#3
母が思い出したように言った。
「優來のサポーターはどんな子かしら。女の子だろうけど、良い子だといいわね」
「サポーター……」
温かい。
それだけは覚えている。家族で囲んだテーブル、交わした言葉、全てが優しかった。この小さな空間が世界の全てで、願わくばここから一生出たくなかった。
家族さえいればいい……そう思っていた。
けれど十歳の誕生日を迎えたあの日、綿のような柔い思いは覆された。
跛行。
「サポーター」に自身のことを知られてはいけない理由は、単純に、遠慮なく話せていた秘密が話せなくなるからだ。
自分を全く知らない者だからこそ、汚い感情も恥ずかしい話も赤裸々に語ることができる為だ。
サポーターは必ず同じ性別で、同じ年齢らしい。しかしSNSなどで検索しても同じ名前の者はひとりとして該当しない。「梅原陽葵」は偽名なのだ。それは世界でただひとり、優來の為に作られた名前。
恐らく、陽葵も同じ状況にある。
「芰形優來」は間違いなく私の本名だけど、陽葵の端末に届く際は全く別の名前に変換されているんだ。でも相手がその名前を打ち込んだ時には、きちんと私の本名で変換され、本文が送られてくる。
こういった繊細なプログラムがリアリティを上げ、「自分」という人間がちゃんと認識されている、という満足感に繋がっているのだろう。心の底では誰もが、茶番に近い暇つぶしだと気付いているけど。
それでも今日も陽葵にメッセージを送る。
『最近気になるって言ってた男の子とはどう?』
メールは三分も経たずに返ってきた。
『全然。あれから一度も話せてない。やっぱ無理かも。ていうか優來は? 好きな人見つかった?』
文字を目で追いかけて、指を走らせる。
ま……だ……。
『まだいないなぁ。陽葵なら大丈夫だよ! 応援してる』
「陽葵」は自分と同じ、どこにでもいる女子中学生だ。孤独を分かち合う、半身。
「……初めてお手紙申し上げます。私は芰形まゆと申します。突然のことで何からお話したら良いのか悩んでおりますが」
「こーら。何勝手に読んでるの」
ある日、リビングのテーブルに色褪せた便箋が置いてあった。優來が声に出して読み上げていると、母が呆れながら取り上げた。
「それ、お母さんのサポーターに宛てた手紙?」
「そ。書き損じたやつね。大変だったわ、この時。十歳だし、ちゃんとした手紙なんて全然書いたことなかったから、お父さんとお母さんに教えてもらってね。私が子どもの頃は便利な連絡ツールなんて支給されてなかったから、ずっと文通していたのよ。このご時世にアナログだなって皆怒ってた。……でも私は結構好きだったのよね。同じ歳の女の子だし、可愛い便箋を買いに行って選ぶのが、プレゼントみたいで楽しかった」




