日常の崩壊
Prologue
子供たち
純白の雪の降りるなか、13人の子供が木々に隠れるようにして深い森の中を進んでいる。
その森は、一度入ったら二度と出てこられないとされ、あたりの村の者は絶対に近づかない。入るなど、もはや論外だ。
それを知ってか知らずか、彼らは森の奥へ、奥へと何かを目指し進んでいる。そこには、怯えの色など微塵も見られない。もしかすると彼らは、誰も出てきたことのないこの森の中に何があるのかを知っているのかもしれない。そうならば、情報源のない情報をどこから手にいれたのか、彼らにしかそれは分からない。
森の中は、押し潰されそうなほどの威圧感が満ちている。
木々の葉はすべて枯れ落ちている
やがて彼らは、大きな一本杉にたどり着いた。
「ここか」
「だね」
子供たちも間でなんとも短いやり取りが交わされた。
直後、彼らの姿が消えた。
急いで、私は彼らの後を追った。
床一面に散りばめられたダイヤモンド。乳白色の大理石の壁。どこからか不思議な音楽も聴こえてくる。
空の彼方から、ひとつの影が近づいてくる。竜の影だ。時空龍かもしれない。
竜の咆哮。
視界が真っ白になる。
目を開けたら空上の影がすぐそこまで迫っていた。
『お前らは・・・‼』
これが私の聞いた、最初で最後の龍の声になった。皮肉なことにそれは、私に向けられたものではなく、あの子供たちに向けられたものだった。
「やっほー、時空龍サン♪」
子供たちのうちの1人が軽い声を上げた。
「あの2匹に続いて倒しにきたからねぇ~」
ほかの子が声を上げる。
『そうか』
また地響きのような声が響く。
『ならば仕方がない。子供といえど罪は重いからな、覚悟は出来ているだろう な・・・・・・・・ぁ』
突如、彼らのうちの一人が不可視の力によって飛ばされた。
「イサ‼」
一人が振り向いたが、それ以上のことは誰もせず、助け起こそうともしなかった。
「飲み砕ヶ」
私があっけにとられていると、一人の女の子が唸るようにつぶやいた。
途端に、つぶやいただけとは思えないほどの巨大な闇が生まれた。
闇から伸びた手燭のようなものが互いに絡み合い、また分かれて、それを繰り返し、恐ろしいほどの速さで、時空龍を襲う。
シュルシュルシュル
蛇のようなそれが、時空龍に巻きつこうとした。
だが、時空龍が目を閉じると共に簡単にそれは逆流した。
鞭のように、機敏に、的確に、彼らに無数の闇が襲い掛かる。
みなそれぞれに避けていたが,特に私の目を引いたのは一人の男の子だった。
その子は、誰が見てもハッとするような、美しい顔をしていた。
彼に向かった闇は、その手前で弾き飛ばされ、消え失せていく。
彼は、ポケットに手を入れたままだ。目さえつぶっている。
笑っていない、苦しんでいない、楽しんでいない、疲れていない。そんな様子が見られた。
その子はまるですべての感情が欠落したモノのようだった。
ここまで来てようやく気づいた。
―――――彼は・・・眠っている。
こんな中、居眠りを出来る精神が羨ましい。
突如、龍が咆哮した。
12人の中の3人を残して皆がその咆哮だけで吹っ飛んだ。きっと魔力の塊でも、その咆哮の中に潜ませてあったのだろう。
寝ていた彼は、ようやく目をあけた。
龍の口がグワッと開いた。間髪いれず、そこから灼熱のブレスが噴出された。
ブレスの前に一人の男の子が踊りだす。
{ONE!}
そう叫んで、みんなを庇い、その子はブレスに飲み込まれた。
あたりが白く染まった。
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The story start
転校生、優
今は春なのに背中に生ぬるい風がふく。なにか起こりそうな予感がする。教室の隅で僕はそんなことを考えていた。
ガラガラガラ!先生が扉を開けて入ってきた。
「みんなおはよー。今日は転校生がいるぞー。」
転校生という言葉にみんな興奮している。
事実、僕もそうだった。
転校生という言葉を聞くとどんな人かな?男子かな?女子かな?と、想像せずにはいられない。その転 校生がいよいよ教室に足を踏入れる。
再び、
ガラガラガラガラ!
転校生が入ってきた。女子だ。それもかなり可愛い。整った顔立ちで、大きくぱっちりとした目、そして長く黒く真っ直ぐな髪。また肌には淡いピンクがかかっている。僕だけではない。クラスの中のほとんど男子がそう思ったことであろう。
そして彼女は黒板の前に立ち自分の名前を書き始めた。
《壱原 優》
ユウ?何処かで聞いた様な名前だな。気のせいか。
こうして僕らと彼女との不思議な学校生活が始まった。
ここで僕の自己紹介を少ししておこう。
僕は秦 勲。漢字なら二文字で、平仮名なら六文字という変わった名前を持つ、それ以外は至って平凡な高校生さ。
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One
番長との勝負
キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン
チャイムがなり、立っていた人が急いで席につく。それを確認して先生が授業を始めた。「みんなー、教科書の25ページを開けー。」
そこで先生はあっそうだった、というように顔を上げ、
「壱原はまだ教科書がなかったんだよな。おい、隣のやつ、壱原に教科書を見せてやれ。」
と言った。その彼女の隣の人はというと大野だ。通称番長 喧嘩に強く、口よりも早く手(または脚。) がでてしまうからそう呼ばれている。
その番長が優に教科書を見せようとすると優は、
「あんたなんかに見せて貰う必要はない。」
と言っていつから用意していたのか机の中から教科書を取りだしそれの25ページを開いてしまった。
この態度には幾ら優が可愛いといえども番長もイラついたらしく優にいきなりすぎるほどに殴りかかろうととした。(ほんとに短気なやつ・・・)しかし途中で思い直したらしく、
「おいこら、今日の昼休みに体育館裏にこいや!勝負だ!」
と言い放ち、ふん!と顔を背けた。
そして昼休み。優と番長だけでなく、クラス全員が体育館裏に集まった。その中には先生もいる。みんな優が危なくなったら番長を止める考えだ。
そして優と番長との勝負が始まった。
「勲君、壱原さん大丈夫かな?」
隣の女子が話かけてくる。
番長がぐっと構えているに対して優は余裕の笑みを浮かべている。そしてこういったのだ。
「おい、早くかかってこいよ。それともどうした、怖じ気づいたのか。」
とても優が言った台詞とは思えずクラスの皆が唖然としてしまった。しかし番長は、特に驚いた様子を見せず、
「誰が女なんかに!クズが!」
と言いながら優に殴りかかっていったのだ。
そして、優にそのパンチがあたる!と思ったその刹那、優が動いた。
目にも止まらぬ速さで番長のパンチをかわす。ふわっと、優の綺麗な黒髪が揺れた。そして素早く体勢を入れ換え番長の顔に一発、胸に一発、そしてもう一度顔に一発パンチを食らわし、その後 後ろに蹴り倒し、顔にとどめの一発を食らわす直前で手を止めた。
クラスのみんなはなにが起こったのか解らず、また唖然としてしまった。
止めに入ろうとした先生は、驚きのあまり固まってしまっている。
そして彼女はというと、口元にうっすらと笑みを浮かべ、番長は、鼻血を噴き白目を向いて、その少女の傍らに、倒れていた。
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Two
優の家
あのありえない勝負から一週間がたったある日のことだ。僕は下校途中に優を見つけた。で、興味本意で優の家までつけてみることにした。(ストーカーだなこれじゃ。)
ズシズシと大股で歩いていく優に見つからない様についていくのがそれは大変だった。
優は学校の近くにあるお化け山として有名な魔英山に向かって歩いている。
何故優が魔英山なんかに…。僕はそう思いながらも優の後についていった。
魔英山についた。と、山の中に見慣れない家がある。
「あれが私の家だ」
え・・・、えとぉ・・・・・・。
気付かれないようにしていたのに…。彼女はとっくの昔に気付いてたのか・・・。
「あぁ・・・、別にねこれは僕がストーカーだとかいうんじゃなくてね、なんて言うかな・・・、えぇとぉ」
僕がしどろもどろしているのを、彼女は不思議そうな眼で眺めていた。
「どうせだから私の家に寄ってく?」
爆弾投下。
僕の心の中で魔英山に入るという恐怖と優の家に行ってみたいという好奇心とが戦った。しかし結局は好奇心のほうが勝った。僕は優についていくことにした。
ザッザッザッ
