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生と死の狭間で  作者: 美紗埜 穂美
始発の彼方
3/4

壊れる世界

 剣と同化した。

 そのことの意味を、本当の意味を、僕は知らずにいた。

 『one』との同化が、世界のサイクルに何をもたらすのかも・・・・・・。



 同化した剣を見て、穂美の目が驚きに見開かれている。無論、驚いているのは穂美だけではない。

「まぁ、剣がなくなったからこっちのものね!」

 言下に、穂美が飛び込んでくる。

 とっさに、いつもの癖で、何も持っていない手を振る。

 驚愕は、連鎖した。

 振った手に魔力が集中し、不可視の波動となってほとばしったのだ。

「えっ」

「あ?」

 穂美と僕の声が重なった。

 彼女は、J・ベアリングでそれをはじき、後ろに跳躍して距離を開けた。

「その剣は・・・・・・」

 穂美の目が真円にかなり近くなっている。

 しかし、すぐに表情を戻し、再び斬りかかってきた。

 僕も、それに対応し、また腕を振る。

 ジャギィン、シュウウル

 それは、J・ベアリングで軽く止められ、穂美は足を止めずそのまま魔剣を振り上げる。

 剣があったら・・・・・・

 刹那、更なる変化が訪れた。

 シャャーー

 僕の爪が伸び、互いに絡み合って、ひと振りの剣になったのである。

 ギャ、バチバチバチッ!!

 金の魔剣と、透明な剣とも、爪ともいえぬ凶器がぶつかり合い、火花が散った。

 そのまま、手を下に滑らせて穂美の胴を薙ぐ。

 『ONE』と同化してしまった今、どんなことが起きても不思議じゃぁない。いちいち驚いていたら、命がいくつあっても足りない・・・・・・。

 それが、今出た僕なりの結論だ。

 もう一方の手にも、意識を集中させる。

 バキィバキバキキッ

 両手が、凶器となった。

 何かを持っている、という感覚はない。ただ、腕を振ればそこに剣がある。剣を振りまわしているのと同じなのだ。その凶器には重さが無く、ほとんど疲れはしない。

 シュッシュッシュッ

 一振り、二振り、三振りと、波動を作り出す。

 その波動を受け、かわし、穂美が近づいてくる。

 大きく横に構えられた剣を、穂美が勢いよく降ろうとした時、世界が、降下した。

 一瞬遅れて金の半円が足下に現れる。

 ただでさえ暗かった日がいっそう(かげ)った。

 穂美が驚きの目でこちらを見上げている(・・・・・・)

 底目で着て、僕はようやく何が起きているのかを悟ることができた。日を翳らせた元、穂美が驚きの視線を向けているもの、それは僕の背中から生えている強大な黒い翼だった。

 無意識のうちに翼が生え、僕は空を飛んでいる。この状況がいまだ僕には信じられなかった。

 翼に意識をむけ、動かしてみる。巨大な影が蠢くとともに、僕の身体は上へ、上へと上昇していった。風を切る音が、耳元で心地よく響いている。

 僕は目を閉じて、体中の力を抜き、この虚無な一時に身を任せた。

 勢いで、そのまましばらく上昇が続いたが、暫らくしたらそれが止まった。

 遥か高みから眺めるアンバレーザの草原に、僕のこの存在は、あまりにも小さなものに感じられた。

 勇がいなければ・・・・・・。

 魔物の存在を知らされてから、いつもそう思って生きてきた。

 僕には不釣合いな大きな力。いつ勇になってしまうか分からない恐怖。

 いろいろな気持ちが混ざり合い、今、また新たな事象が起こった。小さく翼をはためかせながら、僕は思っていた。「普通の暮らしがしたい」と。いまさらそんなことは出来ないとわかっていながらも、だからこそ望む。人間でいたいと。魔物も何もいない、平和な世界で暮らしたいと。

 その時、頭の中で声が響いた。

『なら、全てを終わらせよう。私とともに、望む世界を手に入れようじゃないか。勇を倒し、自らを手に入れ、何も起こらない世界を創ろうじゃないか。さぁ、共に・・・・・・』

