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時と宇宙(そら)を超えて・番外編  作者: 琅來
~邂逅のその時~
26/60

終章「八年が経って」

 燦々と、真夏の眩しい太陽が照りつけて来る。

 睦月むつきこうの四人は、それぞれぐったりと机に身を伏せていた。

 アメリカ州の中でも、どちらかと言えば南寄りにあるこのレイメーア大学は、日本の家よりも暑い。

 日本と違って湿気は多くないが、その分じりじりと肌を焼かれるように強い太陽にさらされるのだ。

 確かに、こちらの夏休みが日本よりも長い理由がよく分かる。

 けれど、四人がぐったりとしているのは、それだけが理由ではなかった。

「ようやく……終わったわね、補講……」

 ぐったりと由梨亜が呟くと、千紗もだらけながら言った。

「ああ……うん、終わったね……。って言うかさ、何? あの教授の迫力! 確かに、授業とかが遅れたのはあたし達がイギリスにいってたからだけどさ、それって結局は不可抗力じゃん! 別に旅行してた訳じゃないんだしっ……!」

「あ、おい、ちょっと待て、千紗」

「何で?! 別にあたし達は悪くないじゃん! 貴族をイギリスに集めるって言い出した奴が悪いんだよ!」

「いや、だからな、千紗」

「――ほう、授業に付いていけないのは自分のせいではない、と。そう仰るのか? ミス・ほんじょう姉」

「ぎゃあ! 出たっ!」

 千紗は思わず叫んで、一歩仰け反った。

「ほっほう? 『出た(・・)』とは、これまた珍妙な言葉を……」

「あ、ああああのですね、プロフェッサー・リヴィングストン、ちょ、ちょ~っと待って下さい、これには深い訳が――」

「訳なんぞどうでも宜しい、ミス・本条妹」

 その返答に、由梨亜は顔を引き攣らせる。

「いや、あの、プロフェッサー? 『本条姉』とか『本条妹』とか、ややこしい言い方じゃなくって名前で呼んで下さいってお願いしたはずですけど? 私達双子ですし?」

「では、『プロフェッサー』などと、どこにでもいるような人間の称号ではなく、『ロード・リヴィングストン』か『ヴァイカウント・リヴィングストン』とお呼びなさい。私は、れっきとしたイギリスの子爵ヴァイカウントなのですから。アメリカで大学教授などをやっているのは、ただの趣味と暇潰しです」

 ふっと笑うその姿は、悔しいことに実に様になっている。

「とはいえ……この私を、たかが成金貴族であり生徒であるミス・本条姉が愚弄したことは事実。現代経営学論の、地球連邦とおうこくなどの先進国家間における、経営システムの違いをレポート用紙三十枚で書きなさい。いいですか、きっかり三十枚です。それより多くても少なくても許しません」

「はあ? 何その宿題。って言うか、確かにうちは会社経営とか商人みたいなことやって金稼いでますけど、そっちみたいに先祖に縋り付いて昼行燈するよりはましでしょう? よっぽどこっちの方が有意義で、社会貢献も果たしてますが?」