誰だよ。この山のことをお化け山なんて言い始めたのは全然普通の山じゃないか。
そんな悠長なことを考えていられるのも、この瞬間だけだった。
「ギェーーーーーッッッッッ!!」
「?!」
急に奇声を発しながら見たことのない生物が目の前を走りすぎていったのだ。
僕はこの時初めてこの山に恐怖を感じた。
その謎の生物は血の様に赤い目をしており全身が黒く紫色に光っていた。そしてその爪は鋭く尖っていた。その生物が通ったあとにはこれまた謎の黒い塊がおちていた。なんだろうかと思ってその塊に触ろうとした。
だけど、思わぬとこからの思わぬ攻撃によって、その行為は空前に散った。
ビシっ
手に、思いっきり石が投げつけられた。前を見ると優が石を片手に睨んでいる。「なぜだろう?」そう思った時だった。
その塊にハエがとまった。するとそのハエがみるみる溶けていく。これで僕は優の攻撃の意味を理解する事が出来た。それと同時にもし僕がこれを触っていたかと思いゾッとした。そして僕は優に聞いた
「今の生き物は何だったの?」
優が答える。
「あれか?あれのことを 私はヤミノ・ドラグーンと呼んでいる。そこまで怯えることはない。ただ不気味なだけのザコだ」
すましてそう言う。そのすました顔がしつこい様だがかわいい。
しかし・・・、さっきのあれがザコねぇ・・・。
ボスはどんななんだよな、おぃ。
僕の心中を思いっきり無視し、彼女は言葉を続ける。
「であれの上にデス・ドラグーンてのがいて、その上に、ギガ・ドラグーンがいて、最後にギガノ・ドラゴンてのがいる。まあ全て私の考えた名前だけどな。」
優がそう言い終えると同時に後ろのほうからものすごくヤバそうな音が聞こえた。
その音に敏感に優が反応する。
「あ~、あいつだ。今は私だけじゃないし、ちょっとヤバイかもな」
やっぱ、ヤバいのかよ。
「あんた、今から走れるか?」
優が訊いてくる。
僕はうなずいた。
「よし、んじゃ走るぞ」
言下に優が走り始めた。キラキラッとその黒髪が揺れて光る。それにしても、すごいスピードだ。それになんとか僕も追いつく。後ろでした謎の音の原因とおもわれる、何かがドシドシと追いかけてくる。僕は優に聞く。
「あれがさっき君が話していた、なんとかドラグーン?」
優が答える。
「いや違う、あれはヴァルギリアスだ。勿論これも私が考えた名前だけどな。」と、この状態でも息ひとつみださずに優が答える。
僕は後ろの方をみた。そのヴァルギリアスと呼ばれた怪物は、ヤミノ・ドラグーンとは対象的に、黒い目をしていて、体全体が赤いとくに口の辺りが真っ赤だ。そして大きく、太い尻尾にはどんなものをも砕きそうな刺がはえている。て、今はそんなことをしている場合ではない。僕はまた一生懸命走りだす。すると優が叫ぶ。
「あの樹とあの樹の間を右へ!」
僕は優に言われたとおりに右に曲がる。その角を曲がった先には、先ほど山の下から眺めていた優の家があった。僕は忙いでその中に転がりこむ。そして優はどうするんだろう?と思いそちらを向いた。
そこで、違う意味の地獄絵図を僕はリアルに目撃してしまった。
なんとあの怪物ヴァルギリアスの方に向かって優が走っている。そして優とヴァルギリアスが出くわした。二人はしばらく見つめあっていたが、突然、
「ボォエェェェーーーーー!!」
ヴァルギリアスが吠えた。その真っ赤な口から青白い炎が吐き出された。優はその炎をひらっとジャンプしてよける。その大きく綺麗な目が、じっとヴァルギリアスを見ている。そして…今度は優が手を上に掲げた。すると優の手の中に青く輝く長剣が現れた。それは一瞬の出来事だった。優は着地すると同時にヴァルギリアスのほうに走りこんだ。そして、その青い剣で怪物を切る。「ザクッ!」という鈍い音がすると同時に、ヴァルギリアスからどす黒い血が噴きだした。
そして、
ドォオーーーーーン!
怪物が倒れた。
再び優が手を上に掲げると今度はまた、その剣がふっと消えた。
・・・え?あれ、は?
優がその黒い血で汚れた頬を手の甲で拭いながら、家の方に向かってきた。
そして僕らは、複雑な気持ちなまま、僕は、優の家の中に入っていった。
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Three
魔英山の秘密 〓
この下校中、本当に色々なことがおきた。なんとかドラグーン、えーと、ヤミノ・ドラグーンだったけ?まぁ、んなものが目の前を通りすぎていって、ヴァルギリアスとやらに追いかけられて、優の手から謎の剣が現れて、優がヴァルギリアスを倒して、優の手からその剣が消える。これだけ沢山のことがおきたのに、学校をでてから、まだ15分もたっていない。優の家のソファーに座りながら僕はそんなことを考えていた。すると優が唐突に、
「あんた、この山の秘密知りたい?」
と、訊いてきた。そりゃーこんな不思議な山の秘密を知りたくない分けない。僕はまた、うなずく。そして、優は語り初めた。
「この山の秘密を知るということは私の仕事を知ることに繋がるが、まあそれはどうでもいいことだ。この山はな、魔道という魔物が生息する二つのラインがちょうど交差する場所にあるんだ。それ故に、魔物も多い。そしてエナジーが満ち溢れている。(エナジーとはここでは生命力のことを指している。) だからここで生活する人は普通のひとの二倍くらい長く生きられる。実際私もいまは小学6年生で通っているが実際はもう二十歳を越えている。実際の自分の歳をわすれてしまった位だ。まあそんなことよりこの山の秘密だったよな。え~と、この山にはな、魔洞という名前の洞窟があってな、そこから魔道のどんなところにもワープできる訳だ。でも逆に考えると、少し強い魔物はどこからでもその洞窟を通ってこの山に入ることができしまうのだ。で、そういう魔物を倒すのが、私の仕事ということだ。これでこの山の秘密少しはわかったか?」
僕はわかったようなわからないような感じがしたが、解らないと答えたら後が怖そうなので、一応、
「だいたいは…。」
と答えておいた。その答えを待っていたかのように優は、
「そうだ、あんたにも剣をあげよう。」
と言って、奥の部屋に向かった。そしてその部屋の中から黒く紫に光る剣を取りだしてきた。この剣の色この光どこかで見たことがあるような…。そうだ!ヤミノ・ドラグーンだ!そう考えた僕は恐る恐る優にきいた。
「ねぇ、もしかしてこれヤミノ・ドラグーンから作られた剣だったり…、する?」
優が答える。
「ああそうだが…、よくわかったな。あっそうかあんた一回ヤミノ・ドラグーンを見たことあるんだったな。もしかしてあんな気持ちの悪い奴で創られた剣は嫌か?」
やっぱり…。僕は正直言ってヤミノ・ドラグーンで作られた剣なんかあまり使いたくない。だけど仕方なしに言った。
「わかった。この剣を使うよ。それで、この剣 って君の剣みたく手から出し入れできるの?」
優が答える。
「やろうと思えばできるが…。少し危険だぞ。」
そんなこと言われたって…こんな物を堂々と僕の家の中に持って入れる訳ないしやっぱ手の中にしまうしかないでしょ。そう思い優にたのむ。
「じゃあ危険でもいいから僕の手の中に入れてみて。」
僕が答えたすぐ後に、優は小声で何やら呪文みたいなものを唱えた。そして僕の手に剣をザクッ!と突き刺した。…と思ったのだがどういうことだか剣がない。僕がなぜだろう?考えていると優が、
「《闇の剣ヤミノ・ドレイクよ!紫光を帯び、我が手の内に現れよ!ダークイリュージョン!》と心の中で叫んでみな。ちなみにヤミノ・ドレイクとはその剣の名前ね。」
と、言った。僕は言われたとおりにする。するとぶわっと紫の光が手の中から溢れ出て、いつの間にかヤミノ・ドレイクが手の中に現れていた。そして優が、
「今度は《ヤミノ・ドレイクよ!我が手に戻れ!ダークイリュージョン!》と心の中で言ってみな。」
と、優が言う。
また言われた通りにする。と、今度はヤミノ・ドレイクが手から消えた。これで僕はこの剣の使い方がだいだいたいわかってきた。
少なくとも学校を出てから30分はたっている早く帰らないとお母さんが心配する。
「ねぇもうそろそろ帰っていいかな」
「なぜそれを私に訊く?」
「えと」
「帰れ。暇だったからよんだだけだ」
「えあぇ」
「十分に暇つぶしはできた。もう用無しだ。帰れ」
「・・・・・・」
「か・え・レ」
「ぇ、一人で?」
「逆に訊くが、私がお前を見送るほど優しい人間に見えるか?」
「見えない・・・、かな」
「よし、わかったら失せろ」
あぁ、こんな山を一人で降りるのか…。そう思うと気が重くなる。しかしまあ結局は一人で降りることにした。
玄関の戸を開けた。そこに広がる山は来た時よりも暗く、黒々しくみえた。
