1話 バグか?チート過ぎるぞ!
39歳、独身、ごく普通のサラリーマンだった俺は、いつものジョギングコースを走っているとき、ふと路地の奥にゆらゆらと光る「何か」を見つけた。
好奇心に負けて近づいてみると、それは渦を巻くようなゲートの形をしていた。次の瞬間、足がすくむような感覚とともに、視界が真っ白に染まった。
気がつくと、そこは見知らぬ深い森の中。湿った土の匂い、聞き慣れない鳥の声。嫌な予感は的中してしまったらしい――どうやら本気で異世界に飛ばされてしまったようだ。
今の俺の格好は、グレーのトレーナーの上下に、NIK○のランニングシューズ。ジョギングしてすぐ帰るつもりだったから、腕時計もスマホも財布も持ってきていない。ただ、帰りにコンビニで何か買おうと思って、財布から札を数枚だけポケットに突っ込んでいた。
その時、頭の中で声が響いた。
『おめでとうございます!転移者ボーナスを獲得いたしました。』
ビビった。いきなり頭の中で声が聞こえるなんて、SFかよ。
『全属性魔法、錬金術、聖剣、鑑定、アイテムボックス、ネットショップ。以上のスキルを獲得いたしました。ステータスで確認して下さい。』
「へっ?」
声はもう答えない。どうやら自動音声のようだ。
「ここはどこだ?」
当然、返事はない。ナビ機能は付いてないらしい。
まずは周囲の確認だ。薄暗い森の中、大きな木々がうっそうと生い茂っている。5分ほど歩き回ったが、危険な気配は感じられない。鳥や小動物の気配はあるが、それ以上はなさそうだ。
「よし、ひとまず安全そうだな。まずはスキルを確認しよう」
ため息混じりに呟くと、一呼吸おいて「ステータス」と叫んだ。
おおっ!
目の前に半透明のスクリーンが浮かび上がった。ゲームのUIみたいだ。表示されているのは6つのスキル名。日本語だったので、内心ほっとした。
全属性魔法各一種
錬金術一種
聖剣
鑑定
アイテムボックス
ネットショップ
え?
なにこれ?
凄すぎやしないか?
普通一つだけでもチートやろ?
どれも超強力なスキルじゃねーか?
ありえない!
しかも、最後のネットショップって笑。
これどう考えてもバグってる。
間違いなく、この世界で最強クラスだろう。
「これ、どうやって使うんだ?」
また独り言。スクリーンは無言のまま。
「とりあえず、タッチパネル的な奴かな?」
指を伸ばし、「全属性魔法」に触れた。スクリーンが切り替わり、9つの属性がリストアップされた。
火
水
緑
土
雷
氷
風
光
闇
「おお〜、すげぇーいっぱいある!」
思わず声が弾んだ。魔法が使える。しかも全属性。これは明らかにチートだ。各一種だけど、これだけで充分すぎる。
興奮を抑え、現状を考える。まずはシェルターだ。魔法があるなら、魔物だっているはず。暗くなる前に身を隠せる場所が必要だ。
「土」をタップすると、表示されたのは一語だけ。
『ディグ』
「ん?英語で『掘る』だったな、確か」
これは使えるかもしれない。近くの大きな木の根元に向かい、手をかざした。少し照れくさいが、叫んでみる。
「ディグ!!」
パンッ!という軽い音と共に、拳一つ分の穴が地面に開いた。深さ約10センチ、四角い穴だ。
「おっ、これは便利じゃないか」
何だかマイクラみたいだ、と一人笑いする。調子に乗って、もう一度。
「ディグ!ディグ!ディグ!」
あれ?根っこが出て来た。土魔法だけに土だけが対象か。木の根っこが邪魔にならない場所で行うとするか。
穴は広がり、深くなっていく。夢中になって掘り進め、気がつくと縦穴が1メートル四方、深さ2メートルほどになっていた。
「あれ?出れなくなった笑」
縁に手をかけて這い出ようとするが、少しきつい。
「ま、いっか」
次は横穴だ。縦穴の壁面に向かい、「ディグ」を連発。横に1メートル四方、奥行き2メートルほどの空間を掘り進めた。少し汗ばみ、軽い疲労を感じ始める。
「ふー……結構、MPを使ったってことかな?」
HPやMPの表示はない。ステータス画面をいじってみたが、シンプル極まりない。最初のページはスキル名のリスト、タップすると使える技が表示されるだけだ。
今のところ、確認できたのはこうだ。
火 ー ファイア
水 ー ウォーター
緑 ー グロウ
土 ー ディグ
雷 ー サンダー
氷 ー アイス
風 ー ウインド
光 ー ヒール
闇 ー ダークネス
錬金術 ー ポーション
鑑定 ー サーチ
アイテムボックスはタップしても反応なし。まだ何も入れてないからだろう。ネットショップはタップすると、まるで通販サイトのような画面が表示されたが、詳しく見るのは後回しだ。そして、聖剣もタップしても何も無い。聖剣の技とかあるのかと思った。これも今は後回しだな。
とにかく、簡易シェルターは完成した。縦穴から横に掘った空間は、大人一人が横になって寝るには十分な広さだ。入口を何かで覆わないと、夜間の寒さや虫が心配だが、今はこれで良しとしよう。
暗くなり始める空を見上げ、深い森の奥から何かの鳴き声が響いていた。
穴の中に腰を下ろし、俺はわずかに光るステータス画面を見つめた。
整理しよう。
まずは、戦闘力だ。
魔法は全属性使える。
きっと賢者並みだろう。
聖剣は、きっと剣術が無双って事だろう。
剣と魔法の世界だと仮定しても
その最強の剣と最強の魔法だ。
どっちか一つで十分じゃね?
次に、生産系だな。
錬金術でポーションを作る事が出来れば、ポーションを売れば良い。もちろん、自分でも使えるしな。
そして、ネットショップだ。これも売れば、簡単に莫大な富を得る事が出来るだろう。
次に、サポート系か。
これはアイテムボックスだな。
いわゆる収納ボックスだな。
ありとあらゆるものを収納出来れば、動く倉庫な様なもの。
最後に移動手段だ。
うーん、これは難しいな。
ネットショップで車って買えるのか?
まぁ、良いや。
どう考えてもオーバースペックやな。完全に。
俺はニチャっと悪い笑みを浮かべた。
「よし……この世界、俺が制覇してやるぜ」
土魔法のディグの制限を加えました。
氷魔法追加。
魔法の属性設定は基本の8属性プラス緑という感じで。