 ばちばちと、千紗とリヴィングストンの間で火花が散る。

 やがて、ふっと二人が笑みを浮かべる。

「ほう、やるな、小娘」

「あら、どうも? プロフェッサー(・・・・・・・)?」

 リヴィングストンはすっと目を細めると、ぐるりと四人を見渡した。

「さて、先程の課題は、ミス・本条妹、ミスター・そうごう、ミスター・ふじさきにもやってもらおうか」

「え~っ?!」

「ちょ、プロフェッサー?!」

「ま、な、何で俺達までっ?!」

 次々に三人が文句を言うが、

「問答無用です」

 とばっさり斬られ、固まっているうちにリヴィングストンはどこかに行ってしまった。

「あ~っ! ったく、千紗、お前のせいだぞ!」

「そうだぞ! お前がプロフェッサーに突っ掛かんなきゃ、俺達まで厄介な課題を背負わなくって済んだんだ!」

「え~? でもさ、四人でおんなじ課題出されたってことは、四人で協力して三十枚書けばいいじゃん」

「あ、それいいわね! だってプロフェッサー、一人三十枚って言ってなかったもの! だったら、私達が勝手に解釈して四人で三十枚書いても問題ないわ」

 にこにこと笑う由梨亜に、睦月が顔を引き攣らせた。

「……おい、それであいつが納得するのか?」

「しなかったらその時よ。ね、香麻?」

 にっこりと笑い掛ける由梨亜に、香麻も笑い返す。

「うん、そうだな」

「……おい香麻、てめえ、ほだされてんじゃねえよ」

 睦月はがっくりと肩を落とした。

 その隣で、ずっと何かを考え込んでいた千紗が、あっと声を上げた。

「ん? どうした、千紗?」

「あのね、あのプロフェッサーのナルシスト具合とサディスト具合、な~んか見たことあるなあってずっと思ってたんだけど、まさやすに似てるなあって思って」

「マサヤス?」

「誰だ、それ?」

 睦月と香麻は首を傾げ、由梨亜は顔を引き攣らせた。

「あ~……確かに、プロフェッサー・リヴィングストン、眞祥と性格そっくり……。眞祥の方は、貴族じゃないけどね」

 千紗と由梨亜で盛り上がっていると、睦月が不機嫌そうに声を上げた。

「だから、その『マサヤス』って誰なんだよ!」

「ん? あたしの元叔父さん。タメだったけど」

「はあ?」

 首を傾げる二人に、由梨亜が溜息をついて詳しい説明をする。

 それを聞いても納得し切れなかったのか、睦月は訝しげに首を傾げた。

「なるほどなあ……。でも、何で香麻は知らなかったんだ? その眞祥のこと」

「え? だって俺、中学からだし。眞祥って奴、いなかったぞ? 中学には」

「うん。眞祥、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんと一緒に、どこだったかな……。確か、インド州北部のダージリンの一大産地に、小学校卒業と同時に引っ越しちゃったから……」