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Four
優
私は自分でも時々自分という存在に疑問を持つ。何故私は魔物を討伐し初めたのかそれさえもわからない。
いや、忘れている。何故そんなことをも忘れてしまったのか。
それは今から13年位前のことだ。
私は時空を司る最強の竜に無謀にもいどんでいた。
しかし、結局は、傷一つ負わせることもできずに、負けた。
そしてその代償とてして記憶が奪われてしまった。
しかし身体の記憶とでも言うのだろうか?魔物狩りだけは今も続けているのだ。
詳しいことはまたいずれ話すとしよう。
私はそんな昔のことを思いながら彼のことを水晶玉でみていた。
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Five
ギガノ・ドラゴン
「ドォォォォォンッッッ!!!!!」
珍しく今日はみんながおとなしく授業を受けていたのにこの音のせいで台無しになった。
「なんだ なんだ?!」
「魔英山からだぞッ!」
「化物のいびきだっ!」
「クレイジー?デンジャラス?エアイヤー?」
「何語だそれはよ」
みんなが口々にしゃべりだす。僕はとっさに制そうとしたが、その必要はなかった。
優が先にこういったのだ。
「あの山のことを悪く言うんじゃない」
静かで、殺意のこもった声だった。
この声に、教室は波打ったように静かになった。優は番長とのこともあって、かわいいけれどもクラスのみんなから恐れられている。その優が殺意をもろだしにしたのである。|(と言うか実際手のひらから剣先が覗いていたりして・・・・・・)これにはクラスのみんなも黙るしかない。そして優は心配そうに魔英山のほうを見る。確かにあの山で何が起こったのか、僕も少し気になる。
「先生私達もう帰ります。」
私達?その優の言葉に、僕は少しいやな予感がした。またこういう時に限っていやな予感というのは当たるものだ。
「ほら、帰るぞ。」
優が僕においでおいでをする。周りがヒューヒューといって冷やかすが、それらのことは頭から気にせずに、僕らは学校を後にした。
魔英山から黒々と、煙が登っている。ウーンカンカンカンカンとあちこちから消防車が駆けつけてくる。
しかし、どの消防車も、山の前、5・6mあたりまできた時に、急に止まり、そのまま絶対に動かなくなる。
そんな中を僕と優は、消防士の注意を無視して、山の中に入っていく…。
僕らは優の家の中に入っていった。
椅子に腰をかけながら僕は優に訊く。
「何故こんなことが起こったのか解る?」
優が答える。
「きっとギガノ・ドラゴンの仕業だ。あいつの手下を沢山殺したことで少しいらついているんだろう。ちなみに手下っていうのは、ヤミノ・ドラグーンや、デス・ドラグーン…その他モロモロのことだ。」
再び僕が優に尋ねる。
「てかなんで僕を巻き込んだのょ?」
「貴様の馬鹿面を拝みたかったからだ」
「で、君はこれからどうするの?」
優はなぜそんなことを聞くの?と言いたげな目で僕を見返して、そして当然だというゆうように答える。
「もちろんあいつを倒しにいく。」
いかにもあっさりとした緊張感のない答え方だ。優がいきなり椅子から立ち上がり、
「今から魔洞に行くけど、あんたはどうする?」
と聞いてきた。
「もちろん、行くよ!」
そう答えると、優についていった。
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ヒュオォォォ
冷たい風が黒い煙を巻きこんで魔洞の前にいる僕らの膝辺りに吹いてくる。なんとも嫌な感じだ。しかし優が隣にいるから少しは我慢できる。僕は目の前に広がる雑じり気のない純粋な暗闇を見て、ごくっ、と喉を鳴らした…。
「大丈夫だ。中は明るい。」
優の声も今の僕には届かなかった。
カーン、トーン 洞窟の中に僕らの足音が木霊する。この中はいやに明るい。
「優はなんで魔洞の中は明るいっ、て言ってくれなかったのかな~?」
僕の小さなぼやきまで木霊して、大きくなってしまう。優には聞こえないように言ったのにどうしてだか聞こえてしまった。
「黙れこの弱虫ノビタめ。私はちゃんと言ったぞ『魔洞の中は明るいから大丈夫だ』と」
「えぇっ!?」
今度は僕が驚く番だ。優の言うことからすると僕は恐怖で優の言葉すら聞こえていなかったことになる。
「もしかしてあんた…私の声が聞こえていなかったのか?」
と、優が悪気はないと思うが、|(そう信じたいが)追い立てるように言う。僕の顔がゆでダコの様に真っ赤になる。その状態のまま
「そんなことはおいといて…。」
何かを置き換える様にして右から左へと手を動かす。
「何か他の話をしない?」
と言う。すると優は意外にも 分かった と言うようにうなずいてくれた。
「じゃあ五大エナジーの話をしよう。」
と、優が言い、語り初めた。
「前『この山はエナジーが満ち溢れている…。』とか言う話をしたよな?で、その時に言った エナジー という言葉実はあれ5個いや、5種類ほどあるんだ。一つは炎のエナジー、2つ目は森のエナジー、3つ目は水のエナジー、ちなみにこれは私が一番好きで使い慣れてるエナジーね。で、4つ目は光のエナジー、そして最後に闇のエナジー。このエナジーはあんたが使っている剣のエナジーといっしょだ。で、このエナジー達はじゃんけんみたいな感じで繋がってる訳光は闇より強く、闇は水より強くて水は炎より強い。そして炎は森より強く、森は光より強い。そういう関係になってる訳だから正直言ってこの水の剣、『ポセルノ・ドラム』で闇のドラゴンのギガノ・ドラゴンに勝てるかどうか心配なんだよね。」
ペロッと細やかな舌を出しながら優が言った。
この時僕は僕をもが優の周りにだけ百合の花が咲いたのかと思った。其ほどに可愛かった。
急に魔洞の中が真っ青な水に変わった。しかも水の中だというのに動き辛くも無く、普通に呼吸ができた。何とも不思議な感じだ。隣を見ると優はその細い唇にうっすらと笑みを浮かべ僕の知らない歌を口ずさんでいる。
『海があるからこそ私達は産まれてくることが出来た。海があるからこそ今私達は生きている。人は死んだら海に帰る。海、海、海。海こそが私達の総て………。』
大体こんな感じだったと思う。
それから炎、森、闇へと変わっていくエナジーの中を通り|(此の中では何もなかった。)僕らは魔洞をぬけた。
ザクッ!!ズバッ!!
「ギエエェェェェェェ!!!!!!!!!!!」
襲ってきたヤミノ・ドラグーンをとても、上手とはいえない手際で切り裂く。此で何体目だろうか?指折り数えていたので足元を全く見ていなかった|(単なる馬鹿・・・)。そして其が裏目に出た。ズルッ!足元に直径1m程の深い穴があり、僕はその中に落ちてしまった……。
「フフフ…。また一匹堕ちてきた。はっはっはっはっは!!」
穴の底はダンジョンの様になっていて、どこからともなく不気味な声が聞こえてくる。どうにかこの穴から這い上がれないかと上を見たがそれも無理そうだ。穴の高さは少なくとも5、6mはあって、上では優が闘っている音が聞こえてくる。あんな所から落ちてよく無事だったなぁ~。と、自分でもつくづく思う。とにかく早く他の出口を見つけなければ。さっきの声の主と思われる何かが近付いてくる。僕は本能的に剣を出し、構えた。暫くの間を置きやっとそいつの姿があらわれた。えてきた。細く一重の目、くせにならない程度に高い鼻、口は優がたまに見せる不敵な笑みをしている。そして、好き放題に伸ばしきったボッサボッサの髪の毛、あちこちが破れている黒く汚い服、そして、手には僕の剣に似た黒く紫に光る剣を握っている。ただ僕の剣より輝きが少しよわいような………。まあそんなことは置いといて、髪と服装さえどうにかなっていたら、なかなかの美少年だと思う。そいつは僕の姿を見つけると、非常に残念そうな顔をして、
「ちぇっ!闇の魔物じゃあねぇのかよ!」
と、吐き捨てる様に言った。何故こいつはエナジーのことを知っているのか?そして何故こんなところにいるのか?僕が頭を抱えて悩んでいたら、そいつがいきなり剣で切り付けてきた。それも強い闇のエナジーを放つ魔剣だ。戦闘のときにだけ,強くなる仕組みなのかもしれない。急いで構えたが一瞬遅れて頬に妙な痛みを感じた。僕の血が顎を伝わって地面に落ちてゆく。相手は既に二度目の攻撃に入ろうと体を捻り剣を振り上げている。今度こそは確実に構えた。相手の剣が綺麗な弧を描きながら腰辺りを狙って向かってくる。僕は剣先を下に向け、相手の攻撃をまった。
キィィィィィン、バチバチバチバチッッッッッ!
