゃんを見れば、口元を抑えて耳を赤くしながら明後日の方向へ目をやっております。
ふふふふふ…クロちゃんもこの可愛さに撃沈しましたね。
「にやにやするな」
照れ隠しに頭を押さえつけられました。これは抗議モノですよっ。照れ隠しに娘をいたぶるとは何事ですかっ。
ぴっきゅっぴっきゅっと怒りの声を上げながら抗議すると、リアーナがクロちゃんの頭の上で涎を垂らして起きました。半分以上寝ぼけているようです。
クロちゃんの頭の上がえらい惨状になっておりますがよいのでしょうか…。
「ハムちゃん…」
「はっ」
リアーナが視線を首無し騎士に向け、鼻血を必死に拭っていた首無し騎士がびしりと姿勢を正して答えます。
ハムは訂正しないんですかね? そして顔の辺りが血だらけですがいいんですかね? 怖さ二倍になっておりますよ?
「命令です。リーリアちゃんをお城巡りに連れて行っておあげなさいっ」
はい?
「お任せください王妃様!」
いや、ちょっ…お母様寝ぼけてらっしゃいますよ! 今のは間違いです!
「クロちゃん! 私お城巡りはいりませんよ! 必要なのは平和と安全…むきゃあああああ~!」
ハムちゃんに抱えられましたっ。しかもハムちゃんは猛スピードで広い部屋を飛び出しますっ。
クロちゃん!ここは止めるべきだと思うのですっ。このままでは私はお化け屋敷な魔王城にて命を落とす危険がっっ
クロちゃんをすがるような目で見れば、クロちゃんはやれやれという表情で椅子に腰かけるところでした。
見捨てられたー!
おのれクロちゃんっ!