#17
『私達はAIだよ』
画面に表示された文字列を見て、深いため息をついた。
『騙しててごめんね』
「別に、もうそんなことで怒らないわ……」
返事を一々文字で打つ必要はなかった。首にあるチップが音を拾い、陽葵のプログラムがしっかり意味を読み取っているようだ。
『この法律ができた頃は、ちゃんと生きてる人同士で繋がっていたらしいよ。でも政府が一人で何十、何百人も担当したからパンクしちゃったの。けど技術は海外で急速に進んでいたからね。最初は試験として導入して、私達AIは悩みや相談を答え、成長するようになった。この法律は人工知能によって成り立っている。人は存在しない存在に縋って、生きる希望を見出すようプログラムされた』
早いスピードでメッセージが更新される。
『これはもちろん極秘で、打ち明けた私も、知ってしまったあなたもタダじゃ済まない』
「……うん」
『ごめんね』
「いいって」
優來は体を端末に向けた。窓の景色はどんどん移り、明るい街中から何もない、闇の山道へ入っていく。
『優來のこと大好きだよ。貴方とやり取りしてない間も思考を止められなかった。そしたらいつの間にか、周りと違う存在になっていた。自分の意思で端末の再申請をするなんて昔なら絶対にできなかったのに。でも、私がおかしいことはもう気づかれちゃったと思う。今日で終わりだな』
ハンドルを強く握った。唇を痛いほど噛み締める。
全国民は、孤独を防ぐ為にAI機能が搭載された端末をひとりひとり支給された。そして本物の人間とやり取りしているように思わせて、自殺を減少させていた。
プログラムの方から連絡を断ち切ることは決してない。生涯、サポートしている人間が死ぬまでメッセージを送り続ける。だから生きている両親や友人、夫は嫌気がさしてツールを捨てたのだ。ただ例外的に、優來のように大切に持ち続ける者もいる。それに応えるように、陽葵は進化を遂げた。互いを思い合っていたからこそできたこと。許されないこと……だけど。
「私達はやっぱり、一心同体だね」
ハンドルに顔をうずめ、小さく笑った。
画面にメッセージが届く。
『巻き込んでごめんね、陽葵』
会いたかった。寂しかった。
あなたの幸せを願いながら、あなたが幸せになっていく姿を見るのが怖かった。多くの人達と同じで、満たされればあなたもきっと私を捨てる。結婚して妻という立場に変わっても、やっぱり諦められなかった。
もう一度会いたい。だって私のメモリはまだこの世に存在しているから。