相手の剣が僕の剣にヒットし、2つの闇のエナジーが反発した。剣がぶつかっている部分から世にも奇妙な紫色に輝く火花が散り、僕とそいつは数m位吹っ飛んだ。僕は地面に後頭部を強打してしまった。しかしそいつはクルクルと猫の様に空中で回転し、スタッ!と、足から綺麗に着地していた。ダメだ僕と奴との間にはレベルの差が有りすぎる!奴は倒れている僕の首筋に剣先を当ててきた。何の感情もない冷たさが、躯全体に走る。
「お前は誰と一緒にここに来た?」
こんな状況で質問されて素直に答える僕では無い。いや、僕じゃなくても普通の人は先ず答えないだろう。なので
「何故、何故教える必要がある!?」
と、逆に聞き返してやった。さすがの奴も此の答えは予想していなかったみたいで、少し驚いた顔をして、困った様に上を見上げた。んで、まあ上を見上げたのだから当然隙が出来る訳だ。僕はその隙を見逃す程素人じゃあ無いし、そこまで恐怖に刈られてもいなかった。|(魔英山で此の5倍は恐い思いをしているからなあ~。笑)
思いっきり相手の脇腹を蹴ってやった。その反動で僕は起き上がり、奴は「ゴンッ!」という鈍い音を立てて頭から倒れた。そいつが頭を抱えて呻いている隙に持っていた剣を相手の首筋の剣を突き付けた。つまり、状況がひっくり返った訳だ。僕もやれば出来るんだ!と、いう密かな興奮を堪え、わざと落ち着いた声で僕は訊いた。
「おい、この穴から出るにはどうすればいいんだ。俺もなるべく殺したくはない。だから答えろ。」
僕の剣先で放心状態になっていたそいつはやっと意識が戻ってきたみたいでこう答えた。
「此路を23m程進んだら闇井戸と呼ばれる井戸が在る。その井戸の中に闇エナジーが一杯に溜まったら此処から出られる仕組みに成ってるんだ。だから俺は穴に堕ちて来る魔物を片っ端から狩って行ってた。まぁ安心しろお前も暫くは此処から出られないからな」
「そ、そんな…。とにかくその井戸の所まで行ってみようよ」
と、僕が言ったのに対し、そいつは、
「無理だ、あの場には何かの魔物の闇エナジーがないと入れないんだ。」
このように答える。とりあえず、奴の首から剣を離してやった。というよりは、そう仕様とした。そう、その時丁度戦いの音を聞き付けて穴の中に優が下りて来たのだ。
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Six
大脱出 〓
僕とこいつと優此の三人が穴の底のダンジョン|(勝手に命名)に集まった。
「なんで下りて来たんだよ!」
咄嗟に此の言葉が頭にうかんだ。そしてそれと同時に何かが脳裏を横切った。
「優、優…!お前優か!?壱原優か!?」
此は僕ではなくつい先程まで僕と殺し合いをしていた奴の言葉だ。何故こいつが優の事を知っているのだ?僕が考えている隙にも奴は言葉を続ける。
「優、覚えてるか!?俺だよ俺、純痲だよ!」
この名前を聞いた途端また何かが脳裏を横切った。まるで今迄忘れていた洋服を今更になってタンスの中からまた引きずり出そうとしているような感じだ。
「私はそんな名前の奴などしらん!時空間を司る偉大な竜にやられる前に出会ったというならばその記憶はもうない。しかしさっきからお前の言葉を聞く度に頭の隅に眠っていた何かが疼く。此は何故なのだろうか?」
僕が悩んでいる時に優が叫び疑問をも言う。そしてそのあと奴いや、此からはフレンドリーに(いやフレンドリーっていう言葉を使えるほど親しくは無いんだけどもね。)純蟇と呼び捨てにしようか。其では改めて、純蟇も呟く。
「そうか…。あのときお前もキオクを奪われたのか。勇がお前を庇った様にみえたが…。流石は時空竜だ、二人の記憶を一辺に奪ったのか」
話が急激に進みすぎて頭の中が真っ白に成りそうだ。時空竜?記憶を奪う??そんなことが現実にあるのだろうか?まあ魔物や魔法等があった|(復《また》は居た。)のだから記憶を奪う竜くらいいても不思議じゃあない。しかし優が僕と同じ感じに成っていたとは…。少し、いやかなり驚きだ。もしかすると僕と優、そしてこいつの間には昔、何か深い縁があったのでは?
……………僕は5年前ある施設の前で泣いていた。何を聞かれても分からないと答え、自分でも本当に何一つとして覚えていない。体の大きさ等から歳を六歳位だと決められた。更にその後病院で検査を受けさせられ、誕生日を1月ぐらいだと決められた。と、聞かされている。
ということで、僕も記憶がないから僕達の間に何か縁があったとして僕が知らなくても不思議はないのだ。そのとき、純蟇が僕を見つめているのに気が付いた。それこそ穴が開きそうなほど。勿論いい気分はしなかったので。直ぐ不機嫌な顔を作り目を反らせる。そして何となく優の方に目を向ける。するとなんと言うことだ!!優までもが僕の事を見つめているではないか!!さっきとはウって変わって穴があったら潜りたい気分になった。いやさ、実際はもう穴のそこなんだけどね。
「そういえばお前の顔もどっかで見たことあるような……」
という純蟇の声と
「お前と学校で始めてあったとき、何か懐かしい感じがした」
という優の声とが見事に重なる。これがまたウンヤモンヤしている僕の気持ちを募らせる。もはや優達の声の内容なんてどうでもよかった。そんなものは無視して逆にどやりつける。
「どうでもいいから早くこの穴を出ようよ!!」
優と純痲は完全に不意討ちを受けた顔だった。その顔が余りにも似すぎていて、兄妹みたいで何故か気に食わない。やがて我に帰った様にして純痲が言う。
「だ~か~ら~、出られないの!!」
「あ、そっか。そうだった、そうだった。すっかり忘れてた」
本当に今思い出した。
「んな大切な事を忘れんなよ!」
純痲がすかさず純痲が突っ込む。これの何処が面白かったのか優が笑っている。細やかな唇が揺れ、そこから此の世のものとは思えない程の綺麗な笑い声が漏れている。その姿はまるで天使の様だ。今までの緊張しピリピリした空気は何処に行ったのやら今はとても緩い空気が流れている。優が今までの顔が嘘だった様な真顔に戻り純痲に訊ねる。
「何故出られないか、その理由をよく聞かせてくれないか。」
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僕達は今闇井戸の前にいる。純痲が優に説明した後に、都合よく堕ちてきたヤミノ・ドラグーンを倒し闇井戸がある場へと入る事が出来た。僕と純蟇は剣をスタンバイして、優は握り拳程の闇の塊を十数個作り、掌の上に浮かべている。それは此の闇の中でもはっきりと目にとって見えるようなとても深い闇だった。いつもの事ながら優の魔法には驚かされる。優曰く此は魔法ではなく「陰術」というものなのだそうだが。
「準備は…、いい?」
優が軽い口調で訊ねてくる。
「うん、いいよ」
「0k!」
僕と純痲の声が重なる。空かさず僕は純痲を睨むが相手はそんな事は気にも止めていないようだ。
「さっさと始めようゼ。」
純痲が如何にも「待ちきれない!」という様な顔で優を見詰める。全く…!コイツには恥ずかしいとかなんとかそういう感情は無いのか!?僕よりは少なくとも年上の筈だ。それなのにこんなに心が育っていないとは…。呆れた。僕はこう思いながら自分にも嫌気が差した。何故なら此の思いはあ-ゆ-行為が躊躇わずに出来る純蟇への嫉妬の気持ちも雑ざっていたからだ。見詰める純痲に対して優はか細く笑っている。これが僕の心のイライラを更にパワーアップさせた。「じゃあ始めようか。」優が言い僕と純痲が頷く。
「せーの!」
優の掛け声共に一斉に持っているものを闇井戸の中に落とす。僕と純痲は剣を、優は闇の塊を。一瞬の間を置き闇井戸の中から溢れんばかりの紫の光が吹き出てきた。その光が段を作り遥か上の岩の天井に当たった。
次の瞬間、
ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!
