3 「AKB」 と 「モームス。」 ―― どっちが偉い!?
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妻と二人で台所に立って、彼女の一皿を私が作って、私の一皿を彼女が作って、互いに 「美味しいね!」 と言い合いながら食べる……だけど、今はまだ、妻の作った料理の方が明らかに美味しい。
――今は、まだ、ね。
結婚後しばらくは、そんな生活を続けてました。
うん、あれはいつの頃だったかなぁ……と、やたら思いを馳せる今日この頃です。
くどいようですが、それだけ歳を重ねたってことなんでしょうね。
最低でも10年は前になるか……。
私は “月並みな表現” は大っ嫌いだけど、やはり時間の経つのって早い。
やがて娘が生まれ、妻はどうしてもそちらの方に掛かり切りになるし、私は私で仕事が忙しくなり、だんだんと二人して台所に立つ機会がなくなった。
◇
で、そんなことをしているうちに、あの 《同時多発エロ……じゃない、“テロ” だよ!!》 が起こって――あ~~~~っ!! ビン・ラディンさん、とうとう年貢を納めちゃいましたね! 事件から、きっちり10年後に。
ここで会ったが十年目!
十年一昔と言うけれど、本当に不思議な区切りです。 西郷さんが死んだのだって明治10年――ま、それはいいか。
とにかく 「同時多発エロ……じゃない、テロ」。
あの時は確か、妻の作ってくれたスープの中に麺が入っているお椀を啜りながらテレビを見てた。
深夜の1時頃。
凄かった。 特撮かと思った。 とても美味しかった。
あ、いや、私の妻……ムネは無いけど、ウデは有るから (笑)。
エプロンのそこは立たないのに、料理の腕は立つんだよなぁ……。
私も一通り彼女からテクを教わったはずなのに、結局、未だに彼女を超える――という野望を達成できておりません。
で、私の方は、だんだんと腹が立ってくる!
そう、ご明察―― 《メタボ》 だよ。
って、そんなところが立っても自慢にならねぇよ~~~っ!!!
胸の立たない妻と、腹の立つ私と――。
【無理が通れば道理が引つ込む】
と書いたのは夏目漱石ですが――ノーベル賞作家・大江健三郎さんの母校・愛媛県立松山東高校 (当時は旧制・松山中学) の英語教師だった人ですよ! 漱石さん――、腹を引っ込めれば胸は出るだろうか?? あ、いや、私のムネが出ても意味がないんだ (笑)。
「北斗」 と 「南」 みたいに、二人で仲良く 「えいっ!」 と合体してしまえれば最高です (夫婦は一心同体だって言うし)。 そうは言っても、なかなか 『ハートのAが出てこない』 ――という落ちで、上手く締めようと思ったのだけど……私のベルトは、どうにもキュッと締まりません (笑)。
◇
久しぶりに妻と二人で台所に立っていると疎外感を感じてしまうのか、我が娘がやって来て、やたらと絡む。
私は包丁を手に取ってキャベツを刻んでいる最中なので、正直、俎板から目が離せない。
だけど、そんなに仲良くしている風に見えるかなぁ……と、何だかちょっぴり嬉しい。
いや、笑っちゃいけない。 彼女にとってはショックなのだろう。
こういう時の子供の評価は、本当に正直だ。
とても良い空間なので、手伝えることは何でも手伝わせる。
妻と二人で料理を作っていると、こんな効果が生まれるなんて、当時は想像さえしなかった。
――そろそろ包丁を持たせてもいいかなぁ……。》
という欲目もあるが、妻としては学校から帰って来たら、ちゃんと机に就いて、何より勉強をしてほしいようだ。
いわゆる “お受験” ってやつか?
いや、それこそ、まだ早いだろう……。
「全~ん然、そんなことないわヨぉ! ねぇ~、パパさん、パパさん、早い方がいいわよ。 むしろ遅いくらいー」
と妻に畳み掛けられた。
まあ、先日の漢字の件があったし、多少の負い目を感じた私は、早速資料を取り寄せて勉強することになった。
お受験は、最初に親が勉強するところから始まるんですね (笑)。
世には 「隗より始めよ」 って故事成語もあるし……。
子供に英語を喋らせようと思ったら 「どうすればいいんですか?」 と聞く前に、親自らが子供の前で英語の勉強をすれば宜しいのですよ。 至って簡単! (笑)。
で――。
いろいろな資料を、あれこれと見比べてみる。
「なあ、親としては……正直 《AKB》 と 《モームス。》、両方受かったら、どっちに行かせる?」
って、コラッ!! そーゆー “お受験” かよ!!!!
◇
いや、冗談抜きで、私の娘はスゴいから。 親バカも抜きで、ね!!
これは絶対に間違いがない。
因みに私の実妹の夫婦にも11になる娘が居るのだけど、可哀相なくらいに “圧勝” です。
それにしても、私の妹と妻の実力の差が、ここまで出るとは……。
――――。
私の妻は、何で芸能界を目指さなかったんだろう、という “いかにも” なタレント顔をしております。
ちょっと不思議。
ま、お陰で無事に、私の腕に迷い込んで来れたのだけど……。
あ、だからムネのせいか!!
うーん………… (絶句)。
首から上が完璧に似てくれたのは見事だが――やっぱ、そこまで似るのかなぁ……。
私は、弥が上にも、あの5番目に 「好きだ」 と言った女の子のことを思い出してしまう。
これで彼女のあの輝かしいムネが我が娘に宿りさえすれば、必ず勝てるのに!
「いいかい、女の子が絶対に負けちゃダメだぞ。 シアワセを手に入れるためには――」
と、言い聞かせてはいるのだが……。
当の本人は 『フレッシュプリキュア』 の方が良いらしい。
◇
こればっかりは、現時点では何とも言いようがないです、ハイ。
結果は神のみぞ知る。
嗚呼! だけど、私も知りたい (笑)。
〔第3話 =了=〕