75 薬草採取
次の日もギルドに行って依頼を見てみたが、時間が掛かりそうなものばかりだった。
アッシュは依頼にない魔物を狩るというのは、どうも好きではない。危険なのがわかっている魔物ならば話は別だが、そうではなく、人に害を及ぼさない魔物まで狩ることにどうも気が進まない。
そんなアッシュを理解しているヒルデもそれに賛同し、薬草採取ということで野原に来ていた。
森もすぐ側にあるので時間があるのなら、そちらで採取してもいいかもしれないと思うが、雨が降りそうな黒い雲が出ているので、止めたほうがいいかもしれない。
「アッシュ君が依頼にない魔物を狩りたくないって、刀を教えてくれた先生の教えなの?」
「そうだな。先生の教えというか、オノコロノ国の考えらしい。たとえ魔物であったとしても同じ場所に生きている者同士、共に生きていくべきで、人が生きるために狩るのはいいが、邪魔だから全て狩るっていうのは傲慢な考えだとよく聞かされたよ」
あまり薬草に詳しくないヒルデに丁寧に教え、のんびりと会話をしながら薬草を採取する。
「薬草もその先生に教えてもらったの?」
「いや、パーティーの中で唯一の常識人っていう採取専門の人から」
「S級パーティーに所属してるのに常識人って、何それ」
「いや、常識人である彼があの人たちを抑えているからこそ、あのパーティーが成り立ってるんだ。
…うん、まぁ、あの人たちを抑えられる人を一般的な常識人とは言わないか」
確かに、他のパーティーメンバーが色々と異常過ぎて感覚が麻痺していたが、あのメンバーと一緒にパーティーを組んでいる時点で常識人とは言えないかもしれない。
しかし、冒険者としての常識などをアッシュに教えてくれたのは彼であり、教えてくれた知識はこうして役立っているのでいいだろう。
「あとさ、刀を打ってくれた職人ってどんな人なの」
「あぁ、それは俺も知らない」
アッシュの刀は元々刀を教えてくれた先生、シゲルが持っていた二本の内の一本であり、それを譲り受けたのだ。その刀というのはシゲルの幼なじみの友人である刀職人が打ってくれた物で、オノコロノ国を出るときに餞別として貰い受けた物だそうだ。
シゲルは国を出たあとも手紙でその幼なじみとやり取りをしており、アッシュに刀を渡したことも伝えているらしく、もし、彼がオノコロノ国に行くのならば挨拶をするように言われた。
もし、挨拶という目的がなかったとしても、他の国にはない文化を築いているオノコロノ国というのは興味深く、考え方などの影響を受けた国だ。
その土地に行き、自らの目で見てみたと思うのは当然だと言えるだろう。
「知らないが、この刀を打った人で、シゲル先生の友人だ。実直で真っ直ぐな人で間違いないと思う」
腰に携えた刀に触れるとアッシュに応えるような刀の鼓動を感じた。
思えば、アッシュが落ち込んだときはこうして励ましてくれた気がする。言葉を交わすことは出来ないが、心は通じていると思ってもいいのだろうか。