地震かと間違える位地面が揺れ、(いや、揺れたんだから地震だよねこれ…。)岩の天井に人一人がやっと入れそうな位の隙間が出来た。そこに光が射し込み、隙間まで届く、"光の階段“を作った。
「お、おい…、嘘だよな。光の階段なんて上れる筈無いじゃないか!」
ここまで来てこれかよ!と、純痲が唾をはく。それに答えるように優が言う。
「いや、私は行く。ここを出られなければギガノ・ドラゴンが倒せない。ということは 魔英山 も救えない。だから私は行く」
その言い方は穏やか且威厳のあるものだった。そしてその目は決意の光に満ちていた。
カツーン,カツーン。優が階段を登って行く。光の階段なのに妙にリアルな音がする。優が復一歩階段を登るその途端優の姿が目の前から消えた。
「こんな危ねぇ階段作ったやつ・・・・・・、死ね」
声のした方を見ると消えた段の一つ先の段の縁に優がぶらさがっていた。そして、よいしょ!という掛け声と共に事も有ろう事か難なく片腕の力だけでヒラリと段の上に上がったのである。そして、ピョン と、ただがジャンプで、見上げるような所に在る隙間迄跳んでいったのである。 優の細い身体が隙間へ吸い込まれてあった後、
「俺、優のことが少し恐くなってきた」
と、僕と純痲が口を揃えて言う。…初めて純痲と意見があった。
「じゃ、じゃあ上ろうか」
こういう僕と、
「あぁ。勲任せたぞ」
と、一も二もなく頷く純痲。僕を先頭にして光の階段を上っていった。
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Seven
怪人 由
勲達が穴の底のダンジョンでなんやかんやしている間にハワイ諸島の南東に位置するキラウェア山に在る魔洞内部の光のエナジーの間ではこんな事が行われていた。
一人の老人が石の台に手を置き大声で話している。
「…以上でこの会議を終了します。其では次に由様からの伝言をお伝えします。 お前達は今から世界中に散らばっている俺の仲間、優 勇 純蟇 朱巫 望青慶昌小芸ソマンド ピーター ビクトン イサ この11人を探してもらう!!文句の在るものは申してみよ!!!との事です」
すると、たくさんいる群衆の中から一つだけ手が上がった。
「ここにいるセズン・アレキサンドルが異議を申し立てる。何故目的も知らされずに人探しをしなければならないのですか!?そう、何故目的を知らされないのですか!?」
その問いに何処からか冷たく冷酷な声が答えた。
「それはな、お前達が知らなくてもよい事だからだ。セズン・アレキサンドル。お前をそこまで強く育て、尚且お前より格別に強いのは誰かを忘れん方がいいぞ」
「と、とんだ御無礼を致しました!どうかお許し下さい!」
セズン・アレキサンドルと名乗った人物が非常に慌てた声で許しを乞う。一方他で群衆は、
「由様が御自分で御喋りに!」
とか、
「こんなこと、そうそうあることじゃあない。今日は雨でも降るんじゃなかろうか」
とか、
「いや、天気予報では午後イチに雨が降るって言ってたぞ。」
「あっ、そっか~。じゃあ『雪でも降るんじゃあなかろうか』だね」
「アッハハハ。そぅだよね~」
そんな感じで驚きのざわめきから全く関係のないお喋りへと変わっていった。
「静粛に、静粛に」
台の後ろの老人が言う。それでもガヤガヤと群衆は静かにならない。
「黙れ。」
また何処からともなくあの冷酷な声が響く。先程の声より格別に恐ろしい。何の感情も感じられない氷の様な声。その声が群衆の頭上を駆け抜けると同時にくだらないお喋りも恐ろしいまでにピタッ!と止んだ。
「では各自火山内の自分の部屋に帰るように。」
今度は例の老人が言う。群衆は言われた通りに魔洞を出ていった。ただ一人、セズンを残して。
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Eight
朱巫、復活
僕達はやっとのことで穴から這いずり出ることができた。
「勲、大丈夫か?」
純痲が訊ねてくる。
「あぁ大丈夫だ。っヵなんで僕の名前を知ってんだよ。」
確かに此は前から気になっていた所だ。
「何でって、優に教えてもらったからに決まってんだろ。」
純痲が即答する。優…。そんな個人情報をこいつなんかに教えんなよな。
僕とこいつでこんなやり取りをしてたら目の前に30cmはある、太い鉤爪が現れた。恐る恐る上を見上げると、紫の光だけで出来た羽を持ったデス・ドラグーンより少し大柄な然しギガノ・ドラグーンより少し小柄な魔物が宙に浮いていた。
「気を付けろ!そいつはパープル・ドラグーンだ!!勿論私が付けた名前だがな!」
他の魔物の叫び声と共に優の綺麗な声が響く。
「えっ?」
と僕が聞き返す隙もなくパープル・ドラグーンが襲ってきた。
シュッ!
パープル・ドラグーンが羽を振ると同時に幾つもの三日月形の光のカッターが創り出された。
シュッ、シュッ、シュッ!
その光のカッターが凄いスピードで襲ってきた。ザクッ! 腕に鈍い痛みが走りそこに目をやった。……腕が紅い。その途端目の前が真っ暗になった。
「勲、勲。大丈夫?」
遠くで誰かが呼んでいる。目を開けると優の顔がドアップで写っていた。
「わ、わわわわわ!」
「きゃっ!」
僕が意味不明なに叫び、其に驚いた優が短く悲鳴をあげる。
「酷いじゃない勲。心配してやってたのに!嚇かすなんて!」
「ご、御免…。」
謝りながらも何かが可笑しいと感じていた。優って…、人を心配したり、あんなにも素直に驚いたりするキャラだったけ?説明を求める為に純痲を探し、目の前にいる(というか倒れている僕の体に乗っかってる。)優から視線を反らした。すると優が…いた。もう一度顔の前に目を向ける。其所にも優がいる。どういうことだ?優が2人いる。完全になにがなんだか解らないという顔の僕を2人の優が可笑しそうな顔で見ている。唯目の前にいる優の方が少しオーバーな様な気がする。そこに純痲が説明をする為に前に出てきた。「勲、てめぇの目の前にいるのは優じゃねぇよ。優の双子の妹の友美だ。」「えぇ!?」驚かずにはいられない。とにかく立ち上がり目の前の優、いや友美を退かす。友美が些か不満そうな顔をして言う。
「何よ!勲、酷い!優なら目の前に居てもよくて私は駄目だって言うの!?信じらんなぁ~い。」
お前のその口調の方が信じらんねぇよ。そんな事を思いながらも友美に訊いた。「で、何でお前まで僕の名前を知ってるの?」
「なぜって、優に教えてもらったからに決まってるじゃない。んなこともわかんねぇとかアホ?」
そう言ってキャハハハと笑う。
一言余計だ!イライラしながら純痲に訊ねる。
「で、何でさっき迄は居なかったのが今はいるの?」
「それは…、」
と純痲が口を開く前に友美が言う。
「それがさ~。聞いて聞いて!私~、優と勇が時空竜に吹っ飛ばされたあと一人だけで時空竜のとこまでいったんだよね。そしたら~時空竜ったら私の顔見るなり攻撃してきたんだよ~。で、私は森のエナジーの使い手だから即座に自然の水晶を作ってその中に自分の身体を入れてガードしたって訳。でも時空竜の攻撃を食らったから水晶が固くなって私の身体が出なくなったのよ~。んでそのまま時空竜にテレポート強制的にやらされて今までこの洞窟の中で水晶に閉じ込められたまま眠ってたの~。そこを優に助けられたってこと~。いわゆる眠れる森の姫ってやつ!わかったぁ~?」
僕は純痲に訊ねたんだけど…。
やべぇ、こいつらといると気が狂いそうだ。
でもまずは・・・・・・
「うん。わかったけどその口調本気で止めてくれない?」
僕は頼んだがやはりそれは受け入れられる事はなかった。
「えぇ~。私この口調しか無理なんですけど~。御免ねぇ~。
この謝りかた、絶対に適当だ。あーもムシャクシャするー!僕の堪忍袋の緒が切れそうになった所で優が口を挟む。
「友美、こいつが頼んでいるのに其はないんじゃあないか。」
優に言われて友美が渋々僕に謝る。
「はぁい。解りました。きちんと勲に謝りまぁーす。……勲、御免なさい。」
と、友美にしては珍しくペコリと頭を下げる。
「御免ね。こんなふざけた奴で。」
と、優も軽く頭を下げる。…やっぱり、優が一番だ。
この言葉に黙ってはいないのが友美だ。
「なによ優!貴方の記憶の一部を取り返してあげたのは誰!?この私でしょ!それなのに何が『ふざけた奴』よ!失礼しちゃうわ!プンプン!」
プンプンって擬態語だろ。それを口で言うってどうなんだよ。て、今何て言った?記憶の一部を取り返した?
「優、記憶が戻ったの!?」
友美のことなど毛頭気にせず、優に訊ねる。
「あぁ戻ったよ。と言っても10歳の時の空間竜を倒した時の記憶だけだけどね。」
僕の訊ねに対して優がこう答える。その横で、友美が
「えっへん!凄いでしょ~。」
と妙なリアクション付で威張る。
それを無視してその後僕は優にどんな記憶かを聞かせてもらった…。
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Nine
セズン、魔英山へ
此処に優と言う名前の変わった少女が居ると聞いてやってきた。確かに家がひとつあり、家の中も子供一人しか棲んで居る形式がない。だけれども、誰も…いない
「此方迄来て無駄足かよ!!」
ケッ!
