8話 俺は、まだ明日を殺せない
明日から、何をしようか。
一度は「逆を行こう、引きこもってしまおう」と思った。でも、それで本当にいいのか?
魔物を倒すか?村や町に行くか?
……そもそも魔物って、本当に「悪」なのか?
人間にとっては敵かもしれない。でもあいつらだって、ただ生きようとしているだけじゃないのか。ライオンがシカを喰うのと同じように、魔物が人間を襲うのだって、ある意味自然の摂理なんじゃないか。
俺が魔物を倒せば、人は助かる。でもその先に待っているものは?人間が増えすぎて森を切り開き、環境を壊し、バランスが崩れていく未来……。
だったら俺は何のために殺そうとしているんだ?
「人間だから」という理由だけで?それじゃ俺も、ただ偏った存在と何も変わらない。
じゃあ何もしないのが正しいのか?弱肉強食の摂理をただ静かに見守るのが、自然に忠実な姿なのか?
でも人を助けるのだって、同じくらい危うい。
病気を治す。食料を増やす。戦争を止める。俺が力を示せば、人は頼ってくる。頼られれば期待され、期待されればもっと大きなことを求められる。
村が町になり、町が国になり……
そして、いずれまた戦争が起きるかもしれない。
そのとき俺は、どっちの側に立つんだ?勝つ側か。負ける側か。それとも両方を殺して終わらせる側か。
介入すればするほど、責任は重くなる。弱肉強食を崩したなら、今度は人工的な秩序を作らなきゃいけない。でも俺に、そんなものを作り維持できるのか?
自然の摂理に逆らうこと自体が、傲慢なんじゃないか。地球でも「野生動物の保護」と言っているけど、結局は人間の都合でしかない。ここでもきっと同じ様なもんだろ? 俺の都合で、世界を変える権利なんて、本当にあるのか?
どっちを選んでも、後悔しそうだ。どっちに進んでも、手は血で汚れる気がする。
静かに夜は更けて行く。
明日、何をすればいいんだ?
魔物を倒す?
人間を助ける?
どれを選んでも、正しくない気がする。
……やっぱり、引きこもるのが、一番マシなのかな。最初に感じた方針を信じよう。
そうだ、魔石。
今日、魔石を見つけた様に、もしかしたら地中に魔石が埋まってる可能性あるのではないか? 探せば、生活に困らない程度の収入は得られるかもしれない。それで好きに生きよう。もし、魔物に襲われたら、それは自己防衛って事で良いだろう。
それでいい。派手な冒険も、英雄譚もいらない。ただ静かに、この世界の一員として生きていく。
そう決めて、俺は横になった。
でも、心の奥底で何かが囁く。
「それで本当にいいのか?」
「お前には力がある。使わない力は、ないのと同じだ」
「いつか後悔する日が来る」
目を閉じる。
明日のことは、明日考えよう。
少なくとも今夜は、何も決めなくていい。何も殺さなくていい。何も始めなくていい。
ただ、この静かな夜が、永遠に続けばいいのに。
そう願いながら、俺はゆっくりと眠りに落ちていった。
まだ、明日を殺す勇気はなかった。
明日という可能性を、まだ摘み取れなかった。
ただ、時間が過ぎるのを待つだけの、弱い俺がそこにいた。




