80 冒険者たちの解体事情
ドンチョが攻撃を受け、怯んだところをザグが攻撃をするということを繰り返し、アキュートディアの数は確実に減っている。ただ、気になるのは倒されているアキュートディアはどれも角がないことだ。
アキュートディアはその名の通り鋭い角があることから名付けられた魔物だ。その後の研究で角があるのはオスのみだとわかったが、この森にいるのがメスだけとは考えられない。
「アッシュ君、また考え事?」
顔を覗き込むヒルデにアッシュは頷いて答える。
「ああ、確かなことは言えないが、警戒だけは怠らないほうがいいな」
ヒルデは頷くことで返事をした。
「これで、終わりッスかね」
大きく息を吐くザグが周りを見渡すが、もうアキュートディアの姿は見えない。
ドンチョも緊張を緩め、盾を地面に置き、アッシュたちの方を振り返る。
「二人とも、怪我はない?」
アッシュたちが首を横に振るとドンチョは安心したように微笑む。アッシュもザグたちに気づかれないように周りを探るが魔物の気配はない。どうやら、考えすぎだったようだ。
「良かったぁ。今回は他の人も巻き込んじゃうしで、どうなることかと思ってハラハラしたよ」
「ああ、それにしても倒した魔物の数多いッスね。俺ら魔法鞄持ってないからどうしたもんッスかね」
貴族は持っていることが多いが、魔法鞄は本来、所有する人が少ないほどの貴重な物だ。
アメリアたちは持っていたが、それはマテオから優遇してもらいようやく手に入れることが出来た物だ。魔法鞄と同じ性能のペンダントを持つアッシュや空間魔法を習得しているヒルデが特別なのだ。
「解体して持っていきますか? 俺、手伝えますよ」
アッシュは自分の鞄から解体用のナイフを取り出す。
大切な物はペンダントに収納しているが、ブランクときならいざ知らず、アッシュのときにペンダントを使用すると目立ってしまうので、よく使用する物だけは普通の鞄に入れるようにしている。
「本当に? 助かるよ。そのまま持って行くの大変だし、持って行ってもギルドに高い解体料取られちゃうもんね」
「まぁ、解体しても、雑とかってギルドに文句言われることもあるッスけどね」
魔法鞄は持っている者が限られるため、魔物はそのままギルドに持ち込まれることが多く、解体はサービスではないので料金を取られる。高ランクの魔物ならばいいが、低ランクの魔物ならば、依頼料や魔物の買い取りを合わせても、解体料の方が高いということもありえる。
魔物を狩って自分たちが損をしないようにするには解体を覚えるしかない。E級冒険者になるにはこの解体を覚えなければ一般的には昇格できないのだ。
基礎的なことはギルドが教えてくれるのだが、実は覚えなくても昇格することが出来ることがある。
その条件とは、パーティー内で一人でも解体ができる者がいることやギルドが特別に昇格を許した冒険者であることだ。高ランクの魔物を狩れるような冒険者がいつまでもF級冒険者のままと言うのは、ギルドとしても損失なので例外を設けているのだ。
ポーターは解体も習得している者が多い。なので、魔物の運搬だけではなく、解体も目的として雇い入れることが多いために、解体が出来ない冒険者も少なくはない。
魔物の解体ができるというアッシュにドンチョが喜んで近づこうとしたとき、魔物の気配を感じた。




