第一
そこの一室には燕尾服を纏う黒髪黒眼の少年が笑顔で金髪蒼眼の少女背後に立っていた。
「お嬢様お茶です」
「ん」
「お嬢様お召し物が用意できました」
「ん」
「お嬢様少し髪が乱れております、髪をとかしますがよろしいでしょうか?」
「ん」
「では参りましょうか晩餐会へ」
「いつも思うのだが名前は何故教えてくれないのだ?」
「はい、真名は私が本当に仕えたい主にしか教える気がないので……すみません」
「まぁ執事が優秀なのはいいことだ、いつかは執事の名前聞いてみたいな……」
少女は俯き、自身がソレに値しないことを理解していた。
だから悔しい。執事がこの家に来て早3ヶ月にもなる、それなのに見せ掛けでしかない主従関係しか執事と少女の間に形成できていない。
私はその黒髪が好きだ……。
黒眼で見つめられたときには胸が高鳴る……。
いつも絶やさない笑顔は私の支えになってくれた……。
こんな女らしくなく、仏頂面しかしなかった私に笑顔をくれた。
だけどこれで最後になってしまう……。3ヶ月の月日は早かった……でももう終わり。
3ヶ月というのは、執事が仕えるべき人であるかを見定める期間でもあったのだ。
だからこの晩餐会が終われば執事はこの屋敷から出て行くだろう。
父上が止めても、母上が止めても、屋敷全員の人が執事を止めても、彼は行ってしまうだろう……。
本当に執事はこの屋敷に尽くしてきた。
私が誘拐されそうになったときは身を挺して助けてくれた。
母上が病気で死んでしまいそうになったときは、《奇跡》のような力で助けでくれた。
私がそれを問いただしても執事は笑いながら「お嬢様の執事ですから当たり前ですよ」
……そこまで言うなら真名を教えてもらいと思うのは私だけか?
いつも隣にいて私を支えてくれた執事を……わたしは
《愛している》
長々と思い出に浸っていると、執事は笑顔を絶やさず手を差し出してきた。
「では参りましょう」
「ああ!」
涙を堪えたせいで微妙に声が大きくなってしまった。
執事に私の心境を知られたくない。
「愛しているぞ執事……(ボソッ」
「ん? なんですか?」
執事は首をかしげながら私に聞いてくる。
「なに気にするな……ただの戯言だよ」