表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時と宇宙(そら)を超えて・番外編  作者: 琅來
~邂逅のその時~
23/60

第五章「最後の秘密」―1

 可哀想なことに、ごうは固まって動けない。

 他のなみ家の家族も同様だ。

 は冷笑を洩らすと、手にしていた紙をテーブルに叩き付けて、踵を返した。

「ああ、これはそちらでどうぞご自由に? 二重三重にバックアップは取ってるし、警察にだってこれのコピーはあるから」

 鮮やかに捨て台詞を残して立ち去ろうとする千紗と、その後について自然に立ち去ろうとするまさやすに、も慌てて部屋を立ち去ろうとする。

 こんな居心地の悪い場所に、いつまでもいたくはない。

 だが、空気が読めないと言えばいいのか、彼女はどこまで行っても彼女だということなのか――。

「お、お待ちなさい!」

 傲慢な貴族の声に、眞祥は立ち止まりこそしたものの振り返らず、千紗は煩そうに顔を顰めて振り返った。

「何? 落ちぶれたお嬢様」

「落ちぶれた、ですってっ……?!」

「そう。いくら貴族だって言っても、娘のあんたが事件を起こして、その父親までもがこんだけやっちゃったらねぇ。もう貴族とは認められないかもよ? 中学だって、あんたは町の方の、ここいらの富豪が沢山通ってる私立に行くっつってたけど、もうこうなったら無理じゃないかな? この屋敷の維持費だけでも馬鹿になんないし、たとえぎりっぎり貴族として認められたとしても、固定資産税も学費も出せないんじゃないかな?」

「な、何を言うのです?! そう簡単に、貴族ではないとは認められないというのにっ!」

 顔を真っ赤にして怒鳴るさきに対して、千紗は至って落ち着いている。

「ふ~ん。ま、どうせ庶民とか富豪扱いになるか、名ばかりの貴族になるかって違いしかないだろうけどね。で? 訊きたいことって何」

「そ、それですわ! お前と眞祥は、一体どういう関係ですの?!」

 バン、と強く椅子の肘掛けを叩く咲に、眞祥は思いっ切り顔を顰めて振り返った。

「うっせえな、このドブス。キャンキャン吠えてうっせぇんだよ」

 その言葉に、咲だけではなく、由梨亜も顔を引き攣らせた。

「い、いくら何でも、その言い方は、ないんじゃないかなぁ……?」

「は? 今までず~っと、こいつの物言いには我慢させられてきたんだ。これだけじゃあ足りねぇよ。俺は、基本的には綺麗な奴としか喋んないっつうのに、お前って奴は……」

 半眼で千紗を睨む眞祥に、けれど千紗はどこ吹く風だ。

「だって、しょうがないじゃん? あたしには使える人がいなかったんだから。だったら、親戚(・・)のあんたに頼むしかないでしょ? ねえ? 眞祥叔父さん(・・・・)?」

 ――途端に、咲の顔が凍り付いた。

「うっわあ……やめろよ。タメのくせして『叔父さん』はないだろ」

「だって、事実でしょ? あたしのお母さんの歳が離れた弟があんたなんだから」

 和やか(?)に会話をする二人に、由梨亜はずっと気になっていたことを訊ねた。

「歳が離れてるって……いくつ違うの?」

「え? え~っと……十九歳、かな? あたしのお母さん、十九歳であたし産んだし。……っつうか眞祥、何であんた十一月生まれなの? あたしは正真正銘あんたの姪なのに、誕生日はあたしの方が先じゃん」

 その言葉に、由梨亜の思考が停止した。

「……ってことは、さいいんさんの方が早く産まれたのに、東風こちがみさんは叔父さんってこと……?」

「言うなっ! それは二度と口にするなっ!」

 ……どうやら、眞祥にとってそれは禁句だったらしい。

「じゃあ、これから眞祥のこと、『眞祥叔父さん』って呼ぶから。宜しくね? 眞祥叔父さん(・・・・・・)?」

「んのっ……! もう帰るぞ、千紗!」

「あ、逃げた」

 思わず由梨亜が呟くと、何とも凄まじい形相で眞祥に睨まれる。

「いいからつべこべ言わずにさっさと行くっ!」

「は~い。あ、忘れるところだった」

 千紗はそう言うと、咲の学生証を咲に向かって投げ付ける。

「ほら、これで用は済んだし、もう行こう」

 いきなり千紗に手首を掴まれ、由梨亜は思わず目を瞠った。

 由梨亜も咲達も唖然としているうちに、そのまま千紗に引きずられて外に出た。

 千紗も眞祥も、もうこの屋敷には近付きたくもないのか、あっと言う間に咲の屋敷は見えなくなる。

「あ、あの――そろそろ、手を離してもらってもいい?」

 由梨亜が恐る恐る声を掛けると、千紗はびっくりした顔で手を離した。

 どうやら、無意識で掴んでいたようだ。

 辺りはもう、すっかり暗くなっている。

「なあ。ほんじょうさん。家、大丈夫か?」

「家?」

「門限だよ、門限。貴族なんだし、結構厳しいんじゃないのか?」

「あ……すっかり忘れていたわ。今、何時くらいかしら? もう暗いけど……」

「ん~、六時半だな」

 眞祥が携帯端末を取り出して言うと、由梨亜はその時間にがくりと肩を落とした。

「……もう、いいわ。東風上さん、その端末、貸してもらえるかしら?」

「あ、いいけど?」

 由梨亜は眞祥の携帯端末を受け取ると、家の番号に掛けた。

「もしもし? 由梨亜ですけれど、遅くなるので一応連絡を入れました。帰る時にまた連絡します」

 由梨亜はたったそれだけを言うと切り、更には端末の電源まで落とした。

「……え~っとさ、今、留守電みたいな感じで話してたけど……」

 千紗に恐る恐る言われ、由梨亜はあっさりと頷いた。

「ええ。留守電だもの。私が今掛けた番号は、お父様の予備端末だから、基本的に留守電に接続されることになっているのよ。悪戯電話だったら留守電になった時点ですぐに切られるし、何か大事な話だったら、留守電にメッセージを残すでしょ? そうしたら、それをお父様が聞いてリダイヤルすればいいから。あ、その携帯端末、電源入れないでね? 多分お父様から凄い電話が掛かって来るだろうし、下手したらGPS使って位置探索してくるかも知れないから」

 由梨亜はそう言うと、少し小首を傾げる。

「私、まだちょっと訊きたいこともあるし、もう少しお喋りしていたいの。彩音さんの家に行ってもいいかしら?」

 その言葉に、千紗は盛大な溜息をついた。

「はあ、もう……いいよ。あと五分で、うちに着くし」

「良かった。ありがとう」

 そう言ってにっこり笑う由梨亜の背後で、眞祥が

「確信犯かよ……」

 と呟いたのは、聞かなかったことにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