3 響子の怒り
響子の家に着いていつものように合奏練習が始まった。英介は
「最近ヴァイオリンの弓の持ち方をいろいろと研究してるんだよね。
弓を持つ右手の持ち方、握り方っていろいろと流派があるっていうことなんだけど、音階練習をしているとまだまだだなーと思うし、余計な力が抜けなかったりしてるみたいなんだよね。もっと右手の持ち方が良くなれば、もっと美しい音色で奏でられると思うんだ。」
響子は笑顔で
「研究熱心でいいわね。私、近頃思うんだけど、お世辞抜きであなたのヴァイオリンの音色、以前より良くなってきているわよ。」
「気休めは要らないよ。」
すると瑠璃子が
「私も良くなってきていると思うわ。素直に喜びなさいよ。」
「いやー、まだまださ。さあ、始めようか。」
いつも英介がヴァイオリンを弾き、伴奏のピアノは響子が弾き、瑠璃子は譜めくりをしたり静かに聞いたりしているのだが、最近は時々響子と瑠璃子が交代して、瑠璃子が伴奏をやったりするようになり、ますます楽しい会になって来ている。
ひとしきり練習したところで、休憩することになった。
「瑠璃子がロールケーキ買ってくるわ。」
と言って瑠璃子が出ていった。
必然的に英介と響子だけになった。英介はふと新井君の話を思い出し、今こそ行動する時だと思った。響子は譜面を眺めている。
「ねえ、ここの重音のところがちょっと気になるのよね。」
と言って英介の方を向いた、その瞬間英介は唇を近づけ、キスをしようとした。するとあまり運動は得意でないように見える響子は意外にも俊敏な動きでキスを避け、英介の頬に強烈なビンタを張り、ほぼ同時に膝で英介の急所を打った。
「いててて。」
英介は急所を押さえながらもんどりうって床に転がってしまった。ドラマなどを見ていると、普通はビンタだけだと思うのだが、響子の抵抗は激しかった。
「男って最低。さあ、早くヴァイオリンもって出ていきなさい。2度と来ないで。」