4 あのワンジルさんも、シュワちゃんも!!
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あの、仙台育英高校の出身で北京五輪マラソンの金メダリスト・ワンジルさんが、自宅の寝室で何と女と寝ているところを妻に発見されて、2階のバルコニーから転落して死んだらしい――というショッキングなニュースが飛び込んで来ました。
事件そのものはナゾでも何でもない気がするのですが、それを 「ナゾがナゾを呼ぶ」 事件に仕立てるのがマスコミの仕事……。
◇
しかし、……しかし、ですよ。
彼は、まだ24歳。
オリンピックで金メダルを取れば、そりゃあ “英雄” とも持ち上げられるでしょう。
当然、それまでは過酷で禁欲的な生活を強いられてきたわけですし――。
これって仕方ないよなぁ……と、痛く同情してしまう私であります。
それくらい、許してやれよ。
突然、大金持ちになって、女にも持てまくって――。 でも、まだ24歳ですよ。
「可哀相だなぁ……」
と、しみじみ呟くと、我が妻も珍しく
「そうよねぇ……」 と相槌を打ってきます。
ええ、ええ、ええ! そうでしょうとも。
「この状況で殺人容疑を着せられるなんて、奥さん、あんまりだわ」
――って、そっちかよ!!
…………。
「いやぁ、でも、まだ24歳ですよ。 私が24の時、いったい何をしていたか――」
と、そこはかとなく反論すると、
「 “浮気” という大罪に、年齢なんて関係あるの?」
と仰られる。
――――。
いやぁ……。
えっ?! た、大罪ですか――浮気って。
軽犯罪ではなく?? 罰金5万円以下、もしくは禁固3日以下――っていう……あの。
「大罪でしょう」
と、シュワちゃんまでが答える――。
「えーーっ! だけど、お宅は63歳!!」
「浮気という大罪に年齢は関係ないのです」
――そりゃあ、ターミネーターさんには関係ないかもしれないけれど……。》
◇
でも、それを足して2で割って、45歳なら許されるのでは!!!
と、意味もなく淡い期待を寄せてしまいます。
だって、これが許されなきゃ、大変なことになってしまいますよ。
いや、……駄目です。
……たぶん、駄目だと思う。
駄目なんじゃないかな?
……ま、ちょっと覚悟はしておき!!(←イヤだぁ~~~っ!!!)
身に覚えのある私めとしては、思いっ切り首筋が寒くなること、頻りであります。
◇
だ、だけど――ですよ。
たとえ、あるいは、よしんば……浮気が発覚したからと言って、それで離婚して、いったい何の得があると言うのです!!
慰謝料――ったって、別に一緒に住んでいれば、夫の財産はそっくり妻のものではありませんか?
一時の “激情” に身を任せて、短絡な結論に走るのは、いかがなものかと……。
ここは一つ、冷静になってですねぇ。 大人の感覚でぇ――。
…………。
妙にワンジルさんの肩を持つ私に、妻の鋭い視線が飛んできます。
「ね~~ぇ、あーなーた~~~ぁ。 まさか、それ。 ほ・ん・き・で言ってないですよねぇ~~」
あはははははは……。
も、もちろん、本気でないことも、なかったんですが……ね。
◇
やっぱ、浮気って、マズイのか?
マズイでしょう。
もしや、私の妻なら――と思っていたのだが……。
男を、こんな生物に作り上げた神様が、恨めしい。
「神は浮気を憎まない。 ただ、浮気のバレる間抜けさを憎む」
バレなきゃ、いいのね。 浮気って (←それがバレるんだよ!!)。
〔第4話 =了=〕