 直後、左手に違和感を感じ、そっと手の中を見てみた。そこには一つの赤い目玉が開眼していた。

 その目からくるエネルギーに、体の全てを任せた。

 体が急降下し、頭が下を向く。

 両手にクローが現れ、落ちながら大地を破壊する。

 音速となった僕は、動くことすら出来ずに、ただ剣を構えていた穂美の首筋に。

 勢いよく剣を突き刺した。

「終わった・・・・・・」

「負けた・・・わ・・・」

「僕は決めたんだ。平和だった日々を取り戻す、と」

 僕は言った。

「でも・・・、大丈夫?穂美?」

「ヴァン・・・アは・・・、不死だ・・・ら」

「『ONE』での傷は魔法じゃ癒えないんだろ?」

「痛いのをが・・・んすれば大ジョ・・・ブよ・・・」

 僕は薄く笑った。

「それ・・・り、あなたに言いた・・・ことが・・・るの」

「えっ・・・?」

「『ONE』を受け入・・・たニンゲンは、たいて・・・即死よ。あな・・・は本当に・・・ンゲン?」

「・・・」

 そのまま、穂美が僕に手を差し伸べてくる。僕はその手を取った。

 二人は、和解した。

 遠く光るタワーは光輝き、どこまでも続いている。

 

