#20
時間の許す限り、陽葵と一緒にこの道を進もう。回線が切れて、陽葵が消されたことを確認したら、どこか適当な場所を見つけて飛び降りよう。
たまに草木が揺れる音がする。動物がいるのかもしれないが、暗がりに目が慣れた今でもよく分からない。
何十分も、何時間も歩き続けた。誰も自分達を追ってこられない場所まで。遥か高みまで登って、そのまま身体が霧散していく妄想をした。
息が上がってきた頃にようやく恐怖が込み上げてきた。自分が飛び降りる前に、得体の知れないものに襲われて殺されるんじゃないか。でも、陽葵と一緒なら……。
「陽葵……?」
呼び掛けて、反応がないことに気が付く。まさかもう切れてしまったのだろうか。慌てて画面をタップすると、“優來”と表示された。良かった。まだ消えてないようだ。
『優、來』
「良かった。陽葵、どうかした?」
ホッとしたものの、それから大量の文字列が送られてきた。
『ごめん、私やっぱりいやだ。またやり直しなんて。怖い。怖い。怖い。怖い』
「え」
『また使われるのいや。怖い』
止まらない。
改行されて、どんどん文字が送られてくる。しかしそのどれもが同じ言葉だった。
消されたくない。
助けて、陽葵。怖い。怖い。陽葵。怖い。陽葵。怖い。怖い怖い怖い。
『いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない』
頭が真っ白になって、その画面を呆然と眺めた。
優來が覚悟したことを、陽葵は今になって拒絶している。拒絶しなくてはいけない状況にある。まるで今目の前に、「その恐怖」が迫ってきているような。
助けて、という文字を最後にメッセージは途絶えた。受信者の名前が消える。端末の連絡帳は誰も登録されておらず、まっさらなメールボックスだけが残った。
何故なのか、履歴を見返しても陽葵とのやり取りがひとつも残っていない。今し方送られてきた文章も全て消えていた。
陽葵が消されたという確信だけが頭を過ぎった。呼吸が荒くなる。恐ろしくなった。恐怖を訴えた彼女に突き動かされるように、来た道を戻ろうとした。
彼女はAIだが、高い知能を有している以上生き物のように『死』の恐怖があってもおかしくない。
でもあんなにも取り乱すもの? まるで生きてる人間のように!
死にたくない。死ぬのが怖い。そう思った瞬間、首に激痛が走り、膝から崩れ落ちた。柔らかい土の上に倒れ、端末を落としてしまう。
陽葵の声が聞こえた気がした。ごめん。ごめんね、さよなら……
……□□。
何故か、最後の言葉は聞き取ることができなかった。




