フラグ回収、村は焼け野原になりました
な、なんやねん。
は?
なんなんやねんや、この男!!!
急に重たい昔話なんか語り出したりして!?
こっちは急いで帰ろうとしてたんですけど???
……まあ、声がええから、そのまま聞き入ってもうたけども。
普通に変質者やん、この男!!!
脳内で忙しくツッコミ入れてる間に、男はぺこりと一礼して、何事もなかったみたいに去っていった。
なんやったんやねん、このイベント。
不吉なフラグ立てられた予感しかしないんやけど……。
⸻
数ヶ月後。
結論から言うと――
その予感は、ドンピシャで当たった。
その日は青空で、
鶏はうるさくて、
パンはちょっと焦げてて、
「今日も平和やなぁ」
とか思いながら洗濯物を干してた。
――その三分後に村が焼け野原になるとか、誰が思う???
思わんやろ!!
こんなタイミングでフラグ回収!!
早すぎやろ!!!
最初に聞こえたのは、悲鳴。
「きゃあああああ!!」
……あ、これ、絶対あかんやつ。
次の瞬間、
ドォン!!
地面が揺れ、屋根の向こうから黒煙が一気に噴き上がる。
「……は?」
一拍遅れて、鐘の音。
ゴォォォォン……!!
非常時の合図。
村が、ほんまに終わるときの音。
「ユリウス!!」
叫ぶのと同時に、エドウィンが剣を掴んで飛び出してきた。
その動きが、異様なほど早くて、異様なほど冷静で。
――あ、これ、経験者の動きや。
「家の裏から出ろ。森に向かえ」
標準語。
感情を削ぎ落とした声。
……はい来た。
この人がこの声出す時、事態は最悪。
「ちょ、エドウィン! あんたは!?」
「俺が時間を稼ぐ」
はい却下ーーー!!!
何自己犠牲ムーブかましてんねん!!
「家族置いて単騎突撃とか、主人公気取りも大概に――」
「レミ」
名前だけで止めてくるのやめて!?
その目で見るな!!
納得しそうになるやろ!!!
外ではもう、
剣の音、
火の爆ぜる音、
人の叫び。
そして、見えた。
黒い外套。
統一された動き。
戦い慣れた連中。
「影の傭兵団だー!! 逃げろー!!」
うわ出た!!
ほんまに出た!!!
あの変な語り部の話の中だけの存在であってほしかったわ!!!
「……来たか」
エドウィンの声が、低く沈む。
考えてる暇はない。
「ユリウス、走れる?」
「うん!!」
声は震えてるけど、泣いてない。
えらい。
えらいけど――母としては胸が潰れる!!
「森に入ったら、あの岩のとこまで。覚えてる?」
「覚えてる!」
よし。
「エドウィン!!」
「必ず合流する」
――約束。
信じるしかないやつ。
私とユリウスは裏口から飛び出した。
振り返った、その瞬間。
家が、燃えた。
十年住んだ家が、たった数秒で火の海になった。
…………耳の穴かっぽじって覚えとけよ、おんどりゃあああああ!!!!
森に入っても、煙は追ってくる。
後ろで剣戟の音。
怒号。
爆ぜる音。
ユリウスの手は、汗でぐっしょりやった。
「ママ……」
「大丈夫大丈夫!!
今は全力で逃げるターン!!」
ツッコミ入れてるけど、心臓はバクバク。
正直、めちゃくちゃ怖い。
――でも。
守るって、決めた。
三十路で異世界来て、
結婚して、
子ども産んで、
村で暮らして。
全部、ここで終わらせる気はない。
炎の向こうで、エドウィンが戦ってる。
影の傭兵団。
変な語り部の男。
焼かれる村。
……あーもう!!
「あとで全部まとめて精算したるからな!!!」
誰に言うでもなく叫んで、
私は息を切らしながら走り続けた。
この日。
私たち一家は、故郷を失った。
そして――
各地を放浪する旅が、始まったのだった。