 タワーの中で、優達の足音が木霊したものが遥か上の方から聞こえてくる。

 僕と穂美が通った後には、何も残っていない。ただ乾いた沈黙が尾を引いているのみだ。

「おぉ~~い、勲、穂美ちゃ~ん。いる?いたら返事して~。序に今の二人の関係を教えてねー」

 友美のおどけた声がどこかから聞こえてくる。そして純痲の声も。

「若いお二人さん、ここで待ってるからダッシュで上がってこい!12935段、ダッシュだ!!」

「へぇ、数えてたんだ。意外」

 優のこの何気ない一言に純蟇の心がズタズタになったのはそれを見なくても解った。

「羽は・・・、使わないほうがいいかな?」

 僕は首に包帯を巻き、止血した穂美に訊ねる。

「なぜ私に聞くの?」

「いや、えと、『ONE』に詳しそうだから・・・」

「そぅね・・・、使っても別に害はないわ」

 羽を広げようと意識を集中する。穂実の目の中の僕の瞳が、深紅に染まっていく。

肩甲骨が膨らみ、一対の漆黒の翼が出現する。穂美が頭を僕の胸に寄せる。翼をはためかせ、みるみる上昇していく。

螺旋状の階段が、下に伸びていき、はるか上の三つの人影に近づいていく。

深紅の瞳を携えて、漆黒の翼をはためかせながら目の前で停止した僕たちの姿を見て、2人-優を除いて-は目を瞬いた。

「ヴァンパイ・・・ア?」

 友美が声を上げた。

「私は、ね」

 穂実が答える。

「じゃぁ、勲は、いったい・・・」

 純痲が言う。

「私が力を貸してるのっ」

 穂美が返す。

 優は、動揺のかけらも見せない。

「さぁ、上るぞ」

________________________________________

此のタワーには終わりがない。一秒一秒ごとに延びていっている。

此のタワーはそれ自体が書物で、歴史書なのだ。

前をいく優の足が止まった。

タワーの壁に彫り込まれている、文字をあごに手をやりながら読んでいる。

「何て書いてあるの?」

僕は優に訊ねる。

「南暦15年、7月36日28時13分56秒世界の均衡を保つ輪に、異変。終末の世界の負のエネルギーが、流れ出してきた。それは命を奪い、全てを終わりに近づけた」

 なんの前置きもないシャープな答え。

 これが、勇に大きな関係のあることだとは、まだ僕は知る余地もなかった。

________________________________________

Twenty


巨人殲滅大作戦


目の前に在るのは巨大な目。

それに思いっ切り剣を突き立てる。

呻き声を上げて倒れるそれは、一人の巨人だ。

「こいつら、きりがないぞ。斬っても伐っても湧いて出てきやがる。」

すぐ横で二体を一辺に狩っていた純蟇が言う。

「当たり前だろ。八百万の世界から来ているんだから。それに僕たち以外にもハンターは来てると思うよ。他の世界から」

「なら自分の世界のだけ斬って帰ればいいだろ」

すかさず反論が飛ぶ。

「そこでだ、提案がある。いっその事その終末の世界とかいうところの負のエネルギーで此の世界を満たしてみたらどうだ?All巨人が殲滅出来るぞ。」

「は?」

純痲が間の抜けた声を上げる。

「・・・酷」

 穂美が、否定的な声を上げた。

「てかさぁ・・・、んなことできるわけ?優ぅ?」

 とたん、友美に優の人差し指が向けられた。

「できないと、思ってるか?」

 場違いな、はじけるような笑顔。

 あらまさかすぎる、友美、というかできないと思っている僕ら全員への挑戦だ。

「終われ、開け、時空の扉よ。The world end.」

 とたんに、薄暗い天に一筋の線が現れ、横に開き始めた。

「さて」

 優が言う。

「逃げようか」

 僕の隣で、穂美がつぶやいた。

「グレイマスター・・・、これほどとは・・・・・・」

 友美と純痲が、張り付いた視線を穂美にむけた。

________________________________________

 僕らが魔英山に戻ってきたとき、優はすでに姿が見えなかった。そして、何処からか焦げた臭いがしてきた。

 しかし、何一つとして物が燃えている気配はない。

 けれども、極度に焦げ臭いのだ。

 普通に世間、一般、常識を超えたこと。こんなことを平気で出来るのは・・・・・・

「優!」

 僕は叫んで、彼女の家へとかけていった。

「勲くんを、あんまり巻き込まないでほしいものね」

穂美が後で呟いた。

「勇を無理矢理にでも探し出そうとするなんて、勲くんにもかなりの負担が係るのに……」


 皆一様に、穂美、友美、純痲も、勲の後を追うようにして優の家へと駆け始めた。


 これが、破滅への道への幕開けだとも知らずに。

―――――始まりが終わり、終わりが始まる。――――――

 遠くで、誰かが呟いた。


 魔法陣、火、水、木、光と闇の紋章。

 優が、優の魂が、その躯を脱け出し、世界を巡り勇を探している。全てのエナジーの力を使って。

 あの焦げ臭いにおいは、優のこの陰術によって魔英山のエナジーのバランスが崩れた結果だったんだ。きっと、他にも色々な異変が魔英山に起こっていることだろう。このままでは魔英山が滅びてしまう。なんとしてもそれは止めなければ。僕の日常を取り返すためにも。勇を、消すためにも。

 早く優を止めなければ。それは解っている。然し、その方法が解らない。一度離れた魂をもとの躯に戻す方法が僕には解らない。

 きっとそれは穂美も友美も 純痲も同じだろう。優は戻ってこない。優が望むまで、そして、勇が見つかるまで。でもそうしたら、勇が見つからなかった場合はどうするんだろう?きっと時空龍から記憶を戻してもらってさらに力をつけた勇は、僕の躰を脱け出して、別の何かに憑依して、様々な世界を渡るほどの力をつけただろう。そして憑依される方もそれなりに丈夫なモノでなければならないから、きっとそいつは、それなりの魔力をもったモノだろう。ハンターか、魔物か、それとも………、そのどちらかの血を受け継ぐものか。

 みんな、深刻な顔をしている。

「ピッピロロッロッロォー!」

 皆が真剣になっているところに、場違いな音が流れる。先程まで真っ暗だったテレビが急に点いたのだ。何の前触れもなしに、唐突に、だ。これってもしかして優が………。じゃぁ、もしかしたら優はもう・・・、躯に戻れなくなってしまっているのかもしれない。みんな、TVの電源がついたという小さなことの大きさに気がついて、固まってしまっている。いや、穂美だけはべつだったが。

「7時になりました。まず始めに不思議なニュースをお伝えします。グリーンランドの西部に、突如謎のクレーターが十数個ほど出現したそうです。周りには、隕石の落下後も無く、未だに原因は解っておりません。詳しいことがわかり次第またお伝えしようと思います」

