皮を脱ぐ
「どうしてそんな姿に?」
「ミャオミャオ」
「あの日、皮を拾ったのはあなたなのね?」
「返してくれるの? 脱ぐ時、少し痛いけど平気?」
「じゃあ、ついてきて」
女は猫の言葉がわかるらしかった。
何日か振りに「人」と会話をできたことに少し安心した。
公園の植え込みに近いベンチに女が座る。
私も抱きかかえられ、ベンチに猫らしく座る。
「一枚足りなくて大変だったわ。
周りにたくさん人がいたし、破れかけていたからあきらめて、新しいのを作ってもらったんだけど着心地が悪くて。
これ、私のお気に入りだったの。
人間が着ると猫になるとはね。母から聞いたことあるけど。あなた、しゃれた模様ね。
この姿で何日も過ごして、いろいろ大変だったでしょ。」
二人きりになると女はよくしゃべった。
しゃべりながら頭や喉を撫でられて安心して女に身を任せようと思った。
女は革の匂いのぷんぷんする黒いバッグから、はさみを取り出し、しっぽをつかんできた。ものすごい力で押さえつけられじんじんしてきた。
全身の猫毛が逆立つ。
「ちょっとだけ我慢してね」
はさみがぎらぎらをひかりながら視界の隅に消えた。
チョキン
全身に激痛が走った。
「大丈夫よ」
「ドコガタイジョウブナンデスカ、イタイデスヨ」
さらに女がチョキチョキと切ると、むにゅっという変な音とともに皮がはがれ落ち、人間の姿に戻った。
すぐに痛みは治まり、
「ありがとう」
と言おうと振り向くと女の姿は、そこにはなかった。




