92 難しい問題
「ここに住むつもりなの、アッシュ君は?」
「え? いや、そんなつもりはないが」
世界を見てみたいと願う彼の夢を知っていながら、そんなことを問う彼女の意図がわからず、言葉に詰まった。
「じゃあ、あんまり深入りしない方がいいよ。たとえ、アッシュ君が解決出来ることでもしちゃダメ。しかも、今回は国同士の問題でもあるから、なおさらね」
「何で?」
「だって、その土地の問題はそこに住む人が考えて解決すべきことだよ。
もし、アッシュ君が解決したとして、次に同じことが起きたとき、また外の人が解決してくれるだろうって甘えて何もしなくなる。自分たちで解決するからこそ、価値があるんだ」
ヒルデはいつもの無邪気な顔ではなく、真剣な顔をしている。そんな彼女の顔を見ると自分の考えがどんなに浅はかなものだったのか思い知る。
だが、そうだとわかっても、何かできることはないかと考えてしまう。
「手助けならいいと思うよ。どんなことが出来るのか僕もまだわからないけど」
「…難しいよな」
「リセイン侯爵や気に食わない騎士を殴り飛ばすだけでいいなら簡単だけど、根本的な解決にはならないもんね」
「いや、それじゃ、俺たちがお尋ね者になるだけだろ」
先ほどまで理性的に話していた彼女と同じなのかと思わず疑ってしまうそうになる。
とりあえず、ここで自分たちが考えても何もならないということがわかった。
「そういえばさぁ、スイムイ城ってダンジョンなの?
でも、前に行ったダンジョンと違う感じがして変だった」
「それは俺も気になったところだ」
ヌシンにはわからなかったようだが、霧から感じた独特の魔力はダンジョンによるものだ。
だが、ハッキリとは言えないが他とは何かが違うようにも感じた。
もし、スイムイ城がダンジョンであるのならば、長年魔物が間引かれずにいるため魔力が溜まっているはずだ。侵略後からとそのままということは、スタンピードが起こっていても不思議ではない。
だが、ヌシンの話が本当ならば、そんなことはなかったらしい。
スタンピードが起こるときは、その何年か前から兆候があり、ダンジョン独特の魔力がもっと広範囲で、魔法を使えない人でさえ感じられるほどだと言われている。
しかし、スイムイ城は近づくまでその魔力を感じることはなかった。
ギルドが管理しているのだ。そのようなことがあれば、このように街が穏やかであるはずがない。詳しいことはギルドで確認するしかないだろうが、わからないことだらけだ。
「穏やかな街か」
カーステンが訪れたときは侵略前のことだったので、まだここはティーダ王国でスイムイ城は国の象徴として建っていた。
そのときは、この街はどのような様子だったのだろう。
どうしても事情を知ったあとではユナの街の活気は空元気のようなもののように思えてしまう。彼がこの地に降り立ったときはそんなことはなかっただろう。
――見せてあげたいんです。ティーダが以前よりずっと幸福に満ちた土地になるのを
アッシュも見てみたいと思った。カーステンが感銘を受けたというティーダ王国の本当の姿を。




