#19
「いきなりごめんね、眞由」
『何? どうしたの?』
眞由は優來の身を案じているようだったが、語気が強まる。
「サポーター……陽葵が私だった。生きてる証で、生きる希望だった。でもこれから消されちゃう。新しい記憶の陽葵を渡されても嫌なの。私は今の彼女がいい。またやり直せるなんて思えないのよ……だからもう、私も終わりにしようかと思って」
『な……なに言ってるの。ちょっと落ち着いて。サポーターが消されるって、どうして』
「陽葵が私に、本当のことを話したから」
スマホを握る手に力が入る。
「ねぇ眞由……貴方は自分で気付いたんでしょう。彼らが何者なのか。……でも言わないでね、それを言ったら大変なことになるみたいだし」
再び静寂が漂っていたが、小さなため息が聞こえた。待っていると、眞由の一層低い声が鼓膜に入り込んだ。
『今どこにいるの』
「山。海と迷ったんだけどね」
『旦那さんはどうするのよ』
「ちゃんと書き置きはしておいたわ。明日の朝ごはんも用意してあるし」
ただ、明日の昼ごはんからは用意できない。
情がないわけじゃない。夫のことは昔は本当に好きだった。ただ生涯連れ添うには難しい人だった。
「後悔はしてないの。全部知ることができて本当に良かった。……付き合ってくれてありがとね」
電話を切る。
ちゃんと別れを言いたい相手は彼女だけだった。両親も心配だが、電話をしたら彼女以上に困惑させ、哀しませてしまうだろう。それはあまりしたくない。また、その哀しみに付き合うだけの余裕も元気もなかった。
死に場所を選べる人は恵まれてるのかもしれない。
再び車を走らせて、封鎖されている道の前でエンジンを止めた、スマホの懐中電灯がないと何も見えない暗闇を進む。もう片手には、陽葵と繋がった端末。
「ねぇ陽葵、いつまで持ちそう?」
『今夜は平気じゃないかな。でももうマークされてるから。明日の朝……には、駄目かも。あと優來の行動も監視されてるよ』
「いいよ。今からどんなに頑張っても、ここまで来られないでしょう」
やがて道は舗装されたコンクリートではなく、完全なけもの道に切り替わった。途中まで続いていた工事は、今は中止されてしまったらしい。足元にライトを向けると、すぐ左手は激しい急斜面になっていた。足を滑らせれば容易に死ぬことができそうだ。




