第五
私は身支度を整え、鏡の覗き込んでは笑顔の練習。
常に笑顔を絶やさず主のために尽くす、私はこんな執事にあこがれていました。
でも旅をしたいのも私の欲です。
だから私は決めました、理想とする主に仕えるため旅に出ると。
つまるところ主探しの旅なわけです。はい。
朝食をとった後は、テントを畳み《月衣》にしまい次の街を目指して歩き始めました。
特に理由などなく、ただ途方もない旅路です。
……ちょっと体が臭ってきたような気がするので《月衣》でそんな 常 識 吹き飛ばしました。
なお、燕尾服は執事の命といえるべき象徴なので厳重に管理しています。
……しばらく歩いていると街が見えてきました。
「おまえどこの執事だよ……」
そう言ってきたのは門番兵の人でした。中々に怪訝そうな表情だったので、きっと私を怪しい執事とでも考えているのでしょう、どうにかその誤解を解きたいので私は素性を話すことにしました。
「私は一人旅をする執事でして、理想となる主を見つけるため旅をしております。この格好は執事であるものの証……常に私は着ております」
「なんとまぁ……トチ狂った執事もいたもんだな」
「光栄です」
「褒めてねぇんだが……。まぁ別にここはそこまで厳重じゃねえよ。どうぞ《ジッス》へ貴行を歓迎しよう」
そして私はその街へ足を踏み込んだ。