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89 スイムイ城跡地

「あの赤い屋根の大きな家は? なんか他と違うみたいだけど」


 ヒルデが指差す方を見て、ヌシンは恥ずかしそうに笑う。


「ああ、あれは藩主の家、つまり、僕の家です。

 ティーダでは権力がある者の家は決まって赤い屋根瓦だったそうです。祖母が先ほど言ったように地位の高い神女(かみんちゅ)で、侵略後に廃墟と化したティーダを一人でまとめ上げたことから藩主に任命されたらしいので、昔ながらの権力者の家というわけではないんですよ」


 侵略という言葉にアッシュはうつむいた。

 カーステンが訪れたという地に自分も行くことが出来たことが嬉しくて考えていなかったが、ティーダを侵略したエジルバ王国の民である彼が観光などという浮かれた気持ちで来たのは間違いだったのかもしれない。

 街の人々が彼を見る目にそのような差別的なものがなかったので忘れていたのだ。


「ティーダの皆さんは、エジルバ王国の民である俺が憎くはないのでしょうか」


 顔を上げ、ヌシンの方を向くと彼は目を瞬かせたと思うとアッシュに微笑んだ。


「僕は祖母から侵略されたときのことをよく聞きました。

 しかし、それはそのときにあった悲劇を忘れないため、もう二度と繰り返さないためです。

 祖母のように侵略されたときに生きていた人なら、争いを引き起こした人物を憎んだかも知れませんが、エジルバ王国全ての人間が憎いとは考えなかったはずです」


 ヌシンのその目は嘘をついているようには見えず、真っ直ぐにアッシュを見ている。


「憎しみなどの感情はその人だけのもののはずです。それなのに関係のない子々孫々までその憎しみを受け継ぐというのは、おかしな話だと僕は思います。

 それに、エジルバ王国が隣国なのは変わらないので過去の憎しみで言い争うよりも、共に歩む未来を話し合う方がよほどいいと思いませんか?

 まぁ、これは僕の考えというより、オノコロノ国の一般的な考えだと思いますけど。現に、その後に生まれた僕のような人間はエジルバ王国について何も思っていないと思いますよ。

 何より、フシヌを守ってくれた貴方をエジルバ王国の民と言うだけで憎いなんて思うわけありません」


 アッシュはシゲルの教えを受けたことでオノコロノ国の考えを理解していると思っていたが、こうして、ヌシンの話を聞いていると自分はわかっていた気になっていたのかもしれないと考えさせられ、自分はまだ未熟なのだと思い知らされた。


「エジルバ王国の民である俺がティーダに観光に来るなんて、不謹慎かもしれないと思いましたが、そういって頂けると救われる気がします」


「そんな。僕は本土の人はもちろん、エジルバ王国の人にも観光に来てもらいたいと思っているんですよ。実際にティーダに来て、ここの良さをたくさんの人に知ってもらいたいと思っています。思ってはいるのですが、有名な観光名所もないのでなかなか難しいですが。

 あ、ここです。ここがスイムイ城跡地です」


 そう言ってヌシンが指差す方向には赤い大きな門があり、その側を二体の獅子の守り神が置いてある。

 しかし、その門の奧は白い霧が広がっているだけで何も見えず、霧がないところは何もない空き地が広がっているだけだった。








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