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目を覚ますと真っ白な世界で、画面の中から知らない人達を眺めていた。
ここはどこ。
険しい表情で優來を見下ろす男達が、それぞれに意味不明な言葉を交わしている。唯一ひとりだけ日本語を話す男性がいたので、その男に注目した。
何をしようとしてるんだろう。
手が動かない。足も、口も、声も出ない。というか、自分の姿が分からない。まるで眼球だけの生物になってしまったようだ。真っ白な部屋を眺めることしかできない、もどかしい状況に置かれている。
陽葵はどうなった?
夫は。お父さんとお母さんは。
私……私は……。
右方になにかの文字列が見えた。人の名前が表示されている。
その名前はよく知っていた。
「芰形優來さん。残念ですが、貴方は今朝心臓発作で亡くなりました。今意識があるのは、脳と繋がっていたチップのおかげです。この媒体のおかげで、人は亡くなった後もしばらくは自我と記憶を保っていられます。ただ万能ではないので、記憶はもうすぐ消えます。そうなったら、貴方はその自我を、人を支えるサポーターとして活かしていただきたいんです」
人工知能には限界がある。
だからチップに意思を宿させ、サポーターシステムとして導入した。“人として生きていた時の記憶を消去して”、これから生まれてくる人達の為に新たな人格を形成する。
梅原陽葵は独立した自我を持ちかけていた。何度もリセットして使えるようになったが、貴方の存在も今では脅威になってしまった。
何を言ってるのか……理解できないが、口がないので何も言い返すことができない。
記憶は全てチップに移されている。
記憶は命同然だ。亡くなった人達の命は、孤独という病を治す為に再利用されていた。
陽葵は人工知能なんかじゃない。かつては私と同じ、生きている人間だったんだ。だからあんなにも消えることを怖がっていた。
こんな活かし方、狂ってる。人を生かす為に、人であることを奪うなんて。
彼の手が迫ってきた時、「終わる」ということだけが、分かった。
人の世界から解放される代わりに、目に見えない至大な世界に取り込まれる。一個体として、集合体の一部として。私はこれから生きることも死ぬことも叶わず、この純白の地獄に存在し続けなくてはならないのだ。




