革命をおこしましょう
世には、上流階級と呼ばれる人たちが存在する。そして、そうではない人たちは彼らを自由だと思うだろう。傲慢だと、強欲だと、自分たちから奪っていく存在だと思うだろう。
まぁ、そういう側面があることは否めない。上流階級の人たちは、実際そういう面もある。そして、そうではない民衆のみんなは思うのだ。
私たち自身で、法を作るのだ。私たち自身の手で自由になるのだと。
これは革命が成る前の話。かつて、民衆を導いた一人の上流階級の令嬢の話。
民衆を導いた末、民衆に殺された令嬢の話。
この国は腐っている。どんな時代、どんな国でもそういうことを言う人はいるだろう。人という生き物はどれだけ自分たちが恩恵を受け、守ってもらっている存在であってもそれに反抗してみたくなる生き物だ。
しかしながら、この国は本当に真の意味で腐っている。民衆は貧富の差を問わず、全てを奪われ、上流階級の貴族どもは私腹を肥やす。それが、適度な量であれば一つの支配の形と言ってもよいのだろうが、彼ら貴族はその量を見誤っている。
そして、間違っているということに誰も気づかない。気づこうとしない。
誰もが忘れてしまっているのだ、自分たちを貴族たらしめているのが民衆であるということに。彼らから奪うことは、自分たちの立場を失うことに他ならないということに。
彼らの権利は、別に神に与えられた使命でも、運命でもない。ただただ、民衆によって与えられた地位でしかない。
そう、私だって。
私は最高位貴族として生まれ、貴族としての生き方、在り方、それらをお父様から教えていただいた。民衆を導き、彼らのために教養を深め、国を発展させる。そして、民衆の生活を少しでも良いものに変える。
それが、貴族としての私の使命だと確信していた。でも、違った。貴族学校に入学し他家の貴族連中との話は聞いていて、とても不愉快なものだった。
貴族学校を首席で卒業して、国の中枢として働き始めてすぐ様々な不正に築いた。横領、税の不正な徴収、平民を奴隷として他国への販売などなど挙げれば数えきれない。
私はすぐこのことを大臣クラスの方々に訴えた。もちろん、もみ消され私の左遷が決定した。このときばかりは、自分の愚かさを呪いたくなった。もっと計画立てて、時期を見計らうべきだったと。
そして、左遷先の部署では毎日一人で平民の嘆願書を読み、それを処分する業務についた。初めのほうは、すべての嘆願書についてまとめ上げそれぞれの部署に送っていた。しかし、一向に改善は見られなかった。 逆に送ってきた町や村の税を率先して上げるようなことをしていた。
直接、訴えに来る方もいた。
「お願いだ!税を、税を下げてくれっ!もう、これ以上…。これ以上、私たちから奪わないでくれ!」
私は何も言えなかった。骨と皮だけになったような姿で、己に残った水をすべて出し切るかのように涙を流す男に。
「もう、家族が死んでいくのなんて…。見たくないのです。お貴族様、あなたは飢えて死んでいくわが子を見とるつらさを知ったことはありますか!?」
「い、いえ…。」
「明日、食べるものがないことをわが子に伝えるときの…。この気持ちが!!」
私は、食べ物がないという状況にあったことはない。だから、そのつらさが真の意味で理解できるようなことは決してないのだろう。だから、また何も言えなかった。
「お貴族様、お願いだ…。お願いしますっ…。」
そう言って、泣き崩れ、私からの返答がないのを確認してから力なく出て行った。
本当に必要な人に、届かない。食料も、あの男の言葉も、私が抱いた思いも。
私は思った。あぁ、この国は腐っていると
民衆の手による革命が必要だと。
かくして、革命は始まった。私が彼ら民衆を扇動し、先導し。革命はこの瞬間に始まった。貴族どもを打倒した。民衆たちの思いは私が思っていたよりよっぽど強かったのだろう。革命が終わったとき貴族は残っていなかった。
すべての貴族は殺され、蹂躙され、凌辱された。今まで自分たちがされてきたように踏みつけにしたのだ。
そして最後の貴族、かつての最高位貴族令嬢も殺された。
私も貴族としての責任を取らねばならないと。旧時代の貴族が残っていてはいけないと。そして、民衆の手によって革命を終わらせるのだと。
彼女は最後こう言った。
「死ぬことが私の責任なのです。貴族としての責任なのです。あなたたち民衆はこれからまた、このなかの誰かを中心に社会を回すでしょう。今度は、あなたたちがその人を選ぶのです。あなたたちが信用に足りうる人を選ぶのです。そうすれば、今度はあなたたち民衆の時代がやってくるでしょう。」
「そして、この責任はあなたたちに移るのです。あなたたちが国民としての責任を持つのです。国民として、責任をもって生きるのです。」
革命は終わった。民衆の手によって。彼らの革命の一番の功労者を殺すことによって。そして、新しい国ができた。民衆一人一人が国民であるという意識を持った国だ。
そして、彼ら国民の心には一人の最高位貴族令嬢の思いをしっかりと継承していた。