第四話
翔太が――愛香が五味達に虐められるのは、昼休みだけではない。日によっては、放課後も虐められる。
虐めの場所は様々だ。学校近くの公園。近くの川沿い。校舎裏。
今日は校舎裏だった。
「今日もオナニーショーだ。 エロ動画みて、目一杯シコれや」
愛香の周囲には、六人。五味、偽物、真紀、小町、翼、優花。
六人に囲まれながら、愛香はパンツを脱いだ。
「じゃあ、今日の川野君のオカズを発表しまーす!」
翔太のスマートフォンを操作しながら、五味が宣言した。すでに違法サイトにアクセスしてるのだろう。
「なんと、巨乳のお姉さんでーす!」
ゲラゲラと五味が笑う。翔太のスマートフォンから、AV女優の喘ぎ声が聞こえてくる。
周囲を囲む五人の女が、五味と同じような笑みを見せながら、わざとらしい拍手をした。
「おら、川野。今日のお前のお相手だ。巨乳でいい女だろ? 探した俺に感謝しながらシコれよ」
五味からスマートフォンを受け取り、彼がアクセスした動画を観た。画面の中で、胸の大きな女性がセックスをしている。激しい喘ぎ声を出し、大きな胸を揺らし、男の上で腰を振っている。違法の、無修正動画。
こんな惨めな状況なのに、愛香の――翔太の男性器は勃起していた。自分の意思など無視して、性的興奮を感じてしまう体。惨めで、無様で、情けない体。
今の愛香の体。
自分の境遇に、自然と涙が溢れてきた。泣きながら、愛香は、自分の男性器を擦った。笑う六人に見守られながら。手を前後に動かし、必死に擦る。早くこの時間を終わらせたくて。
それでも。こんな状況でも、男性器を擦っていると興奮が高まってくる。息が荒くなっている。男って、なんて馬鹿な生き物なんだろう。
ハァハァと息を荒くしながら、愛香は、絶頂が近付いていることを実感していた。このひと月、翔太として生活した。すっかり男の体に慣れた。もう少しだ。もう少しで射精して、この地獄の時間が終わる。
愛香が男性器を擦っていると。
唐突に、偽物が近寄ってきた。しゃがみ込み、愛香の――翔太の男性器を、じっと見つめてきた。
「ねえ、川野。ちょっとストップ」
偽物が、愛香に指示をしてきた。
つい、愛香は、男性器を擦る手を止めた。
「何だよ愛香。川野の奴、たぶん、結構いいところだったはずだぞ?」
五味の言う通りだった。愛香はもう少しで射精しそうだった。寸前のところで中断してしまった。
「あの、ね。よーく見ると、川野の奴、結構いいモノ持ってるなぁ、って思って」
「マジかよ」
偽物が言うと、五味は、少し呆れた顔になった。
「そりゃあ俺は、お前に、色んな男とヤッてみろとは言ったけどよ。でも、さすがに川野はねぇだろ?」
「えー。でも、案外気持ちよくなれそうだよ、コレ」
「愛香、マジで言ってるの?」
五味だけではなく、四人の女達も偽物を茶化し始めた。
「川野だよ? イケメンでもないし、チビだし。愛香なら、いくらでもイケメンとヤレるのに」
「まあ、でも。私は少し、愛香の気持ちが分かるかな。目の前でオナニーされたら、なんかムラムラするもん」
「えー。無理。私、男の人が少し苦手だけど、川野みたいのは、苦手って言うより生理的に無理」
「私はいいと思うけど? なんなら、川野と愛香がヤッてるところ、撮ってあげようか?」
口々に勝手なことを言う女達に囲まれて、愛香の手はすっかり止まっていた。男性器は握ったままだが。
「うん。私、ちょっと味見してみる」
偽物は、確認を取るように五味を見た。
「いいよね? 一回くらいなら」
「まあ、いいんじゃねぇか」
許可を求められ、五味は苦笑していた。どこか楽しそうではあったが。
