#9
眞由が行ってみたいという店があるので、その場の流れから付き合うことにした。優來は、眞由を忘れてしまっていることを隠しながら、当時の担任の先生、運動会や卒業式等の思い出を話した。
「優來も最初分からなかったよ。当たり前だけど、すごく大人っぽくなってるんだもん」
「そうかなぁ。……眞由もそうだよ」
眞由が自分を呼び捨てにしたので、優來も彼女を呼び捨てにした。しかし当時、自分は彼女を何と呼んでいたのか……どれほど糸を手繰り寄せても見つからず、地味にもどかしい。
「サポーターの話だったよね」
眞由は暑そうに襟元をはだけた。
「そうだね。やっぱり、表向きは“極秘情報”だから、あんまりペラペラ人に話すべきじゃないんだよね。でも友達だもの。友達に友達のことを話すのは普通でしょ」
「うん……」
ちょっとややこしいが、そういうことになる。
「私のサポーター、すっごく良い子なんだ。……でも多分、皆もそうだと思う。優來のサポーターも良い子なんじゃない?」
眞由は口角を上げた。素直に可愛らしいが、確信というか、若干愉悦に満ちた表情だった。
「うん。優しい子だよ。嫌味なんて言われたことないし、カチンときたこともない。良い子過ぎて時々怖いぐらい」
「だよねー。優來はその子とまだ仲良い? どれくらいの頻度で連絡取り合ってる?」
「い……一応、毎日」
「ああ、それはすごい」
眞由は驚いたようにストローでドリンクをかき混ぜた。
「私の周りは皆縁を切ろうとしてるよ。それでも良いけど、どうせなら最後まで有効活用した方が良いと思うな。せっかくタダで与えられたものなんだからさ」
「愚痴や不満を聞いてくれる存在……として?」
「まぁ、そんなところ」
今度は薄く笑い、眞由は自分の連絡ツールを翳した。
「孤独じゃなければいいんだから、リアルが充実してる人にはただのガラクタなんだよ。大人になるにつれて手放す人が増えるのは当然だと思う。でも元々追い詰められて自殺するのは二十代の人が主だったから、子どもの時だけ持ってたんじゃあ意味ないよね。二十歳の記念で渡せばいいのに」
彼女は呆れた様子で吐き捨て、頬杖をつく。
「この制度はもうすぐなくなるよ。コストとリスクばかり掛かって無駄でしかないもの」
サポーターの存在を尊ぶわりに、彼女はとても冷静だった。だからかもしれない。ただ変な子と割り切ることができなかった。
眞由は周りが気付いていない何かに気付いているみたいだ。誰も知ろうとしなかった……いや、知りたがらなかったことにわざと手を伸ばして、危険を顧みずにサポーターの良さを語る。
その真意は到底理解できないが、優來は眞由と連絡先を交換した。
改めて友達として付き合おう。眞由が嬉しそうに笑ったので、優來も笑い返した。
大学生活では特に大きな変化は訪れず、あっという間に卒業式を迎えた。




