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84 雨降って地固まる

 彼の書いた論文の一つにレッドホースなどの人間にとって利益をもたらす魔物もいることを例に上げ、魔物の利用価値や魔物を全て倒すことで生まれる環境の変化の考察などが書かれていたほか、研究テーマのきっかけも書かれていた。その論文によると巣から落ちていた魔物を自分が育て、懐かれたことから、魔物は必ずしも倒すべき存在ではないのではないかと考えたとあった。


 ザグたちからリツハルトのことを聞いたときにそのことをアッシュは思い出したのだ。


「そのときに、そう言って欲しかったッス」


「いえ、本当にそうなのかわからないし、そうだとしたら何か事情があってリツハルトさん自身が言っていないのかもしれないと思ったので、俺から言っていいものかと悩んでしまって」


 深い、大きなため息を吐きながら、ゾインはリツハルトに聞く。


「リツハルト、なんで言わなかった」


 ドンチョが無事だとわかり、自分の肩に飛び乗ったポチを撫でていたリツハルトはその手を止め、答える。


「私のことを知った受付がお前たちと組んだら、必ずいい結果が出ると言っていたのでな。

 その受付から聞いて、全て知っているものだと思い込んでいた。

 だから、お前たちは私を理解し、その上で研究の協力をしてくれているものだと今まで思っていたのだが、そうではなかったようだな」


「え、そんなこと大事なことを受付の人が伝えないなんてことあるんッスか?」


「組んだ方がいいからってあの人、そう言っただけで、僕たち、リツハルトさんのこと何も聞いてないよ」


 それを聞いたアッシュは頭に手を当て、何とも言えない顔をする。

 自分の勘が組んだ方がいいと感じた彼女は組ませることができたことに満足して、ろくに説明しなかったのだろう。ミミーの被害に遭い、彼女を知っているアッシュからすれば、あり得ないことではないと思った。


「いや、最初から何かおかしいなって思ってたが、お前から詳しく話を聞かなかった俺たちも悪いな。それで、今日はなんであんなことしたんだ?」


 ようやく、リツハルトを理解したゾインは腕を組み、彼の方に顔を向けた。その顔は今までの彼を叱っているときのような険しさはなく、穏やかなものだった。

 怒っているところしか、アッシュたちは知らなかったが、それが本来の彼なのだろう。


「ああ。お前も昨日言っていただろう。フールピジョンは数匹倒したところでまた畑を荒らすと。ならば、畑に行こうとすると天敵であるクレバーホークが来るのだとフールピジョンに学習させることができれば、フールピジョンを倒さずとも被害が抑えられるのではないかと考えてな。

 思いの外、上手く行っているので他のことが見えないぐらい夢中になっていた」


 リツハルトの言葉にゾインたちは揃ってため息を吐いた。


「…今度からは俺たちに相談してからにしろ、わかったな」


 リツハルトは目を丸くしてゾインの方を見た。今回のことで自分を見限り、パーティーを脱退するように言われると思っていたからだ。

 ゾインの顔には彼を不快に思うようなものはなく、ただリツハルトのことを仕方ないと思い、許しているようにしか感じられない。ザグたちも同じような顔で笑っている。


「ああ、今度からはそうしよう」


 無愛想な顔から同じような笑顔を返し、彼は答えた。




「これって、雨降って地固まるっていうのかな」


 背を伸ばし、アッシュの耳元でヒルデは囁く。


「まぁ、彼も今回みたいな無茶なことは今後しないんじゃないか、たぶん」


 ゾインたちがどうなるのかはアッシュたちにはわからないが、お互い理解し合えたのならば前より関係は良くなることだろう。


 今後も面倒見のいいゾインたちがリツハルトを見放すことはないだろうし、彼も身勝手な行動は慎むようになるはずだ。



 そう思うと、案外、彼らは相性が良く、ミミーが彼らを組ませたのは間違いではなかったのかもしれない。彼女が最初にきちんと話していれば、ここまでこじれることもなかったと思うが。



 雨が降りそうなほどの黒い雲はもうどこにもなく、いつの間にか青い空が広がっていた。







楽しんで頂けたなら幸いです。

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