拾う
走る女がいた。
皮がはがれかけていたので、
「はがれてますよ」
と言おうとするが真剣な顔をしていたので言いそびれる。
小さな子どもを抱えて走っていた。
厚化粧で、色が白く、目が細く、髪型こそは人間らしいが、はがれていた。
女は通勤の朝によく見掛ける女だ。
いつも切羽詰まったような追われるような様子で目に付いた。
「あっ」
女がつまずくと一気に皮がはがれ、四つ足でものすごい速さで走り去っ
ていった。
女は白狐だった。
くしゃくしゃになって落ちている皮を見ると、私は衝動に駆られた。
私は周囲を確認し、とっさに皮を拾い上げ、バッグに入れた。
午後になると会社に直帰する連絡をいれ、いそいそと帰ってきた。
まず、部屋で皮を縫い合わせ、かぶる。
皮はひんやりとしていて肌にぴたっと吸い付いてきた。
皮は白かったが張り付くと肌と皮の境目がわからなくなった。
鏡を覗いても、姿は人間のままだったので、
「なーんだ」
と、呟いたはずが、
「みゃーぉ」
としか言えない。
思わず、もう一度、鏡の中を覗くと、三角のかわいらしい耳が頭の上にピンと付い
ている。
頭に手をやり、触るとふわふわした毛まで生えている。
人間の耳も元の位置についているので、耳が四つになったのである。そのせいか、先
ほどから小さな音が気になり始めていた。エアコンの音、時計の秒針のカチカチと言
う音がやけに気になる。




