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91 穏やかな海

「この跡地の霧から魔物が街に出て人を襲ったということはないのでしょうか」


 アッシュの質問にヌシンは首を横に振って答える。


「それが、一度もないんですよ。

 しかも、中に入ると冒険者など外から来た人は魔物に襲われるんですが、ティーダの民が中に入っても少し迷うだけでいつの間にか門のところに戻っているらしいです。

 宝を目当てに入った人がそう言っていたと祖母から聞きました」


「おばあさんが好きなんだね」


「え?」


「だって、おばあさんから聞いたって話をするとき嬉しそうな顔するから、そうなのかなって」


 ヒルデの言葉にヌシンは目を丸くしたと思ったら、照れて困ったような顔をした。


「そう、ですね。

 祖母はティーダが侵略された混乱時にみんなをまとめ上げ、エジルバ王国から解放されたあとも女手一つで父を育て上げながら復興に尽力したすごい人です。

 それだけじゃなく、祖母の意思を引き継ぎ、忙しくて僕に構えない両親に代わってよく面倒を見てくれていました。

 そのときにティーダ王国、最後の王のハリユンの話や侵攻前の賑やかな街の様子など色々話してくれたので、それがきっかけで僕はこのティーダという土地が好きになれました。

 色々な話を聞いて、祖母がより一層、尊敬する大好きな人になりました」


「女手一つですか?」


「はい。理由はわかりませんが、一人で父を産んで育てたらしいです。祖母はそのときのことはあまり話しませんが、そうとう大変な思いをしたはずです。何かあれば祖父から貰ったという腕輪を握りしめて悲しそうにしていた姿をよく見ました。

 だから、僕はそんな苦労をしてきたオバァに見せてあげたいんです。ティーダが以前よりずっと幸福に満ちた土地になるのを」


 そういって微笑むヌシンの目には強い意志を感じる。彼ならばいつか叶えられるのではないかと思わされるものがあった。



 他にも祖母から聞いたというティーダのことを聞いていると、アッシュたちの耳にヌシンの名を呼ぶ怒号が聞こえた。その声を聞き、ヌシンはため息を吐く。


「フシヌから、ここに行くって聞いたのかな。

 アッシュさんとヒルデさん、迎えが来てしまったようなので申し訳ありませんが、僕はこの辺で。」


 ヌシンは会釈すると声のするほうに歩いて行った。彼が向かった先では二人の男がおり、ヌシンに怒っている。そんな男たちをヌシンは落ち着かせようと困ったように笑って話している。親しげに話している様子からおそらく、撒いた護衛というのが彼らなのだろう。


「大丈夫そうだね。僕たちはどうする?」


「そう、だな」


 一番の目的であったスイムイ城が思っていたものとは違うとはいえ、見ることが出来たのでどうしようかと考えていると磯の匂いがしてきた。海が近いのだろう。


「海、見てみないか」


「じゃ、行こっか」




 ヒルデと海岸まで降りて、二人で海を見ている。海は波もなく、穏やかで、アッシュの心とは違い、空は澄み渡っている。


「アッシュ君、君が何を考えているのか当ててあげようか。ヌシンさんに何かしてあげられることがないのか、でしょ?」


 得意げにこちらの方を向いて笑うヒルデにアッシュは目を瞬かせる。


「何で、わかったんだ?」


「いや、だって、わかりやすいもん。急に口数少なくなるし、いかにも考え事してますって顔してるしでさぁ」


「そんなにわかりやすい顔してたか?」


 何度も首を縦に振るヒルデを見て、アッシュは少し反省した。彼女と一緒にいると自分はどうも気が緩むようだ。








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