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76 ヒルデの過去

「アッシュ君、嬉しそうだね。そんなにオノコロノ国に行くの、楽しみ?」


 口角を上げ、ヒルデはこちらを向いて笑う。思っていることとは違うが、彼女の得意げな表情に、アッシュもつられて笑う。


「僕も楽しみなんだ。もう、本当に、僕の生まれ育った国って窮屈でさぁ」


「そういえば、どんな国なんだ、ヒルデの育ったところって」


 採取のために下げていた頭を上げ、ヒルデの方を向くと、眉間にしわを寄せ、苦い物を口にしたような彼女にしては珍しい表情をしていた。


「両親がさ、もし他のダールエルフみたいに旅するのが嫌って言ったら育った国に居続ければいいって、僕のことを思ってくれたんだけど、まぁ、その国ってのが、本っ当に最悪だったんだ」


 国から国へと旅をするダークエルフが生まれ育った国に居続けるのだから、何か理由があると思っていた。ヒルデの話し方から両親との仲は悪くないのだろう。そんな娘が他のダークエルフのように国を出たいと言うなら彼女の両親ならすぐに了承すると思うのだが、何かどうにも出来ない事情でもあったのだろうか。


「周りを海に囲まれて閉鎖的だし、国に移住することを了承したら、逃げ出さないようにって貴族にして縛り付けてさぁ。しかも、僕を王子の婚約者にしたんだよ、信じられる!?

 それに、令嬢の教育って堅苦しいし、他の人は僕に嫌み言うし、その王子は僕を見るたびに罵倒するしで、もう最悪。」


「ヒルデが、貴族? 嘘だろう」


 ヒルデのことを信頼していない訳ではないが、感情を抑えようとせず、表情がクルクルと変わる彼女と貴族が結びつかず、思っていることを口にしてしまう。

 アッシュの言葉を聞いて、ヒルデは頬を膨らませ、拗ねる。そういう顔を見ると余計に貴族と言われても信じられない。


「嘘じゃないよ。それでさ、僕も両親も我慢が出来なくなって国を出ることにしたんだ。

 本当に、大変だったんだよ」


 子供のように拗ねている彼女を見るとわかりにくいが、相当な苦労があったということは容易に想像できる。

 ヒルデは拗ねるのを止めたと思えば、自分の手をじっと見ている。


「僕さぁ、前はもっと魔法が使えたんだよ。けどさ、最近なんか上手く使えなくなっちゃったんだ。頑張ったんだけど、今は空間魔法しか出来なくなったんだ。

 これって絶対あの国が僕になんかしたからだよ、間違いない」


 そういえば、ヒルデがそれ以外の魔法を使ったところを見たことがない。

 エルフは魔法に秀でた種族だ。とはいえ、魔法が苦手なエルフもいるだろうと考えているアッシュは彼女がそうなのだと思っていた。


 思い起こせば、彼女はダンジョンの魔力を感じ取ることが出来ていた。ダンジョンは確かに魔力が満ちた場所だが、魔法が使えるから感じ取れると言うわけではなく、相当の鍛錬により感じ取ることが出来るようになるのである。


 そもそも、習得が難しいといわれる空間魔法がヒルデはできるのだ。出来るようになるまで相当努力したことは、同じように魔法を学んだアッシュには言わずともわかる。


「魔法より、戦斧の戦いの方が好きだから使わないんだと思ってた」


 いつも笑顔のヒルデだが、戦斧で戦っている彼女は楽しそうだ。それを見て、直接武器で攻撃するほうが好きなのだと勝手に思っていた。


「確かに戦斧の方が好きだけど、使えるはずなのに思うように使えないってなんか嫌じゃない? しかも、原因があの国だと思うと余計にさ」


 戦斧が好きだと胸を張る彼女は強がっているようには見えない。魔法に固執している訳ではないが、納得できないのだろう。







ヒルデの令嬢時代の話を短編として『日食の人形令嬢は自由を望む』というタイトルで本日12時に投稿予定です。ジャンルは異世界恋愛なのですが、恋愛要素はないに等しいので恋愛系の話は苦手という人もどうぞ読んでみてください。

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