「ほんっとにあの家の男二人、紅茶狂だったからねえ……」

 遠い目をする由梨亜に、子供の頃からだから慣れているのか、千紗がくすりと笑う。

「でも、意外と仲いい人には弱いんだよ? 眞祥だって、何だかんだ言って、あたしと由梨亜の言うこと聞いてくれてたじゃん。確か、写真――あった」

 千紗は携帯端末をいじると、睦月と香麻に見せた。

「ほら。これ、小学校の卒業式の写真。記録的に凄い大雪で大変だったけど、楽しかったなあ」

 その写真には、少し長めの髪をした仏頂面の少年が、卒業証書を手にした千紗に上から伸し掛かられていて、その隣で爆笑している由梨亜の姿が映っていた。

 懐かしいのか、にこにこと目を細めている千紗に対し、睦月はどんどんと顔を険しくする。

「……千紗、この眞祥って奴、お前の叔父だったんだよな?」

「うん。あ、でも、もうあたしはさいいん千紗じゃなくって本条千紗だから、もう叔父さんじゃないね。結婚もできるし」

 あっさりと放たれた爆弾発言に、睦月が凍り付く。

 その様子を見て、由梨亜が意図的に更なる爆弾を落とす。

「そうよねえ。だって千紗、初恋が眞祥だって言ってたもんね?」

「うん。確か、保育園くらいの時かな?」

 由梨亜の意図に全く気付かずに言った千紗に、睦月が不気味に微笑む。

「ふ~ん、そうか、お前の初恋だって……? ふ~ん……」

 しかし、千紗は全く睦月の様子に気が付かない。

「でも、本当に懐かしい。今、どうしてるかな……。そもそも、眞祥もお祖父ちゃんもお祖母ちゃんも、今どこにいるんだろう……」

 少し寂しそうに笑う千紗に、由梨亜が首に手を回して抱き付いた。

「ちょ、由梨亜! 暑苦しいってば! どうしたの?」

「ん? あのさ、明日日本に帰るでしょ?」

「うん、それが?」

「だったらさ、日本に帰ったら、彩音の小父様と小母様のお墓参りに行かない?」

 その言葉に、千紗の顔が強張った。

 今まで千紗は、意図的にその話題を避けていた。

 由梨亜は勿論それを知っていたが、今、意図的にその話題に触れる。

「もうそろそろ、小母様の命日でもあるでしょ? ……ずっと、お墓参りしていないんだもの。小母様のお墓だって、千紗、一度も行ってないでしょ? もう、お父様もお母様も記憶が戻ったんだし、気兼ねも何もないわ。どこに行ったんだって、不審がられることもない。小母様だって、千紗がお墓参りに来てくれたら、嬉しいんじゃないかしら」

 千紗は、唇を引き結んで俯く。

 だが、決然と顔を上げて言った。

「うん、分かった。――行くよ。お母さんとお父さんのお墓」

「じゃ、それで決まりね」

 にっこりと二人で笑い合っていると、

「……おい、千紗」

「何?」

「その眞祥って奴、名字は何だ? 彩音か?」

「ううん。眞祥はお母さんの弟だから、お母さんの旧姓の東風こちがみだよ。東風上眞祥」

「ふうん……東風上、ねえ……」

 うっそうと笑う睦月に、ようやく千紗は不信感を持ったのか、眉根を寄せた。

「ちょっと、睦月? どうしたの?」

「いや、何でもない。……でも、墓参りに行くの、千紗の母親の命日、なんだよな?」

「え、うん……。それが?」

 千紗は訝しげに目を瞬かせた。

「じゃあ、その東風上眞祥に、もしかしたら遭う(・・)かも知れないな?」

 睦月が言葉に含ませた意味を千紗は別の意味で受け取り、あわあわと慌てた。

「あ……そうか。どうしよう、由梨亜。多分眞祥、あたしと由梨亜のこと、ただの友達の双子ってしか憶えてないよ。何で自分のお姉ちゃんとお義兄にいちゃんのお墓にいるんだって思われたらどうしよう?」

 動揺してあわあわと狼狽える千紗に、由梨亜がにっこりと笑った。

「大丈夫よ。何とかなるわ。適当に誤魔化せばいいんだし、誤魔化せなかったら私が眞祥の記憶を戻すわ。それで何とかなるわよ」

「あ、そっか……。最終手段になるけど、それがあるよね」

 納得したのか、千紗は頷いて笑顔になった。

「うん、そうよ。何とかなるわ」

「よ~っし。じゃ、決まったから帰ろう! 明日に日本に帰るんだから、さっさと戻って残りの準備を済ませとかないと!」

「じゃ、寮まで競走しましょう!」

「え~っ! それ、俺への当て付け? な、そうだろう? このメンバーで走ったら、俺がビリって決まってるじゃねぇか!」

 香麻が怒鳴るが、

「え? でも、奇跡が起こるかも知れないじゃん!」

「そうよ、ほら、香麻! 睦月も行くわよ!」

「はいよ。じゃ、罰は前にも屋敷でやった通りでいいな?」

「うん、オッケー! じゃ、行くよ! よーい、ドン!」

 四人は、一斉に走り出した。

 けれど、すぐに香麻が半歩遅れる。

 その様子を見ながら――いつの間にか、四人は笑い転げながら走っていた。



(終)

ここまで読んで下さり、本当にありがとうございました! ~邂逅のその時~は、ここで完結となります。

次回からは、おまけとして様々な小話を載せていきたいと思います。どんな話なのかは、今日更新する活動報告に一覧を載せておくので、気になる方はそちらをご覧下さい。

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