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30.夜の電話

夜の帰り道、風が頬をかすめる。

家に着いたナツは静かにスマホを取り出した。


自分の足でここまで来たことに、少しだけ胸を張れた気がする。

コートを脱ぎかけたそのとき、スマホが震えた。

画面には「雪さん」の名前。


「……もしもし?」


「ナツ? 2次試験、どうだった?」


その声を聞いた瞬間、張りつめていた気持ちがふっとほどけていく。


「うん……正直、わからない。でもね、やれることは全部やったよ」


「そっか」


電話の向こうで雪が小さく息を吐く気配がした。


「3次試験に進めるといいね。きっと大丈夫だよ」


「ありがとう。あのね、作文が出たんだ。お題が『アイドルについて』で」


「Springらしいね」


「うん……私、雪さんのことを思いながら書いた」


雪の沈黙のあと、ふっと笑うような声が響いた。


「……じゃあさ、もし3次に進めたら、それって私のおかげじゃん?」


「ふふ、そうだね。たぶん、雪さんがいなかったら、こんな景色、見ようともしなかった」


ナツは、電球のぬくもりの中で窓の外の街を見つめながら、ぽつりと言った。


「一人だったら、挑戦してなかったと思う」


「ナツ……」


「でも、まだまだこれからだよ。Autumnのオーディションもあるじゃん? 一緒に、もっといろんな景色、見ようよ」


「……うん」


返事をしながら、ナツは涙が出そうになっているのを堪えていた。

夢に向かって走る中で、誰かと手をつないでいる――そんな感覚が初めてだった。


「ねぇナツ、年末年始、お正月……ナツの家、行ってもいい?」


「え?」


思わぬ言葉にナツは思わず聞き返した。


「バイトもレッスンも休みだから。最後の追い込み、一緒にやりたいなって」


「……来てほしい」


「じゃあ、決まり」


電話越しの雪の声が、ほんの少し照れたように揺れていた。


「ありがとう、雪さん」


「ううん。……私こそ、ありがとうだよ」


本日、もう一話投稿予定

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