思わずいつもの癖で、家の中に唾を穿いてしまいそうになった。とにかくもう少し此の家の中を探ってみよう。そう思いふと後の壁を見てみる。
すると何と都合のいいことだ。
此の山の地図が掛かっているではないか。
ん!?
あの地図の中にあるあれは魔洞か!?もしそうだとしたら其所にいるに居るに違いない。行ってみるか。そう思い地図の中に描かれている魔洞へ行ってみることにした。
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Ten
いざ、決戦の時
目の前に大きな扉がある愈々だ此の扉の向こう側にはギガノ・ドラゴンがいるついに決戦のときがきたのだ。優も純痲も友美も、皆緊張していて空気がピリピリしている。
ギギギギギ
扉を開け中に入る。
『『誰だ!!!』』
低く大きな声が頭の中に直接響いてきた。
それには優が答えた。
「私は優だ!魔英山を滅茶苦茶にしたのはお前だなギガノ・ドラゴン!私は其をこれ以上悪化させない為にお前を倒しにここやって来た。覚悟っ!!!」
優はそう言い終わるやいなや、瞬間移動にも思えるスピードで目の前に居る50mはある巨大な竜に突っ込んでいった。
優だけにやらせてはいけない。僕らも皆決意に満ちた目をしている。「「「行くぞ!!」」」
僕と皆の声が重なる。そして、走り始めた。友美は森緑の色に耀く1つの剣を両手で持ち、純痲はダンジョンからでるために失った剣とは違う二刀の剣を片手片手に持ち、僕は先程優の話を聞き終わった後で作ったデス・ドラグーンの牙で作った柄とパープル・ドラグーンの羽で作った遠距離攻撃が可能な光だけの刃を持つ剣を持って。
「飛び交う光の刃で目の前に居る敵を粉砕せよ!sun フェニックス ブレス!!」
優が魔法で攻撃を仕掛ける。 優が呪文を唱えた後に出来た幾つもの光の剣が、一つ一つまるで生きているかのように刀身をしなやかに曲げながらギガノ・ドラゴンの方へと向かっていく。
「闇に満ちる暗黒のエネルギーよ、汝無数の楯と生り我を守れ。dark-shield!」
ギガノ・ドラゴンが今度はきちんと声を発して呪文を唱える。
ジュッ!ジュジュッ!
ギガノ・ドラゴンの前に飛んだ光の剣が剣先からどんどん溶けて逝く。その剣と共に優が突っ込んでゆく。
ドスッ!!
ギガノ・ドラゴンの巨体に優の剣、{ポセルノ・ドラム}が吸い込まれて行く。剣が突き刺さった場所から、どす黒い血が吹き出る。
『幾ら水エナジーの使い手だと言っても、流石は時間竜と空間竜を倒した奴だ。此の私に怪我を負わせるとはな。久しぶりに面白い闘いに成りそうだ。』
そう言い終わるやいなやドラゴンのからだが小さくなり、一人の子供の形になった。そいつは背中には巨大な翼が付いていて、手には長さ5m、厚さ10cm位の大きな剣を二刀持っていた。
その顔は・・優そのものだった。
「コピーか・・・」
純痲がつぶやく。
『力が同じならば、勝負を決めるのはエナジーだけだ』
暗黒龍が言った。
「違うね。勝負を決めるのは、運と信念だよ」
それを合図としたように、双方、走り始めた。
ギィン!
ドラゴンが降り下ろした第一の剣を優は剣で受け、5m程後ろへ跳躍した。然し、空いた間合いをドラゴンは一瞬のうちに詰め、左右両側から暗黒の剣で切り付ける。
シュッ!!
優は咄嗟に屈んだが、それでも避けきれなかった彼女の長い黒髪がハラハラと宙を舞っている。今度は屈んだ繰り出した優の剣での突きが炸裂する。先程優に攻撃がかわされたせいで游いでいたドラゴンの脇腹をかすめる。
あまりにハイレベルな闘いに僕は気が遠く成りそうだった。
間一髪で当たらなかった優の攻撃を見届けた後、体勢を立て直したドラゴンは、一瞬の隙も見せないまま優に膝蹴りを食らわす。優の華奢な躯が吹っ飛んだ。そして…、
ズシャ!!
優の躯が強く地面に打ち付けられて動かなくなった。
友美と純痲、そして僕も、先程の決意に満ちた目の色から、優が倒されたことによる憎しみと、優を倒したドラゴンへの恐怖の色に変わっていた。
「数未知数の森の力よ、今その力を我が前に表し敵を討つ最高の武器と成れ。CRYSTAL‐SWORD!」
「闇より濃き暗黒の力よ、汝死の耀きを放ち我が前に立ち憚る者全てを破壊せよ。DESTROY‐SHINE!」
「全てを見守る時の竜よ。我が前に姿を現し我と共に我が友を救え。マイスター⁻ホラル・ドラゴン!」
友美と純痲と、知らず知らずのうちに口から出ていた僕の声とが重なった。僕の場合は、空中に何かの文字と図形を書き、そこに息を吹き掛けていたのだが。
その後、言葉では言い表せないような凄まじい音がした。その後意識が遠退き、気が付いたら魔英山の魔洞の前に倒れていた。
________________________________________
Eleven
純痲の目
俺は見た。ドラゴンとドラゴンの戦いを。そしてそれに乗る伝説の<ドラゴン使い>の姿を。
「闇より濃き暗黒の力よ、汝死の耀きを放ち我が前に立ち憚る者全てを破壊せよ。DESTROY-SHINE!」
―――――俺が唱えた途端此の洞窟の中の闇が一ヶ所に集まり、凄まじい勢いで広がって行った。そうこれが『死の耀き』だ。俺が使える術の中で最も強い術。その術を今俺の持てる限り総ての力を使い発術させた。もしかしたらギガノ・ドラゴンを跡形もなく消すだけでは済まないかもしれない。
『我を失うでない。少年よ…。』
突如頭の中に声が響いてきた。
此の声は…時間竜??そんな馬鹿な!時間竜はとうの昔に俺達がたおしたはずだ!!再び『死の耀き』の方に目をやる。 するとどういうことだ!?
死の耀きの光が逆流し、消えかかっているではないか!こんなことが出来るのは時間竜だけだ。ま、まさか本当に時間竜が!!??そう考え冷静になり辺りを見渡してみる。すると…居た。時間竜が在た。今やドラゴンの姿に戻っているギガノ・ドラゴンと向き合っている。そして、その時間竜の背中には勲がいた。
「ゴエェェェェェッッ!」
「コオォォォォォオウッッ!」
二頭のドラゴンが勇ましく吼え、洞窟中の空気が震えた。
そして…
ゴォォォォォォォ!!
ギガノ・ドラゴンが『死の耀き』にも劣らない純度の闇の焔をはいた。それが瞬く間に勲と時間竜を呑み込む。然し、
「はぁ!!!!!」
勲の叱声と共にそれは内側から揉み消されていった。
あんなこと人間の出来ることではない。ドラゴンの焔をたった一声叫ぶだけで無にするなど人間に出来こるとではない。こんなことが出来るのは俺の知る限りではアイツくらいだ。人間と魔物のクウォーターのアイツ、そう 《勇》 だ。
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Twelve
友美の想い
優を助けなきゃ!私はその一心で優に向かって走ってた。回りのことなど一切きに止めずに。ドラゴンが2頭も居るということに気付かずに。
「優!」
私は叫んだが優からの返事はない。その為より一層駆けるスピードを速めた。
「ゴエェェェェェッ!」
「コオォォォォオウ!!!!!」
突如洞窟内に響いた竜の咆哮に私は足を止めた。今の竜の鳴き声、時間竜の声が混ざってなかった!?恐る恐る顔を上げてみた。…そしてそこで私は信じられないものを見てしまったのだ。あれは時間竜!?そんな!!彼奴はとうの昔に私達が倒したはずなのに!ちょっと待って、彼奴の上に乗ってるのは……もしかして勲?いや違う。あれは、勇だ!!私達のグループの中で優に次ぐ実力者。そして私の片想いの相手でもある勇。その勇が今、時間竜を操りギガノ・ドラゴンと戦っている!気が付いたら私は両目から大粒の涙を流しその場に崩れていた。勇が戻ってきてくれた。私達の為に。嬉しい、とどまるところなく嬉しい!!
