三十路おばちゃん、誕生日に異世界転移する
――杉山麗美。
本日、めでたく三十歳の誕生日を迎えた、おばちゃんである。
イベント事は大切にするタイプや。
せやから今日は奮発して、有名店のチョコレートホールケーキを買ってきた。
現在時刻、誕生日当日の夜。
目の前には、輝くチョコレートケーキ。
フォークはすでに手に持っている。
完璧や。
……まあ、ホールケーキを買ったとはいえ、オタクで独り身なんで、食べるのは私一人なんですけどね。
え?
一人で食べ切るには多すぎる?
ええやんか!
誰に迷惑かけるわけでもないし、こちとら年に一度のホールケーキを一人でドカ食いできる日を、めちゃくちゃ楽しみにしとるねん!!
……って。
また一人でボケてツッコんでしもうた。
…………はあ。
歳やね。
「ほな、いただきまーす」
切り分けたチョコレートケーキのピースに、そのままかぶりつこうとした――その瞬間。
ガチン。
「……は?」
視界から、ケーキが消えた。
「はぁぁ!?
ケーキ、消えたんやけど!?
高かったんやけど、あのケーキ!!
食べる前に消えてしもたんやけど!!!」
パニックのまま顔を上げる。
「……って、ここ、どこなん!?
なんで私、森の中におるんのや??」
気づけば、部屋着のまま。
靴も履いてへんし、カバンもない。
それなのに、なぜか食べようとした姿勢のまま、地べたに座っている。
「……私、不審者やん。
どう見ても不審者やん!!」
てか、ちょっと待て。
「この状況……
昨今のネット小説でよく見る、異世界転移ってやつちゃうん?」
いやいや、タイミングおかしすぎやろ!
なんで、人生で一番楽しみにしてたケーキにかぶりつく、その瞬間なん!?
最悪にもほどがあるやろ!!!
――グルルル。
「……え?」
背筋が、ぞわっとした。
「この唸り声……狼やん!!
え、待って!?
私、もしかしてここで死ぬん!?」
ええー!?
こんな死に方ある!?
誕生日に!
ケーキ食べる前に!?
最悪通り越して、最大凶悪やわ!!!
「こっち来んなや!!
この駄犬が!!!」
叫びも虚しく、茂みから現れた狼が、こちらへ跳びかかってくる。
――あ。
これ、終わったわ。
「……フン」
次の瞬間、銀の閃光が走った。
スパッ、と乾いた音。
狼の首が胴体から離れ、血飛沫を上げて地面に転がる。
「…………大丈夫か?」
剣を手にした美丈夫が、心配そうにこちらを覗き込んでいた。
……助けてくれたんは、めちゃくちゃありがたい。
けど。
(なんでこの人、顔真っ赤なん?
茹で蛸みたいやねんけど)
「あんちゃんのおかげで無事やわ。おおきになー」
「…………そうか」
なんやこの反応。
しどろもどろで落ち着きないなあ。
まあ、命の恩人やし、ええ人そうやし……聞くだけ聞いとこ。
「あんな、あんちゃん。
私、身寄りも金も何もないんよ。
なんか、市役所的なとこない?」
異世界でも行政はあるやろ。
たぶん。
知らんけど。
「………………俺と結婚して下さい」
「……は?」
「この剣に誓って、あなたを生涯幸せにすると誓います」
……え?
(唐突すぎん!?)
思考、完全停止。
いやいやいや!
私、市役所的なとこないか聞いただけやで!?
……と、目が合う。
子犬が捨てられたみたいな目で、こっちを見てる。
顔は真っ赤。
しかも、めちゃくちゃええ美丈夫。
……これは……
これはあかん。
断れへんやつや!!!
狼から命助けてもろた恩もあるし。
どうせ日本におっても、恋愛も結婚も縁がなかったオタクの独り身やし!!!
――よし。
この際、やったろうやないの!!!
「ええよ! 結婚しよ!
……で、あんちゃんの名前は?」
「!!!
ありがとう……本当にありがとう」
涙ぐむ美丈夫は、それだけで一枚絵やった。
「俺はエドウィン。
エドと呼んでくれ」
「私は……レミ。
レミや!
これからよろしゅうな、エド!」
――杉山麗美。
改めて、レミ。
本日、三十歳の誕生日を迎え、
バースデーケーキを食べ損ない、
異世界に転移し、
狼に襲われ、
助けてくれた恩人の――エドの求婚を受けた。
おばちゃんです。
……ん?
そろそろツッコんでええか?
確かに私はイベント事、好きやけども。
好きやけどもな、神様…………。
これはさすがに、盛りだくさんすぎや!!!
この、あほんだらあ!!!!!!




