09 油断
ミントが詠唱するとマッドボアは何かを感じたように動きを止め、キョロキョロしだした。
そこにアメリアとキースがマッドボアに斬りかかった。
しかし、アッシュが言ったようにマッドボアの体は鎧の様に固く、剣が弾かれた。
アメリアはすぐに剣を構えなおし、再び斬りかかった。それは無駄に力が入ったものだった。
先ほどと同じように剣が弾かれる。
「アッシュが言ってたように、やっぱり固い」
「アメリア君、僕たちの役割は今、こいつらを倒すことじゃない。斬れるかは気にしてはだめだ」
キースの言葉に気づかされた。アメリアが冒険者になって斬れなかった魔物は今までいなかった。初めて自分に斬れない魔物が現れたことで知らずにムキになっていた。
「そうよね。ごめんなさい」
アメリアは一人ではなかったことに感謝した。自分一人だったら魔物を斬ることにこだわり、みんなを危険にさらしていたかもしれない。
攻撃されたマッドボアは怒り、アメリアたちに牙を振り回し突撃してきた。
アメリアは力を抜き、剣を構えた。
突撃してきたマッドボアの攻撃を剣で使っていなすことで攻撃を逸らし、距離を取った。
数回それを繰り返すとマッドボアはアメリアたちをなかなか倒せないことにいら立ったのか、攻撃が激しくなる。
マッドボアの力は強く、何度が剣を放しそうになったが、何とか持ちこたえた。
ある程度、時間稼ぎができたと判断し、アメリアたちはアッシュに指示された場所に向かうべく走った。マッドボアは苛立ちが収まらないようで、その場にいた全員が、アメリアたちの後を追いかけた。
アメリアたちが剣を構え、待っているとそこをめがけてマッドボアが突撃してきた。
すると、一匹のマッドボアが何かに躓き、倒れた。
後を追いかけていたマッドボアも何匹か同じように躓いて、倒れ、ドミノ倒しのように、倒れたマッドボアの上に止まりきれなかったマッドボアが覆い被さる。
アッシュの罠に足を取られたのだ。無事なマッドボアも大きな音に何が起きたのか確認するために立ち止まる。
「――蒸発せよ、蒸発」
詠唱が終わると水分が蒸発する音がした。マッドボアを見ると泥だらけで黒ずんでいた体は白茶けていた。
そこをすかさずアメリアが斬り込む。さっきまで剣を弾いていたマッドボアは簡単に倒れた。
「よし、剣が通った。ここからは任せて」
そういうとアメリアは剣を構えてマッドボアに斬りかかる。その光景は戦っているというよりも舞っているように美しかった。
しかし、いつものアメリアのような洗練さはなく、まるで憂さ晴らしに斬り付けているように見えた。やはり、初めて斬れなかった魔物ということで感情が荒ぶっていたのだ。
「アメリアさん、危ない!!」
マリーナの叫ぶ声があたりに響く。
斬ることにこだわり、周りが見えていないアメリアにマッドボアが襲い掛かったのだ。
そのマッドボアは泥だらけで黒ずんでいた。
ミントの魔法が及ばなかったところまで行き、再び泥をかぶったのだ。
最初に泥遊びをしていた時の様に全身に泥をかぶっていないが、大部分は泥に覆われていた。
叫び声で気が付いた時にはもう目の前までマッドボアが来ていた。アメリアは思わず目を閉じた。
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