 TV画面に映し出されたそのクレーターは、クレーターという割にはあまりにも規模が小さく、深々としたものだった。それは、地球と言うこの星の一部が、前触れも無く消えうせたようにも見えた。

 このニュースが終わり、ニュースキャスターの顔が画面から消えると同時に、優の目が細々と開いた。

「皆、今のニュースを見たか。対にこの私たちが住む世界にも終末の世界のエナジーが流れ込んできた。勇の居場所はわかったので、今すぐに行く。さあ着いてこい」

「ゆ、優、戻ってこれたの?」

「戻ってこれちゃ可笑しいか?」

心配していた僕に優は真顔で訊ね返してくる。

「えっ、だってテレビのスイッチが勝手に入ったから……。それでもう優は躰に戻ってこられないのかなって…。」

「お前は阿呆で、馬鹿の子か。私がそんな戻ってこられなくなるような術を使うと本気で思っていたのか?とにかく十秒後に世界を渡る。着いてきたくないのならそれでいい。・・・10、9、8、7……」

そう言って、優はカウントを始めた。彼女は十秒といったら本当に十秒で旅立つような、冗談無しの人だ。僕はそれを知っている。

「ちょっ、ちょ待って。何で終末の世界のエナジーが流れ込んできたからと言って、勇のところへ行くのさ?」

「勇が終末の覇王だからだ。5,4,3,……」

 瞬時、耳を疑った。然し優がもういく直前だという事を悟り、慌てて言った。

「分かった。行くよ、行く」

 この僕と優のやり取りを面白くなさそうに見ているのが、純痲と穂美だ。友美は別に興味無さそうにして、水晶育生ごっこをやっている。

「俺も連れてけよ。」

 純痲が言う。

「私の事も忘れないでね」

 穂美も言う。

「友美は?」

 優が訊ね、友美が答える。

「勿論行くに決まってるでしょ。だって勇に逢えるんでしょ!?いかない人なんていないと思うよ!!」

「友美勘違いするな。これは、世界の運命が係った戦いなんだ。私欲をもってはいけない。と言うか勇がいるからと言っていかない人がいないというその考えはどうにかした方がいいと思うぞ」

「へぇい・・・」

 友美の行く理由を訂正した後、優は呪文を唱えた。

「全処に満ちる究極のエナジーよ、我が見付けし者の魂迄我らを導け。リーズ・ファー.」

________________________________________

________________________________________

 陰術による世界航り。何かが身体を包んでいるようで心地がよい。そう思った直後に、身体に鋭い痛みが走って、僕は自分の身体が落ちて行くのを感じた。

「くそっ、干渉された。」

 優がどこか遠くでそう言っているのが聞こえた。

 顔を引き擦りながら不時着したところ、そこがまだ地球のどこかだと言うことはなぜか解った。その近くに魔洞があり、それでもここは魔英山ではないと言うことも。

 上を見上げると、此所が何処なのかということがすぐに解った。

 赤みの掛かった頂上をしている高い山、下からでも見ることができる大きなカルデラ。

 そう、ここは火山の梺だ。

 その黒い山を、超スピードで降りてくるひとつの白い影があった。未だ僕らと同じくらいの少年だということは一目で解った。

「あっ、由だ」

 友美が言った。

「マぢかよ」

 純痲がそれに相槌を入れ、それに穂美が訊ねる。

「由って、ライトマスターの?」

 友美が答える。

「うん、そうだよ。つか,よく知ってたね穂美ちゃん」

 優が言う。

「お兄様が仕えてるの」

 えっ、いまなんて?

 オニイサマガツカエテル?

 ということは、その由ってやつはセズンよりも強いのか…。

 凄いなぁ。

 ふと前を見ると、優、友美、純痲の三人は、白い服に身を包んだきれいな顔の少年と話をしていた。その綺麗な少年、つまり由だけが笑っていて、他の三人は世界航りを邪魔された事に怒っているように見える。ただ一人、穂美だけが少し喋り辛そうにしていた。

