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人生イベント、制限速度を完全に無視しています

 エドウィンと出会った翌日。


「貴方たち夫婦に、神からの祝福を!」


 司祭の声が高らかに響いた瞬間、私は隣に立つ夫――エドウィンと唇を重ねた。

 カーン、カーン、と教会の鐘が鳴り、村人たちの拍手と歓声が祝福の波となって押し寄せる。


「……レミ、必ず幸せにする」


 真っ直ぐな視線。

 不器用やけど、嘘のない言葉。


 …………なあ。

 そろそろ、ツッコンでええか?


 ええよな?

 ええって言うまで、おばちゃん止まらへんで?


 ほな、言うで――


 なんやねん!!!

 このハイスピード結婚式は!!!


 私、異世界転移した時点で、エドウィンと結婚確定ルートやったん!?

 そういう仕様やったん!?


 昨日な?

 森で助けてもらって、そのまま村に連れて行かれて、

 村長の家で挨拶して、

 気づいたら今日の式が決まって、

 そこから挨拶回りと式の準備や。


 ……いや、流れ作業すぎへん?


 あんたら、人を疑うちゅーこと知らへんの!?

 どう見ても私、不審者やろ!!!


 いや、不審者ちゃうけど!

 善良な日本人やけど!!!


 …………はあ。

 もうツッコミ疲れたわ。


 ……ええわ。

 ここまで来たら、この流れ、乗り切ったる!!!



 そして、その夜。


 初夜の例にもれず――

 まあ、その……もちょもちょと、もちょもちょしまして。



 十ヶ月後。


 エドウィンにそっくりな顔をした、元気な男の子を産みました。


 …………ええか?

 ここまで、一年未満やで?


 結婚してから、やない。

 出会ってから、一年未満。


 三十年生きてきて、

 ついこの間までオタクで独り身で、

 ホールケーキ一人で食べ切ろうとしてた女がやで?


 異世界転移 → 即求婚 → 翌日結婚 → 十ヶ月後出産。


 人生の重大イベント、

 詰め込みすぎやろ!!!


 ……まあ、それでも。


 結婚してからの日々は、悪くなかった。

 むしろ、日本にいた頃より楽しい。



 エドウィンは村の剣術の師範代で、

 朝は鍛錬、昼は若者や警備隊の稽古、夕方には何食わぬ顔で帰ってくる。


 私はというと、

 結婚生活……もとい、異世界生活に慣れるのに奮闘中やった。


 まず困ったのが、生活魔法。


 この世界では、家事の大半を魔法で済ませるのが常識らしい。


「洗濯は〈ラヴァージュ〉」

「掃除は〈ル・ネットワイヤージュ〉」

「水は〈オー〉、火は〈フラム〉」


 ……なんで詠唱、フランス語!?


 発音難しいし、

 魔力操作いるし、

 そもそも私、魔法初心者やし!!


 結果。


 服びしょ濡れ。

 砂埃大爆発。

 水は出えへん。

 鍋は焦げる。


 さらに致命的なのが、

 魔力量、少なすぎ問題。


 連続使用で頭ぐらぐら。

 夕方には動けへん。


 「家事なんて魔法で楽勝」って、

 誰や言うたん!!!


 ……けど、そこは腐ってもオタク。


 ネット小説知識と、

 村のおばあちゃんたちと、

 エドウィンの指導のおかげで――


 半年後には、なんとか使いこなせるようになった。


 どや。

 やればできる子やで。



 次に困ったのが、食文化。


 味付けが、塩。

 ひたすら塩。


 肉も塩。

 スープも塩。

 野菜も塩。


 香草?

 ある。

 あるけど、クセ強すぎ。


「これ、何の草?」

「薬草よ」


 ……味覚より効能優先かい!!!


 それでも三ヶ月もすると慣れてきて、

 火加減、塩加減、焼き方、煮方――

 工夫する楽しさが分かってきた。


 村のおばちゃんたちも優しくて、

 私は私で日本の知識を返す。


 そうやって、少しずつ、居場所ができていった。



 ――そして。


 私のお腹は、少しずつ大きくなった。


「……なあ、エド」

「どうした?」

「たぶん、赤ん坊できた」


 一瞬の沈黙のあと、

 強く抱きしめられた。


「守る。二人とも」


 その言葉は、重くて、温かかった。



 出産の日。


 小さな泣き声が響いた瞬間、

 すべてが報われた気がした。


「……俺たちの、息子だ」


 赤ん坊が指を握り、

 エドウィンが泣いた。


 ……ああ。

 この世界に来て、正解やったんかもしれへんな。



 改めて言うけど。


 人生イベント、

 スピード違反にもほどがあるわ。

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