#10
「えー。優來さん、まだそれ持ってるんだ」
憧れのリゾートホテル会社の広報部に入社できてからも、優來は陽葵との繋がりを捨てなかった。だが周りは違った。未だ大切に持っているその端末を、過去の遺物のように眺める。
昼休憩中、同期の女性が思わせぶりに首を傾げた。
「気をつけてね。ちょっと前に問題になってたよ~。サポーターの言いなりになって、人生めちゃくちゃになっちゃった人」
目を逸らし続けていたもの。そこに直に、無遠慮に触れられたようで言葉を失った。そんな優來に気付かず、女性は声を潜めて前のめりになる。
「優來さんも、サポーターに関わり過ぎない方がいいよ」
「うん。……そうね、ありがとう」
同僚のアドバイスを受け、ひとりの部屋に帰宅した。
鬱だ。一人暮らしを始めて孤独を感じていたが、毎日陽葵と連絡することで耐えられていたのに……。
世界でただひとりの理解者は、所詮暇つぶしの相手に過ぎないんだろうか。陽葵も優來のことを、そう思っているんだろうか。
考えたら怖くなって、その日は端末を見ることができなかった。誰に指摘されるまでもなく、自分はとっくに陽葵に依存している。陽葵を中心に生きている。しかし治す方法も見つからないことが惨めでならなかった。
『優來』
意識し過ぎたのかもしれない。その夜は変な夢を見た。
色が白で統一されているので、自分がいる場所が分からない。床も天井もなく、平面の世界線。
自分の身体もよく見えない。ただ、優來を呼ぶ声がずっと反響していた。
『心配だよ。優來は優しいけど、そのぶん弱いから』
……陽葵だ。
顔も声も知らないのに、何故かそう思った。
どこにいるの。訊きたいけど声が出ない。ただ、陽葵が自分にコンタクトをとろうとしていることだけ分かった。目覚めた時には汗だくで、馬鹿みたいに口をパクパクと開け閉めしていた。