 と、由が僕の方に向き直った。

「そこにいるのは勇?それとも別の人?どちらにしてもこっちに来なよ!うちの魔洞は楽しいぞ!」

 魔洞が楽しい……、か。

 きっと、否絶対、どこの魔洞であろうと僕には楽しくないと思う。洞窟なのに暗くなくて、寧ろ明るくて、じめじめしていなくて、足音だけ妙に響く。そんなものを君は想像できるか?仮にできたとして、そんなところに行きたいと思うか?答えはNO。僕だって、今はこっちの超現実の者だとしても、ほんの一、二ヶ月前は魔法も魔物も陰術も戦いもドラゴンない、平和で平常な"現実"で暮らしていたのだから。

「まっ、君が嫌だと言っても結局は来ることになるんだろうがね。ついたらもう一人の君について、有意義な話し合いをしようじゃあないか。」

 僕が「はっ?」と聞き返す間も無く、ライトマスターの由が使う陽術によって、僕はキラウェア山の中の魔洞へと、優達と共に強制的にテレポートさせられたのである。

________________________________________

Twenty-one


一人欠けた12人のパーティ、いざ終末の世界へ


 会議場に幾つもの部屋。食堂から魔導具の売店まで。魔英山の魔洞とでは、比にならないくらいに設備が整っていた。

「どうだい、この魔洞。凄いだろう。」

 由が言う。

 いや、これはもう凄いというものを通り越しているぞ。第一に普通の洞窟ならともかく、ここは魔洞だぞ。科学を使った機械なんかが全く通用しないところでだ、ここまでにも加工を施すのは人のできることではない。もしかしたらライトマスターはライトマスターという独立したひとつの種族なのではないのだろうか。各世界に一人ずつしか居ない極めて珍しいもの。由はそれじゃないんだろうか。

「あー、人じゃないとか思うなよ。傷つくから」

 由が僕の考えを読んだ様に言う。

 解った、解った。

 人なんだね。ライトマスターも、グレイマスターも、どれ程強大な力を持つ者でも、人だと思っている限り,思われている限りは"人"なんだね。なら・・・、僕も・・・、人、なのかな??

「時空龍との戦いの後、我々12人はバラバラになった。」

 由が唐突に喋り出した。

「その後、しばらくの間は独り旅をしていた。けれどもどこに行っても薄汚い孤児は歓迎されず、そんなことに使ってはいけないと思いながらも魔力を盗みに使っていたんだ。それがどんなに辛かったか。でも生きて行くためには仕方がなかったんだ。生きて、またみんなに巡り会う、これをいつも心の隅にとめていた。それを果たすまでは、絶対に死なないという気持ちもあったね。そういう風にして、辛く厳しい思いをしながら、この地球という世界を巡り歩いていた時に見付けたのがこの魔洞なんだ。ある意味ここが、自分の故郷だと言ってもいい」

 そこまで言って由は洞窟の壁、そこにあった扉に手をやった。

 その時の由の顔は、妙に悲しそうな顔をしていた。

「さぁ、この扉の向こう側に『僕達の故郷』が待ってるよ!ちなみにこれから行う話し合いのテーマは・・・、もう一人の君だ」

 だがそれも一瞬のことで、直後すぐ弾けるような笑顔になって由が言った。

 だが、その言葉の最後の『もう一人の君だ』のところには、何者も寄せつけない吹雪のような冷たさがあった。

 もう一人の君、もう一人の僕、勇。

 つまり話し合いのテーマは勇。

 この扉の向こうにはきっと勇と由を除いた11人が集まっているのだろう。

 勇さえそろえば由の望みがかない、彼らのパーティは復活する。

「あと、一人なんだね」

 僕は無意識の内につぶやいていた。

 その一人言も同然のぼやきに由はきづいたらしく、とんでもない答えを返してきた。

「何言ってるんだい?もう、そろったよ」

「えっ?」

 今何て言った?

