29話 太陽系と太氷系
あれほどブラッドを苦しめたデカブツを
シャンはほんの数秒で始末した。
液体化の能力を持っていると
知ってはいたが、
その闘い方に笛は驚きを隠せなかった。
『シャンさんの戦い方って、
無敵で最強じゃない』
「異能の種だからな。
弱いわけがない」
『わたしの見てる、
インパクト値やプロテクト値の
意味がなくなるわね』
「攻撃力や防御力を知ることは基本だ。
しかしそれがすべてではない。
それくらいはお前もすでに
知っていることだろう」
シャンが笛に話しかける。
「笛様もご無事で何よりです」
「ランブの到着は少しあとか?」
「彼は機動力に問題がありますから、
置いて先にわたしだけ参りました」
「ふむ。
まぁいつものことだな」
「いつものことと言いますと
ブラッド様」
「?」
「王自ら前線に立つのは何度もお控えくださいと
お伝えしたはずです。
それが全盛期に程遠い戦闘能力しかない状態で
見切り発車のまま危険に身を投じるなど
愚の骨頂!
しかもテンカウントをすでに使った様子。
現状を理解し今日のことを深く反省していただかねば
我々が困ります!」
「わかっている。
お前の説教は長くていかん」
「いえ。
わかっておられません。
ブラッド様に何かあれば、
我々も命を絶つ覚悟……
ベーダー星は、いつもブラッド様と共にあります」
「ふむ……」
ブラッドはシャンに思いっきり弱かった。
「テンカウント使用できるまで、
何分でしょうか?」
「……10分少々だ。
奥にいる連中と戦っている最中に
それくらい経つだろう」
「では10分後に動きましょう」
「なにを言う。
俺は時間潰しなど性に合わん」
「そんな話はしていません。
笛様の身体が限界を迎えています。
10分間で最低限の回復をさせていただきます」
シャンが笛の身体に手を当てがうと、
温かいオーラが全身を包んだ。
笛は少しずつ体力が回復しているのがわかった。
あんなに強くて回復術も
兼ね備えているシャン——
このひとが一番すごいんじゃ……。
笛はそんなことを
思わずにはいられなかった。
——————
「どうですか笛様?」
「ありがとうシャンさん。
すごく身体が楽よ」
「それは良かった」
回復中は主導権を笛に戻していた。
ブラッドはシャンに説教を喰らってから
沈黙を続けている。
「ブラッドが静かだわ」
「いつものことです。
少しへそを曲げてらっしゃいます」
「子供みたいね」
「そうですね。
しかしブラッド様あっての我々で
あることは確かです。
ベーダー星人は皆ブラッド様を
敬愛していますから」
「気の毒ね。
ベーダー星人って……」
笛はシャンに支えられながら立ち上がった。
この先に3体の生体反応が見られる。
分析の能力が使えるほどに
体力は回復していた。
「わたしは回復専門の戦士ではありませんので、
全快できていないことに関してはお許しください」
「うん。
大丈夫だよ」
「この先に敵はいるのですね?」
「うん」
「ランブの到着まで少しかかりそうです。
この先の3体のうち、
1体がここのボスなのでしょう。
今回はわたしだけで片付けますので、
先に進みましょう」
そのセリフを聞いたブラッドが
笛の中から口を挟む。
『勝手なこと言うなシャン。
俺も戦う。
独り占めは許さない。
そう伝えろ』
しかし笛はブラッドの
その伝言を無視した。
「ありがとう、シャンさん」
笛はシャンに
すべてを任せることを選んだ。
先を進んで行く間、
ブラッドはずっと笛の中で小言を
呟いていたが、
笛はすべてスルーすることにしていた。
——————
金属製の大きく分厚そうな扉が見えた。
この奥にボスが控えている。
扉の前に立つと、
自動的に左右に分かれて開いた。
最初から一貫してここの侵略者は、
地球人を招き入れている。
扉の中に入ると、
広間があり、絨毯のようなものが一直線に
敷かれている。
その先に、
歪な椅子に座った侵略者が見えた。
そして左右に立つ、
精鋭の配下たち。
シャンは立ち止まることなく、
絨毯の上を歩いていく。
すると、
歪な椅子に座った侵略者が口を開いた。
「ベーダー星人か?」
「!?」
シャンが立ち止まった。
「調べでは地球という名の星に
攻め入ってから王の帰還がないと
聞いていたが……
地球人と手を結んでいたのか?」
「何者です?
あなた……」
「ファルア星人……。
聞いたことくらいあるだろう。
俺は第11部隊隊長のコーン」
「ファルア……
たしか太氷系の蛮族宇宙人。
なにが目的で太陽系まで
来たのですか?」
「なかなかの言われようだ。
蛮族レベルではベーダー星人も
大きく変わるまい」
その時、
ブラッドが笛の中で呟いた。
『なぜファルア星人が太陽系にいる?
しかもなぜベーダー星人が地球に侵略を
かけたことまで知っている?』
「あいつらはあなたたちの
知り合いじゃないの?」
『当然だ。
太陽系と太氷系の暴れ種として、
互いに名前ぐらいは知っているが、
交わることはない』
ブラッドが疑問に感じたことは、
シャンも同様に感じていたようで、
彼女は即座に質問を投げた。
「どうしてベーダー星人が
地球に侵略を仕掛けたことを
知っているのです?」
すると、
ファルア星人が不敵に笑いながら答えた。
「太陽系を監視していたからだ」
「監視?
自分たちの太氷系を
まとめ上げもしていないのに、
太陽系を監視とは……。
手順を間違えていますよ」
「支配は完了した……」
「?」
「だから次は太陽系なのだ」
「いささか信じられませんが、
それで手始めに地球を?」
「いや……。
手始めに太陽系にある複数の星へ一斉に
我々のダンジョンを張った。
ファルア星人の総力をかけて
一斉侵略を始めたところだ」
「!」
「もちろん、
お前たちのベーダー星にも
ダンジョンを張っている」
それを聞いた
ブラッドとシャン——
ふたりは息を呑んだ。




