73 トラブルメーカー
手が伸びた方を向くと、杖を持ち、肩にクレバーホークを乗せた無愛想な男が依頼書を持っていた。男は自分の後ろにいる男に声を掛ける。
「おい、次はこれをするぞ」
声を掛けられた大きな剣を持った男はかみつくようにして叫ぶ。
「てめぇ、また勝手なことしやがって。俺たちはパーティー組んでんだろう。
なら、パーティーメンバーであるこっちの意見も聞きやがれ!!
おい、聞いてんのか、リツハルト!!」
リツハルトと呼ばれた無愛想な男は叫ぶ男の言葉など聞いていないかのように、振り返らずに依頼書を持って受付の方へ歩く。無視をされた男は受付まで追いかけ、怒鳴っている。
「しかも、お前が持ってんのフールピジョンの討伐じゃねぇか。お坊ちゃんのお前は知らないだろうが、このクソ鳩はまだ芽が出てねぇ作物を食って枯れさせる農家の嫌われモンでよく討伐の依頼が出るが、数が多い上に、数匹倒しても懲りずにまた同じ畑を荒らすんだ。
そんな意味のねぇ依頼受けんなよ!!」
「あぁ、この男のことは気にするな。君はこの依頼書の手続きをするだけでいい」
どうすればいいか戸惑う受付の職員の様子もリツハルトは気にしていないようだ。
アッシュたちが呆然としていると長い槍を持つやせた男が話しかけてきた。その後ろには大きな盾を持った太った男もおり、申し訳なさそうな顔をして立っていた。
「お兄さん、すんませんッス。さっきの依頼受けようと思ってたんじゃないですか?」
「あ、いえ、見ていただけなので、お気になさらず」
手を振って気にしないように言うが、相手はどうも納得できないようだ。太った男が困ったように眉を下げて、提案してくる。
「すんません、リツハルトさんとゾインの兄貴が。お詫びに酒場で何か好きなもの頼んでください。驕ります」
どうするという目でヒルデが見上げてくる。遠慮しても彼らの気が収まらないだろうと考え、アッシュは頷いた。
席に着き、やせた男がザグ、太った男がドンチョと言って受付で今も揉めている二人の男とパーティーを組んでいることがわかった。
「でも、あんなに仲悪いのによくパーティー組んでるよね」
頼んだ飲み物を手にヒルデは疑問を口にした。アッシュも賛同するように頷く。
冒険者は時に命を懸けることもあり、パーティーを組んでいるのならお互いに命を預けることになる。仲が悪くてもそれぞれの役目を熟せばいいかもしれないが、命を預ける相手なのだ。仲が悪い者同士のパーティーで、もし、危機に陥れば何が起こるかは、容易に想像出来る。
ヒルデの問いに困ったような顔をしてザグが答えた。
「それがッスね」
元々ゾインとザグ、ドンチョは同じ村の出身で仲がよく、成人して村を出ると冒険者になると、村にいた時からザグたちをまとめて面倒を見ていたゾインをリーダーとしてパーティーを組んだらしい。
実力はあるが、いまいち伸び悩み、全員がしばらくD級のままだった。向上心がないわけではないが、それなりに生活出来ればそれでいいというのが全員の共通した考えだった。
だが、ある街に立ち寄ったときにリツハルトとパーティーを組むように強引にギルドの受付の職員から勧められた。最初は断っていたが、やがてその圧に負け、リツハルトが加入することになった。
魔法使いであるリツハルトがパーティーに加入してから、いままで苦戦していた魔物も討伐できるようになり、すぐに全員がC級まで昇格することが出来た。
それだけならよかったのだが、リツハルトという男はゾインたちの意見を聞かず勝手なことばかりをするトラブルメーカーだった。
魔物討伐中にリツハルトの意識が他に向き、危ない目にあったこともある。今日のように依頼を自分だけの判断で受けることも初めてではない。
三人に戻ればいいのかもしれないが、リツハルトが危ういところを彼らは何度も見ている。おそらく、一人になれば彼はすぐに魔物にやられてしまうだろう。
ゾインたちとしてもパーティーの一員だった者が死ぬのがわかっていて放り出すと言うことは出来ず、リツハルトのほうも居心地は良くないだろうにパーティーを脱退しようとしないらしい。
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