「だから、もう、そろったんだよ」

「それって…」

 由が僕の言葉をさえぎる。

「そう、最後の一人は君だよ。勲くん」

 その代わりに由は、物凄いことを、サラっと述べてくれた。

・・・冗談じゃ、ない。

「僕は僕なんかに勇のかわりなんて務まらないと思うよ。あんなハイクオリティな召喚術なんて使えないし、剣だってまともに扱えない。みんなの足を引っぱるだけだから」

「そんなことはないさ。君はこれから行く戦いに絶対に必要な存在なんだよ」

 戦い・・・。

 その言葉は鋭く、的確に僕を貫いた。

「これから行く戦いって?」

 念の為に訊いてみた。

「終末の世界の王を倒しに行くんだよ」

「えっ?」

 信じられない。そんなことを平気で述べれるなんて。

 こいつのことはあまりよくは知らないけれど、かなり不敵な奴のようだ。

「二度は言いたくないんだけどね。世界に異変が起こっていることは君も知ってるよね。その凶元が万物の終わりを司る世界の王、終末の覇王なんだ。自分の区、すなわち自分の世界を護るのが狩人の務め、そして運命なんだよ。だから行かなくちゃいけないんだ。この世界を終わらせないためにも。凡てのエピローグが訪れるよ、このままだと」

「勇を・・・、消すの?」

「あぁ」

「分かった。大賛成&ヤル気MAXだよ。喜んで協力するよ」

 この言葉を聞いてさすがの由も面食らった顔になった。

「君は・・・、自分の言っていることの意味が分かっているのか?勇は君自身なんだぞ?」

「僕は・・・、魔物も狩りも、何にも無かったあの平和なトキに戻りたいだけだよ。そのためには、まず、勇を消さないと」 

「分かった。きっと成功するよ。君がいるから」

 そういって、由は扉を開けた。

 このときまだ僕は気付いていなかった。

 自分の日常を手に入れるために、自分自身の身を差し出すことを、宣言したのだと。

________________________________________

優、純痲,友美、ケンチャン、シャオイン、ソマンド、ピーター、ビクトン、イサ、そして、由にフィヅーヴ。

この11人を目の前にして、ぼくは言葉では表し難い威圧感を受け

ていた。

「じゃあ、せっかくこのメンバーがまたそろったことだし、これから何をするか話し合おうか。まず、第一意見として勇のやつをぶっ殺しにいきたいと思いまーす。てかもぅ、これで決定!どうやるかは、フィヅーヴのほうから説明するから」

  なんとも軽い口調でヤバすぎることを由が言ってのけた。

  てかこれって、会議でもなんでもなくただの意見主張だとしか思えないんだけど・・・。

由にフィヅーヴが続く。

「あぁ、えとまず、ここの魔洞を通って終末の世界にワープ、そんときはここの留守番兵以外の全戦力を     総動員しようと思ってる。で、そこについたら光のエナジーの魔力を兵の中の魔導師と、由で爆発させる。光のエナジーと終末の世界の負のエネルギーとが相殺して、その間に自分たちは引き返す。勇は何も知らないまま壊れていく終末の世界に取り残されて、そこと運命を共にするってわけ」

「・・・」

 あぁ、もうワヤ。

 何でも勝手にしとけって感じ。

 そのかわり、自分は知らん。

 あぁ・・・・・・・

________________________________________

 由の意見主張後、12人には各個人の部屋が与えられた。

 木製のベッドに飛び込んで、左掌を自分に向けてみる。

 そこには、瞳の赤い目が、ついていた。

 剣がないことを、なんとかごまかせないかな・・・。

瞳に向かって、念じてみる。刹那、変化はおきた。

『それが望み?自由を手に入れるための望みなの?』

 『ONE』が訊ねてくる。

 そうだ。

 念じて、掌を上に向ける。

 その目から赤い閃光が飛び出てきたかと思うと、それが徐々に形を作り、一つの細い、深紅の剣がベッドの上に転がっていた。

『その剣の名は《ジャスティス》あなたの心が生み出した剣』

 血のように赤いその剣身に、《JUSTICE》という文字が浮かび上がってきた。

 僕はもう、薄々気が付き始めていた。

 『ONE』の策略に。

 僕を日常と言う理想の虜にして、最終的に壊れたその精神を好きなように扱おうとしているという事に。

 あくまで、自分の推測の域を出ないのだが、そう、確信しつつあった。

 ある時、穂美から『ONE』とヴァンパイアのつながりを聞いたときから。

 

