79 守られる
ポチの姿しか見えてないリツハルトはゾインたちの心配した通り、急に出てきた角のないアキュートディアにぶつかった。彼は平気そうに立ち上がり、再びポチを追いかけたが、ぶつけられたアキュートディアは立ち上がれなくなった。その様子を見ていた他のアキュートディアがリツハルトを追いかける。
アキュートディアは仲間意識が高く、仲間を傷つけたリツハルトが許せず、報復しようと追いかけているのだろう。リツハルトを攻撃しようと襲いかかるが、彼は気づいた様子はなく、何とか追いついたゾインが剣で防いだ。
すると、リツハルトを守ろうとしたゾインたちも敵と見なされ、アキュートディアと戦いながら、彼を追いかけるということになり、今に至るらしい。
ザグが説明を終えると同時に森に複数の気配を感じた。おそらく、他のアキュートディアが彼らを追いかけてきたのだろう。
同じく気配を感じ取ったザグとドンチョは構える。
「これは俺たちの所為なんで、何とかします。アッシュさんたちはそこでじっとしててくださいッス。絶対に守るんで」
武器を構えるザグたちの背を見て、ヒルデが小さな声で話しかけてきた。
「どうする、これ?」
「守られるしかないんじゃないか」
アッシュたちがアキュートディアと戦って苦戦するということはないのだが、そんなことは、ザグたちは知らない。知らないから、アッシュたちを守るなど言えるのだろう。
幸い、ザグたちが遅れを取ることはなさそうなので、彼らの顔を立てるためにも守られるほうがいいだろう。
そんなことを思っていると、アキュートディアが一匹、また一匹と姿を現わした。
アッシュたちを攻撃しようと一匹が突進してくる。ドンチョが突進するアキュートディアの前に移動し、盾で受けて攻撃の方向をそらす。攻撃が空振りに終わり、ふらついたところをすかさず、ザグが槍で突く。
「上手いな」
ザグたちの戦いを見てアッシュはボツリと呟く。
重さがあり、体感がしっかりしているドンチョが攻撃を受け、怯んだところを力はないが、素早いザグの槍で攻撃する。もし、力不足ならば、ゾインがあの大きな剣で攻撃するのだろう。幼なじみだけあって連携が上手く、また、武器の扱いも目を見張るものがある。
これほどの実力ならば、近いうちに昇格することだろう。
遠距離での攻撃が課題となってくるが、リツハルトを入れることによって魔法でそれを解消することができ、バランスの取れたいいパーティーとなる。
思えば、アメリアたちも実力はあるが、実践経験の浅さが問題だったが、アッシュがそれを補うことでB級パーティーへと昇格したと言える。
ミミーはパーティーの弱点を補えるメンバーを組ませることで、彼女が勧めている者たちは成功しているのだろう。
だが、ミミーがそれをわかっているとは思えない。彼女はしきりに勘がそう言っているからといって何故組むほうがいいのかという根拠は言わないので、本当に勘で言っているのだろう。
彼女の勘が鋭い洞察力によるものなのか、そうではないのかわからないが、組む人間の内情や相性などは考えていない強引で、迷惑な行為なのは間違いない。
アッシュ以外の冒険者からも苦情が来ただろうにそれを無視し、ミミーの好きにさせていたマテオに少し腹が立つこともあったが、もう終わったことだ。
解放され、自由になった今、いつまでもそんなつまらないことを気にしていては、時間がもったいない。そんなことを考え、時間を取られるより、まだ見ぬ世界に思いを馳せる方が余程有意義だ。