周囲にいる六人の、身勝手でメチャクチャな会話を聞いて。愛香は、ガタガタと体を震わせた。
偽物は、最近、色んな男と寝ている。その中には、本来の愛香がなびくはずもない相手だっていただろう。
それでも。いくら何でも、翔太はない。こんなチビで不細工で無様な男とセックスするなんて、絶対に嫌だ。たとえ、今の自分の体に入っているのが、他の誰かだとしても。これ以上ないほど自分の体が汚されるようで、虫唾が走る。
偽物は、翔太の体を押し倒した。翔太の体に馬乗りになりながら、器用にパンツを脱いだ。そのまま、耳元で囁いてくる。
「ラッキーだね、川野。たぶんこれが、あんたにとって、最初で最後のセックスだよ」
「……やめて……お願い……やめて……」
翔太の体の中で、愛香は、ただただ絶望していた。
「……お願いだから……」
傍目には、奇妙な光景に見えるだろう。美女が醜男を押し倒している。醜男が、美女を拒否している。
愛香と翔太の体が、重なった。
偽物が、恍惚の表情を浮かべた。
「ああ、悪くない。むしろ、意外といいかも」
笑いながら、愛香の体が、翔太の体の上で腰を振った。発情期の動物のように。
翔太の目から、涙が流れてきた。体は翔太だが、涙を流しているのは愛香。自分の上で喘ぐ自分を見ながら、愛香は、ただ絶望に包まれていた。悲しくて悔しくてたまらない。惨めで情けなくて、嗚咽が漏れる。それなのに、体は興奮している。愛香という美女と、重なることができたから。
やがて翔太の体は絶頂を迎え、セックスは終わった。
翔太の男性器を自分から抜くと、偽物は満足そうに笑った。
「童貞卒業おめでとう、川野。でも、二度目はないから。さすがに二回も三回もあんたとしたいとは思わないし」
翔太の体から離れて、偽物がパンツを履き直した。
他の五人が、嘲りの目を見せながら拍手をしていた。
「童貞卒業おめでとう」
「おめでとう」
「おめでとう」
翔太の姿で、愛香は、地面に転がったまま嗚咽を漏らした。下半身裸のまま、目元を押さえて泣いた。周囲の六人から見たら、さぞ面白い姿だろう。つい一ヶ月前までは、愛香も、翔太を見下ろしている側だった。
「じゃあ、ヤることヤッたし、カラオケでも行くか?」
五味が言うと、女達は賛同した。
「じゃあ、ちょっと先に行っててくれや。俺、教室に忘れ物したから」
「はーい」
「早く来なよ」
「なんか興奮したから、カラオケボックスでヤッちゃう?」
口々に言いながら、女達が校門に歩いてゆく。
その場に残されたのは、五味と愛香だけになった。
五味はこれから、教室に忘れ物を取りに行くのだろう。
けれど。
五味は、その場から動かなかった。女達を見送り、彼女達の姿が見えなくなると、愛香の傍でしゃがみ込んだ。そのまま、耳打ち程度の声で訊いてきた。
「どう? 自分の体が男のオモチャになった気分は。見下してた奴になって、虐められる気分は」
「!?」
愛香は目を見開いた。目元を押さえていた手を下ろし、目の前にいる五味を凝視した。
「あんた……」
今の言葉で、愛香は確信した。五味は翔太なのだ、と。翔太は今、五味の体に入っているのだ。
「飯田さんの体に入った奴は、今度は、どんな男とヤるのかな?」
言って、五味は――翔太は立ち上がった。愛香を見下し、因果応報だよとでも言わんばかりの顔を見せ、そのまま立ち去った。
翔太が誰になったのかを突き止めたら、自分の体を取り戻してやる。この一ヶ月間、ずっとそう思っていた。地獄のような日々を送りながら、自分に戻れる日を希望に生きてきた。
でも。
愛香の心は、完全に折れていた。ポッキリと。二度と立ち上がれないほどに。
見下していた男の上で腰を振る、自分の姿を見て。