 『ONE』は、『ZERO』と共にヴァンパイアの一族の秘宝だった。

 魔力を封じる、禁断の力を持った秘法。魔力に頼るヴァンパイアの、最強の弱点。

 だからそれは、岩の奥に閉じ込められ、外から何者も盗る事が出来ないように封印されていた。

 『ONE』や『ZERO』が封印されたのは、それだけが理由ではなかった。その魔剣を手にしたものは、必ずと言っていいほど暴走し、破壊の限りを尽くしたと言う。

 封印されていたソレは、ある日理不尽な力によって解き放たれる。

 伝説の狩人。

 彼は見張りをしていたヴァンパイアを瞬撃し、魔力が効かないその強靭な岩を片手で握りつぶして千切り、粉々にして,中にあった『ONE』と『ZERO』を取り出した。

 自分の新たな力として、その魔剣を持ち、彼は神々の世界で殺戮を繰り返した。

 結果、13体目の神に破れ、殺される直前、世界を移動したと言う。

 13体目の神は、以前もそうしたように、『ONE』と『ZERO』を地上に降ろしたという。

 『ONE』と『ZERO』の創造者は、13体目の神、《厄神コルディリネ》だったのだ。

 それ以来、その伝説の狩人の姿を見たものはいない。

 史上最強と謡われた狩人は、魔力に溺れ散りとんだのであった・・・・・・。

 実際、死んでいないことは確かなのだが、その後誰もその姿を見たものがいないのも確かだ。

 伝説の狩人は、子孫を残して、闇に消えた。

 魔剣の力によって・・・・・・。

 

 『ONE』の伝説を聞いたとき、自分が今まさしくその状況になりかけているという事に気が付いた。

 『ONE』の言葉に惑わされ、日常のために自分を失いかけていた。

 そして、改めて気を引き締め、『ONE』を完全に自分の支配下に置けるように訓練した。

 その結果、今のところまだ、暴走は起こらずにすんでいる。


 《JUSTICE》を眺め、僕は薄く微笑んだ。


 僕なら大丈夫だ。

____________________


 翌朝、僕は目覚めた。

 

 赤と黒の入り混じった上着をかぶり、ジーンズとシャツを変え、魔洞内の大ホールに行く。

 そこに、白が蠢いていた。

 皆一様に白い鎧を着た狩人達。

 黒い岩地の洞窟に、白いペンキをぶちまけたかのようだった。

 壇上の端にいる僕ら13人は、(特に僕は)その光景に異様さを感じ、と、言うよりかは一種の狂気を感じ、思わず後ずさった。

 由が壇の上の卓机の前に立ち、眼光を鋭くして言う。

「では、出征する。終末の世界に向かって。だが、その前に少し寄る所があるのでつべこべいわず従うように。分かったかッ?!」

ガシャッ

 その声に、白の軍団が鎧を鳴らして一様に肯く。

 それを確認した直後、ホールの壁に純白に輝く魔法陣が現れた。

 眩しいほどの白に包まれ、僕らは、移動した。

 

_____________________________________________________________


 どこかの地面に付いた感覚があって、僕は目を開けた。


 暫らくの間、光のせいで目が眩んでいた。

 視界が徐々にはっきりとしてきて、僕は驚愕のあまり別の意味で目が眩みそうになった。草が1本も生えていない土地、澱んだ力、そして・・・、ヴァンパイア。

 