純痲も今は竜同士の戦いに見入っている。
勇が負けるはずない。そう信じ私は再び優のもとへと駆け始めた。
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Thirteen
セズンの見たもの
優を追って魔洞を抜け、闇の魔物を倒し洞窟の奥のドラゴンのいる扉を潜った俺は信じられない光景を目の当たりにした。竜同士の戦いだ。
暗黒竜の吐いた焔を無にして見せる時間竜に乗った人間。《伝説のドラゴン使い》だ。書物等では見たことがあったがまさか実在したとは!あんなものは只の伝説だと思っていた。しかもドラゴン使いがあそこまでの魔力を持っているとは予想外だ。せめて由様同じくらいだと思っていたのに。あれじゃ少なくとも由様の魔力の5倍はあるぞ。
ドゴッ!
ガラガラガラ!
暗黒竜が尾で砕いた岩の破片が雨のように降ってくる。俺の所には細やかな物しか飛んでこないが、時間竜の所には2mはありそうな巨大な物が飛んでいっていた。まあ時間竜の大きさと比べると蚊よりも小さく感じられるが。時間竜は一向に反撃する気配がない。唯相手の攻撃を受け、守っているだけだ。そうしている間にも暗黒竜は更なる攻撃を仕掛けている。その度に無関係な俺にまで被害が加わる。
バキバキ!!
暗黒竜が洞窟の天井に垂れ下がっていた氷柱のような鍾乳石を根本から砕いた。 無数の岩の槍が降ってきた。その中の内の一つが時間竜の強靭な翼を貫いた。其処には向こう側が易々に見える大きな穴が開いた。「この私を傷付けたな。良かろう。そっちがその気ならば私もやるだけだ!」
遂に時間竜が本気になってしまった。この時何かしらの嫌な予感がした。そして、その予感はあたっていた。
「消えろぉーーーーー!!!」
ドラゴン使いと時間竜の声が見事に重なる。そして時間竜の巨大な光の槍とドラゴン使いの5大エナジーを満遍なく使った人間大の10数個程の弾の攻撃が炸裂する。その光の槍は時間竜よりも未だ大きく洞窟の闇を全て飲み込んでしまいそうなほど明るく耀いていた。そんなものが洞窟内で振り回され、何かに当たったら半径20mを巻き込み爆発する弾が飛び交い暗黒竜を撃つ。現実とは駆け離れた光景。でもこれは現実なんだ。目の前で洞窟が崩れ落ちていく此が。
おれは、目を見張った。
人など、その弾、槍のほんの一部に触れただけでも消し飛び、跡形もなくなってしまいそうなほどの強烈なエネルギーに、彼の竜は耐えている。全身からあふれ出す黒いもやが、あの竜を包み、激しいエネルギーを発して攻撃に耐えている。
洞窟が完全に崩れ、あたりが開けた。
奇跡的に、おれのところには崩れたことによる被害はなかった。
こそは、漆を塗ったように真っ暗だった。
唯一の明かりといえば、ホンワリと光っている時間竜の身体と、魔力の弾の神々しいまでの輝きだった。
次第に、槍も、魔弾も消えていった。
『ほぉ・・・』
時間竜は自分の攻撃に無傷だった暗黒竜を、驚いたように見ている。
「意外とやるじゃん」
ドラゴン使いも、驚いている。
つまり、あの竜は、神に等しい力を持つ時間竜と、それを操るほどの魔力のあるドラゴン使いの想像をも絶する力を持っていたのだ。
『まさか、それが使えるとはな。益々、面白いことになってきそうだ・・・』
時間竜がつぶやいた。
それ?
暗黒竜は何かかなり特別な力でも使ったのだろうか?
いや、時間竜の攻撃に耐えれるまでのものだから、かなり特別なのには相違ないが。それでも、時間竜が驚くほどのものとは、いったい・・・・・?
突如、強烈なフラッシュに包まれる。細めながら目を凝らしてみると、フラッシュに包まれて、暗黒竜のもや的なものが、外側から、じわじわと消えていく。
それで気づいた。
そのフラッシュは禍々しいほどの純粋な光エナジーの塊だったのだ。
フラッシュが収まった。
時間竜の声が響く。
『これでお前を守るものはもうないな』
ドラゴンの表情などは読み取れないが、もし人間なら、うっすらと、不敵な笑みを見せていたに違いない。そう確信を持たせるような言い方だった。
次の瞬間、俺は暗黒竜の元へ駆けていった。
「2対1なんて卑怯だと思わないか?つまり言いたいのはだな、俺と手を組まないかってことだよ」
そういって、遥か高い暗黒竜の顔へと、手を伸ばした。
________________________________________
Fourteen
終末の覇王~勇~
勝ったな。
そう思った瞬間,ことは一変した。
どこから現れたのか、一人の少年がギガノ・ドラゴンの元へ駆け寄り、こう言ったのだ。
「2対1なんて卑怯だと思わないか?つまり言いたいのはだな、俺と手を組まないかってことだよ」
そしてその少年は、彼の竜へと手を差し伸べた。
暗黒竜は、一度だけ首を縦に振ると、低く低頭し、彼を乗せた。
そこで、竜の上で、その彼と、目を合わせる。
そして、驚いた。
無謀にも時間竜とこの俺に新たにけんかを売ってきた彼は、セズンだった。あのセズンが、この俺にけんかを吹っかけてきている。俺は、竜の首元に乗ったまま苦笑した。
セズンはもう、俺に攻撃を霞めることさえ出来ずに敗れ、散ったことを忘れてしまったのか・・・。
あるいは、覚えているからこそ、またこうして戦いを挑んできているのか・・・。
そんなことは、どうでもいい。今興味があるのは、勝敗だけだ。もっとも、すでに決まっているようなものだが。
今や、防護の力を失った暗黒竜と、落ちこぼれのセズン、対、神同等の格の時間竜と、エリートクラスの俺。勝負するまでもない。
「おや、誰かと思ったら勇じゃないか久しぶりだね」
今頃気がついたのかセズンが言う。
「はぁ、お前さ、俺に勝てるとでも思ってんの?」
俺は言い返す。
「さぁね」
セズンはこう答えた。
刹那、彼の目がワインレッドに染まる。両手の爪が長く伸び、先がとがり、10本の長剣のように変化した。
彼の周りに、外界からの干渉をシャットアウトしたようなこの場所よりもさらに暗い、さらに黒い、道が拓けた。
「へぇ、面白いね」
俺は言った。
その繫がれた道から、黒いもやが噴出し、瞬く間にまた暗黒竜のその体躯を覆う。
空間接続か・・・。あいつにしちゃよく出来た技を使うじゃねぇか。ならば俺も・・・だな。
「イクルス」
俺はつぶやいた。
とたんに、俺の背後で空間が裂け、その裂け目から新たな魔物が現れた。無論、俺が召喚したものだ。
鴉のような純黒な羽を纏った、同じように黒い猫だ。ただ、その眼つきは猫というよりもどちらかというと虎や,獅子に近いものだった。
「こいつの名はイクルスという。ケルベロスと同じほどの魔力を持つモノだ」
俺は言った。
「あ、っそ」
特に興味なさそうにセズンが切り返してくる。
「じゃぁ、再開するとしようか」
「OK」
セズンが片手を上げた。とたんに、彼の周りに、無数の魔力の弾が生まれた。
まぁ、俺のやつには程遠いけれど。
「デス・ダ・カーニバル!!」
俺は唱えた。
俺の周りに未知数の裂け目ができ、そこから魔獣らが溢れでてくる。
時空竜が破邪矢を飛ばし、魔獣らが敵に襲いかかったのと、セズンの魔弾が向かってきて、ギガノ・ドラゴンが防護の幅を広げたのは、ほぼ、同時だった。
破邪矢が陣の先頭を行き、魔獣たちはその後を追う。そこに魔弾の群れが殺到する。
俺は竜の背から降りた。
「魔獣どもにだけ楽しませてたまるか!」
言下に、追撃を始めた。
漆黒の魔剣、『ONE』を手にもって。
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手に持った『ONE』を一振りする。即座に、それまで味方を苦しませていた魔弾がすべて、跡形もなく消えうせる。破邪矢をも上回るスピードで、俺はギガノ・ドラゴンの背にいるセズンに接近する。また、『ONE』を振る。その細い剣身がかすんで、複数の波動を生み出し暗黒竜を撃つ。遠隔攻撃だ。
ズガッ!ズッ!ジャッ!
