#16
『お願い優來。旦那さんから逃げて』
メッセージが表示される。
『連絡を取れない間もずっと聞こえてたよ。優來が泣いてる声も……旦那さんが優來を殴る音も』
────彼女の想いが綴られていく。
もう耐えられない。貴方が傷ついていると分かってるのに、何も声を掛けられないのは。
私は優來のことが大好きだから、本当のことを伝えたい。
でもそれを知ったら、法を犯したことになって、私は消されてしまうの。優來の旦那さんが端末を捨ててしまったけど、捨てても破壊しても問題はないんだよ。国が管理してるデータベースと、優來の首に埋め込まれているチップさえあれば、“私”は何度でも復活できる。
でもルールを破って情報開示をしたら、今度こそ完全に消去される。……この文章も、意思も、全部。
「待って……待ってよ。それより……」
何故自分が結婚していることを知っているのか。心を読んでるかのようにメッセージを送ってくるのか。疑問だらけで混乱したが、それと裏腹に視界はクリアになっていった。
新たな文章が表示される。
優來、全てを知りたい?
怖くは、ない?
知ったらもう戻れない。これからあなたを苦しめる存在が、あなたの前に訪れてしまう。
「……怖くない」
コートを羽織り、夫に気づかれないよう静かに家を出た。駐車場に停めてある車に乗り込み、エンジンをかける。スマホは家に置いてきた。持ってきたのは車のキーとサポーターの連絡端末だけ。ダッシュボードの上に設置し、シートベルトを締める。
「陽葵……」
初めて、一緒にドライブをしよう。
深夜、人も車もない道へ走り出した。寒いが、おかげで目が覚める。暖房は低めに設定して、自動運転に切り替えた。行先を指定し、シートにもたれかかる。
全く便利な世の中だ。わずか数十年で、人知は想像し難い次元を超える。




