2話 神様のトラップ
「よし……この世界、俺が制覇してやるぜ」
一瞬、胸が熱くなった。
全属性魔法に聖剣、生産スキルに収納スキル。そして極めつけは――ネットショップ。
これだけ揃っていれば、確かに世界を掌中に収めることだって夢じゃない。力任せに突き進めば、きっと頂点に立てるだろう。
……でも、次の瞬間。
「……めんどくせぇな」
力で制覇した後、どうするんだよ?
政治、権力争い、派閥工作、敵対勢力の暗躍。問題が起きるたびに力でねじ伏せるのか?それって、めちゃくちゃ忙しいじゃん。責任も増えるし、自由もなくなる。
いわゆる賢者タイムが来た。
よく考えたらさ、ネットショップがあるじゃん。現代の通販が、この異世界でそのまま使えるんだぞ。衣食住から娯楽まで、何だって手に入る。最初から戦う必要なんて、ないんじゃないか?
森の静けさの中で、俺はようやく気付いた。
これは完全に神様のトラップだ。
くっくっくっ……。
危ねぇ危ねぇ、騙されるとこだったぜ。
39歳のおっさんを舐めんなよ。
俺様は逆を行く!!
そう、徹底的に引きこもるんだ。
俺は縦穴シェルターに座り、さっそくネットショップを起動した。
ふむふむ……。
トップ画面左側に大きなカテゴリ一覧。
タップすると細かい項目がどんどん開いていく仕様だ。検索機能がないのはちょっと面倒だけど、まあ時間はいくらでもある。問題ない。
水は魔法で出せるだろうから、まずは食べ物だな。早速「食品」カテゴリへ。
お、サンドイッチ発見。
300円。日本円表示か。いいね。
よし、これにしよう――とポチッ。
『残高が足りません。お金または魔石を投入してください』
……だよね。
そうだ!金ならある!!
いつもジョギングする時は、財布から千円札を適当に抜いてポッケに放り込んでいる。間違えて一万円札とか入ってるかも!
俺はポッケに手を入れ、枚数を確認した。3枚あるぞ!よし、3千円は確保!あとは、、、
神様〜お願いしますぅ。
残念な事に一万円札は無かったので所持金は3千円だ。
神様のケチンボ。
まあいいや。とりあえず全財産ぶっこむか。
魔石さえ集めれば後でなんとかなるだろ。
有り金全部をスクリーンに投入。
右下の残高表示が3,000円に変わった。
「よし!」
サンドイッチをポチ。
ふわっと目の前に現れる。
おおお……!
すげぇ。マジで出てきた。
感動と同時に、この便利さに笑いが止まらなくなった。
調子に乗った俺は、高級ビール6パック、枝豆、唐揚げ弁当デラックス、ポテチ、ビーフジャーキー……買えるだけ買った。
最後には残高0円。
構うか!
今夜はパーリーだ!豪勢に行くぜ!!
まずはビール!グビグビッ!
「かぁーっ、たまんねぇ……!」
一通りビールを飲み尽くし、食べ物を完食した後、ふと気付いた。
……ちょっと寒くね?
このまま土の上で寝るのかよ?
しまったぁーー!!
やってしまった!!
肝心の寝袋、買うの忘れてた!!!
食欲に目が眩んで、完全に頭から抜け落ちてた。
俺……馬鹿か?
もっと計画的にやらないとダメだろ。
とりあえず水でも飲むか。
「ウォーター!」
拳くらいの水球がふわっと出現。
……次の瞬間、ドボシャッと土の上に落下。
あ。
俺……馬鹿か?
慌てて紙コップを買おうとしたら、もちろん
『残高が足りません。お金または魔石を投入してください』
完全にやっちまってる。
仕方なく、空になったビール缶の上にウォーターを出現させた。
……ちょろっとしか溜まらなかった。
がっくりと項垂れ、自分のアホさ加減に呆れる俺。
幸い着ているのはトレーナーの上下で、トレーナーにはフードが付いている。フードを被った。ランニングシューズは履いたまま、
……もう寝る。
ふて寝だ。
チクショー……。




