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時と宇宙(そら)を超えて・番外編  作者: 琅來
~総ての始まりの、始まり~
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序章「暁光の姫君」

本編の主人公・富実樹の母であるマリミアンが主人公の、富実樹が生まれる一年前からの話です。

 父達の、感慨に満ちた瞳に、マリミアンは背筋を伸ばした。

 彼女に期待されていることは――とても大きく、重い。

 けれど、それだけではない高揚感が今、彼女の胸を満たしていた。

「マリミアン……」

 祖父である、数年前に引退した前(せん)しゅくだいじん、カウサン・ミアーチェ・スウェールに名を呼ばれ、マリミアンはその場に軽く膝を付いた。

 カウサンは、感動で軽く瞳を潤ませながらも、マリミアンの額に手を翳す。

 これは、儀式だ。

 マリミアンにとって――そして、この場に居並ぶスウェール家の者達にとって、とても重要な。

「マリミアン・カナージェ・スウェール。其方はこれより、おうこく第一王子、うんきょうほうきょう王子殿下の元に嫁ぐ」

「……はい、御祖父様」

 マリミアンは、胸の前で手を組んで答える。

「其方はこれより、峯慶王子殿下のめかけとなる。王籍名は――花雲恭、しょうと、これよりは呼ばれることとなる。心せよ。そして、峯慶王子殿下に心から尽くし、壮健な子を生せ」

「はい。御祖父様。心得ました」

 その言葉に僅かな気恥ずかしさが覗くのは、まさに箱入り娘として育てられてきたからか。

 もう、二十三歳であるとは思えないような初々しさである。

 カウサンが翳していた手を戻すと、マリミアンはゆっくりと立ち上がった。

 そして、その立ち上がったマリミアンに、次々と親族達が言祝ぎを与える。

 最年長者である曾祖母を筆頭とし、おおおおなどが、次々とマリミアンに祝辞を述べる。

 やがて、その順番が兄弟姉妹達に移り変わった。

 マリミアンは、その受け答えをしながらも、どこか頭の芯はぼんやりとしていた。

 二十九歳の異母兄あに、シャーウィン・リシェル・スウェール。

 二十七歳の異母姉あね、シュメリアン・リシェル・スウェール。

 二十五歳の兄、シャーキヌ・カナージェ・スウェール。

 二十歳の異母妹いもうと、シュリエル・ハミシェ・スウェール。

 十八歳の異母妹、アミエル・ハミシェ・スウェール。

 十七歳の異母弟おとうと、シャーリン・ミシェル・スウェール。

 マリミアンは、七人兄弟だった。

 けれど、大勢の兄弟というのは、貴族以外には滅多にいない。

 それというのも、花鴬国の女性が産める子供の数は、基本的に三人までだからだ。

 別に法律で定まっている訳でもないし、それ以上産もうと思えば産めるのだが、そうすると体を壊したり、流産してしまったりする確率が格段に跳ね上がる。

 だから、いつの頃からか、花鴬国の女性は二、三人程度しか子供を産まなくなっていったのだ。

 何と、数百年ほど前、『花鴬国人の女性の体 ~過多妊娠・出産のリスク~』という本が大ベストセラーになったほど、花鴬国人にとってはそれが普通のことであった。

 そうすると、一夫多妻制が許されている貴族でなければ、大勢の兄弟というのは持ち得ないのだった。

 マリミアンは、いつの間にか、家族達の姿を眺めていた。

 マリミアンはこれから、この花鴬国首都シャンクランにある王宮、カサミアン宮へと行く。

 スウェール家の屋敷もシャンクラン内にあるが、城と貴族の屋敷では、壁が存在する。

 距離は近いけれど、心の、壁が。

 これから異母姉達に会うことは、少なくなってしまうのだろう。

 シャーウィンはスウェール家を継ぐ貴族として、シャーキヌは貴族出身の官吏として城に仕えているので、もしかしたら会う機会はあるかも知れない。

 これは、父達も同様だ。

 けれど、異母姉や異母妹達、そして異母弟とは、もうほとんど会えないかも知れない。

 ツキリと、胸が痛む。

 だが、自分が峯慶に嫁がないという手段はなかった。

 現王の花雲恭(とう)れんの妾は、スウェール家が代々戦祝大臣を継いでいるように、代々せいざいだいじんを継いでいるシャリク家の娘だ。

 先王の花雲恭()は元々第二王位継承者で、彼女には異母兄がいた為、本来ならその異母兄と結婚してこうと呼ばれていたはずだった。

 けれど、その異母兄が病で亡くなった為、第一王女で第二王位継承者である癒璃亜が王位に即いたのだった。

 その影響で、本来なら癒璃亜の異母兄に嫁ぐ予定だったスウェール家の娘は、別の相手と婚姻を結んでいる。

 そして、先々代の王にはシャリク家の娘が嫁いでいて、三代前の王には、代々しゅうさいだいじんを継いでいるウィレット家の娘が嫁いでいる。

 歳の見合う娘がいなかったというのは仕方がないことだが、貴族の中で最も位の高いスウェール家なのに、マリミアンの前に王に嫁いだスウェール家の娘は、四代前まで遡らないといないのだ。

 実に、軽く百年以上は経過している。

 だから、スウェール家のマリミアンに対する期待は、並外れたものがあった。

 マリミアンはそれを重荷に感じながらも、心が弾むのを感じた。

 それは、王家に嫁ぐという名誉からでも、国母になるという野望からでもない。

 愛しい人(・・・・)の、傍にいられること。

 そして、もしかしたら一生手の届かなかったかも知れない人と心を通わし、子を生したとしても、決して咎められず、誰からも祝福してもらえるという立場になれるということ。

 その二つからだった。

 マリミアンは、逸る心を抑えるように、そっと瞳を閉じた。

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