 赤赤赤 赤メノアカ紅赤赤紅  紅アアカカ紅紅赤ウメツカメノアカサ赤赤紅

 紅紅クレナイノアカ紅紅  紅紅 紅紅紅赤   赤赤赤アカ赤赤紅紅紅赤紅

 赤赤赤赤赤赤赤アカ 赤 赤赤紅紅紅紅     紅アカガヒカル紅   赤

 紅紅コワ レル紅赤赤   紅紅赤赤赤アカアカトシ タメ赤赤赤紅  紅赤

 赤赤赤赤     赤赤赤赤ア カイメ紅アカ紅赤 赤赤    赤赤紅紅紅


 紅で埋め尽くされた頭上に、無数のヴァンパイアが飛んでいた。

 軍勢の先頭に立った由が、そのヴァンパイアらに向かって声を張り上げる。

「戦え、我らと。貴様が勝ったらどんなことでもしてやろうじゃないか、だが、我々が勝ったら・・・・・・、何でもいう事を聞け。この挑戦をうけるか?!」

 由の挑発が終わったその直後、 

 シャッー

 空気を切り裂き、無数の魔弾が、僕らの軍勢に向かって、降り注いできた。

 その魔弾を、受けようと、翼を広げようとしたが、優がその必要はない、と言う風に首を横に振ってきた。

 上を見ると・・・、魔弾は空中で消え、弾け、その全てが無と化していた。

 隣で、由がスうっと満足そうに笑う。

 直後、空中から更に上に無数の柱が出来、すごい勢いで伸び始めた。猛り狂ったその柱は、兇器と化し、空中でひしめくヴァンパイアの身体を次々と貫いていった。密集しているのをいいことに、1本の柱が10何人もの身体を貫き、堕としていく。人と見かけは同じヴァンパイアの身体に穴が開き、腕が千切れ、血が飛び散り、霧と化し堕ちていくさまは、見ているだけで吐き気がした。

 紅がより一層強まった。ヴァンパイアの集団の手の中に剣が現れる。

 そのまま彼らは急降下してきて、戦争が、始まった。

 槍となって向かってくるヴァンパイア達を見て、今度こそ羽を広げる。

 片手に《JUSTICE》を持ち、僕は飛んだ。

 すれ違い様に幾数ものヴァンパイアを切りつけ、落とす。

 あぁ、これが由の言う少し(、、)寄るところだったのだなと思い剣を振るう。由は不死のヴァンパイアを傘下において、勇を消すための魔力を少しでも多く手に入れようとしたのだなと。

 ヴァンパイアの魔力を手に入れるためならば、多少の犠牲もやむを得ないと振りきったのだなと。

 どのヴァンパイアよりも高く飛び、僕は両腕を見る。

 『ONE』が、ヴァンパイアを前にして興奮しているのが感じられた。

 眼下に向かって、両腕を思いっきり振るう。

 幾数ものヴァンパイアと、その下の地上にいた軍勢を抉って消し去る。

 『ONE』が叫ぶ。

『斬れ!あの忌々しいヴァンパイアどもを消し去れ!!』

 その時、僕は気付いていなかった。紅だった両目が、いつの間にか黄金に変わっているという事に。

 そう、あの時草原で見た『ONE』の目の色のそのものになっているという事に、僕は気が付かずにいた。

 上から降ってきた波動に、降下中だったヴァンパイア達が一斉に目を向く。

 その波動の元、つまり、僕のほうを凝視して、皆、堕ちていった。

 そのことを僕はさほど気にせずに、また両腕を振るう。

 何回も、何回も振るって、ヴァンパイア軍に壊滅をもたらす。

 その黄金の目に秘められた魔力は、万物に死を与える禁忌の魔力だった・・・・・・。

 翼をたたみ、空中で支えるものがなくなった状態で僕は堕ち始めた。

 しっかりと足を下に向けて、来るべき衝撃にそなえる。その時の目の色は、すでにブラウンに戻っていた。

 衝撃。

 気が付くと、地面にきちんと着陸していた。

 地面にはいくつものヴァンパイアの身体が落ちている。ヴァンパイアは不死だ。コレはただ気絶しているだけ。そう分かっていても、紅く血で染まった大地には何らかの不思議な気持ちにさせる効果があった。だが、その気持ちは、決して気持ちのいいものではなかった。

 

 再び魔法陣が現れて、僕らは、白い光の中でヴァンパイア達と一緒になって今度こそ、終末の世界へと移動した。

____________________________________________________________________

生と死の狭間で。


さぁ、お次はいよいよ勲と勇の戦いですっ!


終末の覇王の秘密、その力、圧倒的なものがそこにあります。


ヴァンパイアと『ONE』のように、人間と終末の覇王という神の間には、覆したくも覆せない決定的な格差がある・・・・・・。


そこで由がとった行動とは?!


次回、生き残るもの

お楽しみにぃ!


・・・・・・、なんかTVの次回予告みたいになってしまいましたね・・・。


すみません・・・↓

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