08 マッドボアは泥に塗れる
マテオからの受けるように言われた依頼にはC級相当の魔物であるマッドボアの討伐と書いてあった。どうやらマッドボアが池の近くを縄張りにしたようで一般人に被害が出る前に討伐してほしいという依頼だった。
依頼を受けたアメリアたちは準備を整え依頼場所に到着した。そこには十数匹のマッドボアが泥遊びをしていた。
「依頼書に書いていたより多いわね」
依頼書には数匹と書いてあったが、その報告より遥かに多い。報告の後に増えたのかはわからないが、報告よりも厄介であることは間違いない。
「あいつらはどうやって倒せばいい?」
杖を構えながらミントがアッシュに聞いた。討伐予定である魔物とその対応方法を調べるのは彼の仕事だ。
本来ポーターの仕事は冒険者の倒した魔物やパーティーとして必要な備品の運搬である。
必要であれば戦闘もすることもあるが、まれである。
アッシュの場合、戦闘をすることはないが、戦闘中のアメリアたちのサポート、討伐対象の調査、ポーションなどの必要な物の用意やパーティー資金の管理などの雑務も行っている。
「マッドボア自体はそれほど脅威じゃない。だが、あいつらは泥をかぶるとその部分が鎧の様に強くなる。その強さは剣も通さないほどだそうだ」
それを聞いて思わず息を呑んだ。目の前にいるマッドボアは楽しそうに泥遊びをしてどれも泥をかぶっていたからだ。
「だからここを縄張りにしたのかもしれませんね。ここは湿気が多くて一度濡れると地面がなかなか乾かないらしいですから」
事実、アメリアたちもここに来るまでぬかるみで何度も足を取られそうになった。そして、今いる場所もぬかるんでおり、戦闘中も足を取られないように気を付けなければならないだろう。
一方、マッドボアたちは鎧のもととなる泥がいたるところにある。マッドボアたちの泥を流したとしてもすぐに泥をかぶり、防御を固めるだろう。
「アッシュ君、マッドボアは一般的にはどう討伐するか、わかるかい」
アメリアたちはどうすればいいのか困惑しているなか、キースは冷静に尋ねた。
「一般的には水の魔法で泥を流して、その部分を攻撃して討伐するらしい。
だが…」
アッシュは思わず言葉に詰まった。これは数匹での対処法だ。十数匹も相手にする場合を考えると数匹の泥を流して攻撃しようとしても、泥をかぶった他のマッドボアが邪魔をしてくるだろう。その隙に泥を流されたマッドボアは再び泥をかぶる。
考えれば考えるほどにアメリアたちに不利だ。
「ミントがあいつらも含めてここら一帯の水分を魔法で蒸発させる」
「ミントさん、そんなことできるんです」
そんな魔法は聞いたこともないためマリーナが思わず聞いた。
マリーナの疑問にミントは頬を膨らませた。
「できる。古代エルフ魔法に湖の水を一瞬で干上がらせた蒸発の魔法がある。それを使えば楽勝」
「ミント、すごいわ。それを使って泥が鎧の役割を果たさなくなったところを私たちが攻撃すれば倒せる」
「でも…」
アメリアの弾む声にミントは言いよどむ。それはいつもの自信があるミントにしては珍しいことだった。
「何か問題があるのかい?」
杖を強く握り、決意をしたようにミントは口を開いた。
「古代エルフ魔法は威力が強い。強いからどうしても魔力が周りに伝わる。
だから、古代エルフ魔法を使おうとすると、魔力の流れを感じて魔物たちに悟られてしまう」
「つまり、ミント君が詠唱している間、僕とアメリア君とであいつらを抑えなければならないということだね」
キースの言葉にミントはうなずいた。
ミントの杖を握る手は強く握りすぎて白い手がますます白くなっている。プライドの高い彼女にとって、魔物ごときに魔力を悟られるなど認めたくないことなのだろう。
「ミントが詠唱を終える間ぐらいなら持ちこたえられるわ。
――私、一人だったら無理だったかもしれないけど、今日は違うから」
ぎこちない笑顔でアメリアは答えた。一人ではないことは心強いが、やはり、アッシュがと考えてしまう。
しかし、心にスキがあると魔物にそこを突かれてしまう。そうならないように一度目を閉じ、気持ちを切り替えた。
「なら、アメリアとキースさんはマッドボアたちを出来るだけ引きつけて、ミントの詠唱の時間が稼いでくれ。ある程度したら深追いせず、ここにマッドボアたちを誘導してくれ。ここならまだ湿気が少ない。草もあるから二人が引きつけている間に罠を仕掛けることができる」
地図の一部分を指差し、アッシュは提案した。
「なら、私はアメリアさんたちがケガをしないように防御を上げる魔法が切れないようにすればいいですね」
それぞれが頷き、配置についた。
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