表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤独の再利用  作者: 七賀ごふん
芰形優來

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/22

#14



静かな早朝に速報が入った。

サポーターに接触しようとして、K県の女性会社員が事情聴取の為拘留されたという。

サポーターに会うことはそれほどまでに罪深いことらしい。


……陽葵との連絡手段を失った今の自分には、無縁の心配だが。


優來は夫の弁当を作りながら、テレビに視線を向けた。結婚してもう二ヶ月が経つ。しかし笑ってしまうほど変わらない。同じ家に長いこと住んでいると、甘い関係や新鮮な環境は訪れないのだと知った。


陽葵との連絡ツールは行政に故障・喪失届けを申請すれば代替品を送ってもらえるのだが、完全に迷いを断ち切る最後のチャンスかもしれない、と踏み留まった。それに盗聴器付きのチップを調べられたら、夫がツールを捨てたことが知られてしまう。それが罪になるとは思わないが、面倒事は御免だ。なるべく平穏に過ごしたかった。

無難で、平坦な人生を歩みたい。なんて。

十歳の頃とまるで違う。昔はもっとばりばり働いて、困っている人を助ける仕事がしたかった。結婚したら毎日夫のことを想って、献身的に支えてあげたいと思っていた。

でも今は退職して専業主婦に。……なっても、夫の為になにかしたい、という感情が薄れてしまっている。入籍前に自分が人とは考え方が違うことを伝えたけれど、夫は「それでもいい」からと押し切って聞かなかった。だから安心もしたのだが、改善もしなかった。


家事や任された仕事はやるけれど、プラスアルファのことは全くできない。やろうという気が起きない。もう自分という人間はフリーズしてしまったような気がした。この身体は遠距離からリモコンで操られている。右手を前に、と言われたら右手を前に上げる。子どももいないのに、日中は子ども番組を垂れ流すようになった。


夫の帰りが遅くなったことも口を出すつもりはなかった。会社の接待だと言われれば黙って頷いた。鞄に風俗店のカードが入っていても、ジャケットから女物の香水が漂っていても。優來は、献身的な妻を演じ続けた。

しかし一日の酒量が多すぎると思い、彼のグラスを取ろうとした時、後ろに突き飛ばされて頭を打ってしまった。しばらく痛んだものの、酔ってるせいだと言い聞かせ、極力考えないようにした。次の日も、また次の日も、夫は酒をねだった。躊躇うと頬を叩かれた。もう注意することも諦め、冷蔵庫に入っている酒瓶を手渡した。


日に日に、見えない部分に痣が増えてゆく。だが身体より心の方が青く、黒く変色していた。

今日は殴られなかったと安堵して布団に入る夜。

殴られる瞬間、いつも殺される、と思う。包丁を引っ張り出された日はもう駄目だと思った。だが夫は優來を傷つけるためではなく、自分に突き立てようとしたので必死に止めた。会社が経営不振になり、夫は解雇を言い渡されていたのだ。


いっそ飲み過ぎて、急性アル中になって逝ってくれないだろうか。そう真面目に考えてしまうほど、現在いまに参っている。


陽葵の声をベッドで聞いた時は本当に恐ろしかったのに、今はあの声すら懐かしい。


「優來、ポストに何か届いてたぞ」

「……ありがとう」


自分宛の小包。行政からだった。不思議に思いながら部屋に戻り、テープを剥がす。

「嘘……」

中に入っていたのは、サポーターの連絡端末だった。しかし、どう見ても新品である。なにかの間違いではないかともう一度宛名を見たが、やはり優來の名前が記されていた。

どうして、どうして。自分がツールを持ってないとバレたのか。でもそれなら何故夫には何も連絡がないのか。


震える手で電源を入れる。“あなたはひとりじゃない”というテロップが表示された。


あなたはひとりじゃない。


人は自分を映す鏡です。

思いやる心を忘れないでください。

信じられる人を捜してください。

孤独ではないと気付いてください。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