ゴーストライター
玄関前で、佐藤は額に汗をにじませていた。
「……頼む、点いてくれよ」
カチ、カチ、カチ。
ポケットの中で見つけた百円ライターは、どうにも火を吐いてくれない。
近所の自販機前に腰掛けたヤンキー風の青年が、面白そうに声をかけてきた。
「兄ちゃん、火貸そうか?」
差し出されたのは銀色のジッポー。佐藤はありがたく受け取る。
――が、なぜか火打ち部分に指がかからない。
「……あれ? なんで……触れない?」
青年はニヤニヤ笑って言った。
「そっちこそ、なんで触ろうともしないのさ?」
佐藤は再び自分の手元を見て、血の気が引いた。
手が――透けている。
「お、おれ……」
青年はくわえタバコに火をつけ、煙をふっと吐き出した。
「やっと気づいたか、同業者さん」
その瞬間、佐藤の胸ポケットから、百円ライターが勝手にカチリと鳴った。
けれど炎は、やっぱり上がらなかった。