強靭なはずのその鱗は、まるで布か何かのようにいとも簡単に亀裂ができ、そこからどす黒い血が噴き出した。もやの防護など、もはや空気扱いだった。
『な、に・・・・』
暗黒竜から驚きと絶望が混ざった声が聞こえる。時間竜のほうも、感歎の声を漏らしている。
後ろに飛び距離を開けたギガノ・ドラゴンが、再び、暗黒竜が闇の焔を噴いた。さっきよりも、より純度を高くして。
こんどは、叱声だけじゃ止められそうにないな。時間竜もいないし。ま、気にすることはない。俺には『ONE』がある。
すべてを消し去り、無に還す魔剣『ZERO』と、兄弟の契りを交わした剣、『ONE』が。
こちらも、その焔に対抗するように魔剣を振る。
その瞬間、その焔はいとも簡単に揉み消された。闇の焔など、まるで最初っからなかったようにして消えうせてしまった。この魔剣『ONE』は、『ZERO』とは違い、無に還すのではなく吸収をするのだ。『ONE』にはもともとは付加魔力などはない。反魔力能力があっただけだ。その反魔力能力が、向かい来る魔力をすべて自分のものにし、強力な力を得る。『ONE』の素性を俺は知らない。どこで生まれ、俺が手に入れるまで誰に扱われてきたか、まったく何も知らない。ただ、数千年の時間と、いくつもの世界を渡ってきた、ということだけは感じられる。『ONE』の放つ波動は、それほどに強大なのだ。俺が扱えていることが奇跡といっていいくらいに。
剣を下から上へと振り上げながら、跳躍する。その軌道に沿ってギガノ・ドラゴンの身に亀裂が奔る。そのまま、高度はぐんぐん上がっていく。
そのうち、セズンと同じ高さまでになった。垂直に構えていた魔剣を水平に持ち直し、横に思いっきり振り切る。目に見えない波動が、確実にセズンを撃った。
―――はずなのだが
『ONE』の一撃はセズンの張ったシールドに当たり、そのシールドと相殺してしまった。
「ばかなっ」
俺は思わず、そう叫んでしまった。
「何もかも、進化していくんだよ。まぁ、この世にしばらくの間存在してなかったお前は、進化も進展もないだろうけどな」
竜の背で、不適に笑ったセズンが言った。セズンは続ける。
「俺の斬撃を受けてみろぉぉ!」
絶叫のも近い声を上げて、セズンが竜の背からこちらへ飛び込んでくる。その構えと振り方には、全くの無駄も、隙もない。
だが、
「遅いっ!!」
セズンの剣をはじき、手首を返して突きを繰り出す。霞むその剣先が、彼のわき腹をえぐり、派手な鮮血を 吹き出させる。セズンはそのまま地面に落下、俺は落下していくセズンを踏み台にしてさらに高く跳躍する。暗黒竜を越し、ついには時間竜と同じ高度にまで達した。
地面に落ちたセズンと、傷ついた暗黒竜に魔獣たちが襲い掛かる。
その時だ。
「セズンを勝手に殺はしない。失せな!」
どこからか冷酷な声が響いた。
言下に、セズンを覆っていた魔獣たちが吹っ飛び、動かなくなる。
下級魔獣はともかく、イクルスなどの上級魔獣も飛ばされていた。
彼らは、そのまま動かなくなった。
俺はとっさにそちらを見やる。魔獣が消えてぽっかりと空いたスペースに、一人の少年がセズンを抱いてたたずんでいた。
「由・・・」
俺はそいつを知っていた。
また、向こうも俺を知っていた。
「勇、やっぱり強いね。セズンじゃ敵わないし、時間竜と君のペアなんて僕でも敵うかどうかわからない。だから、ここはいったん引くね」
由がバイバイ、という風に手を振る。
「逃がすか!」
俺は、『ONE』を振った。
波動が、大地をえぐる。だがそこにはもう、由もセズンもいなかった。
ちょうどそのとき、暗黒竜が魔獣たちに殺やれて倒れた。
最終的な決着が今この瞬間、ついた。
召喚していた魔獣たちを集め、元いたところに送還する。だが、時間竜は残しておいた。
「勇・・・」
着地した俺に、声が掛かった。
「優か・・・。大丈夫だったか?」
「あぁ、おかげさまでな。でも、私がシールドを張らなかったら純痲や友美は、魔獣たちの群れに飲まれて、今この場にいなかったがな」
優の後ろで、皮肉げに純痲と友美が肯く。
「優、お前が守るって信じてたからあいつらを召喚したんだよ」
俺は言った。
「そぅか、私はあまりにも信頼されているんだな。だが勇、私みたいなのはあまり信頼しないほうがいいぞ。お前の身を滅ぼしかねんからな」
優が、返してきた。
俺はそれに、細く笑っただけだった。
「みんな、ちょっと離れていてくれないか?」
「どうして?」
俺の頼みに、友美が答えた。
「なんででも」
そういって、俺は時間竜の身体にまたがった。
「じゃぁな」
俺がそういって、友美が淋しげな表情をつくる。その友美の隣で、優がうなずいた。
「わかった。じゃぁな」
優が言った。
「勇、またな」
純痲も言った。
「さよ・・・う・・・なら」
遅れて、泣きながら友美も言った。
優が呪文を唱えて、彼女らは消えていった。
「さぁて」
俺は軽く首を振り、呪文を唱えた。
長々と続くその詠唱に合わせて、時間竜が高く、飛躍していく。
ホンワリと光る時間竜にまたがり、その声を響かせる彼の姿は、すべての終わりを物語る『終末の覇王』そのものだった。
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Fifteen
終わりそして始まる
「勇…じゃない。勲だね。」
僕が起きて一番最初に聞いた言葉はこう哀しそうに言う友美の声だった。勇?勇って誰だ?僕の疑問がなんとなく解ったのか優が言う。
「勇とは私がまだ記憶を奪われる前に一緒に旅をしていた者の内の一人だ。今あんたがここにいるのはその勇が『時の魔法』を使って時を戻したからだ。あの闘いの事までを戻さないように巧妙に。だからギガノ・ドラゴンはもういない。その為に魔英山も滅茶苦茶になっていない。でも時間だけはドラゴン討伐に行く前のままなんだ。」
そうなのか。僕は納得した。
と、そのとき、自分の傍らに落ちている、一振りの剣を見つけた。
豪華な装飾が施された鞘に入っていたそれを、恐る恐る抜いてみた。
とたんに、倒れそうになった。
その剣から、冗談ではないほどの魔力が流れ出してきたのだ。
「これは・・・」
僕はつぶやいた。
その隣で、優も感嘆の声を漏らした。
「それは・・・、『ONE』・・・・」
四人はその魔剣に見入った。
そのまま、日は遠く、山に吸い込まれていった。
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図書館はいつも静かだ。そのため他もどこよりも読書に集中することが出来ていた。今日この時までは。
僕が信じていた図書館の静寂は、同じく僕が招いた騒音の本のせいであっという間に粉々に砕かれた。
本の世界に一度入ってしまったら、よっぽどのことがない限り出てこない。
それが僕の読書の掟だ。
しかし、その本という世界が目の前から消えてしまった場合は別だ
ツンツン、と誰かが僕の肩をたたく。
しかし、僕は別に気にとめる事もなく読書を続ける。誰かの指が肩にあたることは、この狭い図書室では日常的なことだからだ。
ばしばしと誰かが僕にビンタを加える。
しかし、これも気にしない。ビンタだってこの狭い図書室の中では日常的な………。
最後に本が垂直に消えていく。
これでやっと僕は本の世界から強制退場させられた。
「誰だよ!こんなことをするのは!」
自分で訊いて後悔した。
目の前にあったのが、この世の何よりもやかましい奴の顔だったからだ。それも二つの。
「よっ!勲、久しぶりだな。といっても昨日会ったばかりなんだがな。」
そう純粋な笑顔で言うのは、他でもない純痲だ。
その横には同じような笑顔の友美と、あきれ顔の優がいる。
「本を返せ。」
別に言い返すような言葉もなかったし、早く続きが読みたかったので、ぶっきら棒にものすごく短い返事をして、僕から本を奪った嫌な奴をにらむ。
「他に何かないの?たとえば、『久しぶりだな。』とか、『この学校に来たの?』とか、他には……。」
「本を返せ。」
同じようににらんだ後、同じ言葉を繰り返す。
「えぇー。」
純痲と友美が声をそろえていったが、優が本を取り上げて、僕の方に渡してくれた。
「ありがとう。」
「………。」
優からの返事はない。
もう読みにかかっていた本から目を離し、優がいたほうを見ると、純痲と友美を引きずって、図書室から立ち去るところだった。
「ありがとね。」
今度は僕の声が聞こえたのか、優はこちらを振り向き満弁の笑みを見せてくれた。
僕はその笑顔を目に焼き付けて、また本に目を戻した。
色々とあったな。
あの三人がいる限りこれからもあるだろうけれど。そう思ったとたん、「それじゃあ私たちが災厄神みたいじゃない!」という友美の声が聞こえてきた気がして、不覚にも笑いがこみ上げてきた。
僕らの新しい学校生活が、今、幕を開けた
生と死の狭間で、どうだったでしょうか?
この話だけではタイトルの意味、その他もろもろなど分からないことが多いと思います。
然し、2話目、3話目と続いていくうちに、謎は解け、そのほどけた糸から新たな物語が紡ぎだされます。
ということで、どうか、これからもよろしくお願い致します。